エピローグ 偉大なる勇者の休日
王様とRealのフレと僕とで三人一緒に牛丼屋をはしごして次は松屋だってところでビッキーがテーブル席にいた。奥の丁度四名テーブルのしかも上座に座ってる。
「…」
なんとも言えない感じだ。どうする?無視、これはできないな。このまま回れ右で店を変える事もできないだろう。既に目が合ってるのである。あの、この世の中の全てがどうでもよくてどうなってもいいって感じてる普通の顔じゃない。何か面白い本を書店で見つけたような、スーパーで大好きな企業が出した新製品を発見したような、にっこりというよりもニヤリ。自分自身の中で何か確信的で確定的なイベントが出てきた時の表情をされた。ビッキーと妻は賭け仲間でよくカジノで遊んでる。ここでそのまま帰ったり無視したら何かよからぬ嫌がらせをやってくる可能性もある。ビッキーは正直言って怖い。どう接すればいいのかちょっといまだにわからない。本質的に既婚者になった今でも唯一女性として見てるからだろう。地球が滅ぶような天災に見舞われた時にソーサーにカップを乗せて優雅にコーヒーを飲んでられるのはビッキーだけだ。そして間違いなく100年後も1000年後もビッキーはビッキーとして君臨し続けるだろう。そしてそれはひょっとしたら僕も同じなのだ。いわゆる神様なのだから。そんな神様が牛丼屋にいる。しかも。
「…」
新宿のお昼休みのサラリーマンやようやく食事の時間を作れた労働者でごった返す中、たった一人で四名用テーブルを占拠してるのである。…もはや犯罪に近い。
「何食べます?」
僕はとりあえず食券機に向かい合って三人に松屋の料理を見せた。
「ふーむ」
「牛丼特盛半熟卵で味噌汁を豚汁に変えてランチセットで」
絶対来たことあるだろ。そう突っ込もうかとした矢先。
「マッキー!!マッキー!マッキー!!!」
大声で叫ばれた。これで最寄りのカウンター席になんとなく座るという選択肢が断たれた。
「僕も牛丼の頭大盛りで」
「私もそれにしよう。マッキーの知り合いか?」
「ええ」
そして食券を持ってビッキーの四名用テーブル席に座った。
「お久しぶりー!元気でした?」
その素晴らしい笑顔にぞっとした。心の底から奇妙な違和感が噴き出てきてる。
「おや。この素晴らしい人はどなたかな」
「ええっと」
もういい。マナーもへったくれなもない。勢いのまま紹介してしまおう。
「ここの星の管理者をやられてるヴィクトリア・ローゼスさんですね」
「こんにちは〜。そんな感じじゃなくって、ただのマッキーの元カノってだけですよぉ」
それ以上話を膨らませないでくれ。収拾がつかなくなってしまう。
「マッキーのフレンドですね。こっちのことはあまり気にしないでください」
「はーい」
すげぇな。適応能力。
「王様も…」
どう説明したらいいかわからない。
「フレですね。職業は王様をやられてます」
「へー。すごーい〜」
いかにも人をバカにしたような態度と取るか、頭の悪そうなどこにでもいる俗な港区女子ってやつか、頭の上から靴の先までグッチで固めたセレブクイーンと取るか。
「もう引退したがね」
「え?」
驚いた。あの世界は?あの勇者の世界は?
「今はもう、私の手を離れたよ。私はもう、ただの一介の冒険者さ。ところで君も相当強そうだね」
僕との勝利で気を大きくしたのか?王様は挑発のようなオーラ混じりでそう言った。牛丼屋でそういうのやめてくれよ。あなたの行為は歌舞伎町にいるごろつきがやってることとそう変わらないぞ。
「そうでもないですよぉ」
ビッキーは口ではそう言うが目が楽しげだ。このまま二人でやらせてると地球がヤバイ。
「ビッキーどーしてここいんだよ?」
僕は小声で耳元で言った。ビッキーにだけは小細工は使わない。
「楽しそうでしたから」
ニコニコ顔で言われた。
「あ。番号きてる。取りに行かないと」
「ここは自分で取りに行かないといけないのか」
「セルフサービスっていうんですよ」
取りに行く時王様に言ってやった。
「そういうのはRealの中だけで挑発してやってください」
「おっと。しょうがないだろう?今私は人生で一番ハイになってるんだからね」
そう言われてどうしようもないと感じた。このまま四人でRealパーティやるしかないだろう。このままやってたら僕のメンタルが持たない。