エピローグ 偉大なる勇者と日常
妻の実家の旅館の一番の料理といえば、それはお蕎麦。大自然が育んだ手付かずの地下水を使用し、蕎麦も100%国産のブレンド。これは料理長と女将しかレシピを知らない秘伝の蕎麦。もちろん、蕎麦から派生する蕎麦湯も健康にいい。蕎麦を食べると痩せるし、血管だって柔らかくなるのだからダイエット嗜好だとかにもすっごいグッド。十割蕎麦と銘打ってるけど実際は若干の北海道産の小麦が使用されてるのを僕は知ってる。実際味の試し比べをしてみたけど、小麦粉が入ってる方が美味しかった。
「ほう」
旅館のダイニングで王様ともう一人Realのフレンドで食べる。もう一人のフレンドの方は特に気にしなくても大丈夫。
「ざる蕎麦。ですね。ずずずっとどうぞ」
お皿は聞くところによると一枚二百万円である。ちなみに僕の湯呑みは織田信長が滅茶苦茶欲しがってた平蜘蛛である。僕の数少ない自慢の逸品である。ちなみに歴史的名器とかがこの旅館の蔵には山ほど眠ってる。古い大倉、大きな古ぼけた倉庫は内側から封印されてあったりそれ自体一つのダンジョンみたいになってる始末だった。絶対お化けがいる倉庫。うん。もちろん僕はノータッチ。僕はどっちかっていうと洋画のアクションスタイルなのだ。洋画のホラーはお化けにも物理が効く。もちろんジェイソンや爪の長い化け物とか連続殺人鬼なんかは致命傷が致命傷になっていないこともあったりするのだけれども、結局最後はなんやかんや会って物理で倒れるわけなのである。日本のいわゆるジャパニーズホラーはちょっと違う。なんたって物理が効かない。やばい。多くがバッドエンドで全滅。大体三池崇史。超怖い。それも、この旅館は実際あったところは千年前ぐらいからあったらしいこともあって、色々やばいものはやばい。レベル1000を超えてるヴァミリオンドラゴンと魂を融合した僕ですら気持ち悪くなってくる部屋やら時刻だったりもする。妻が言うには精神汚染という物理魔法防御無効の汚染効果らしいけど、僕とかヴァミリオンドラゴンが気持ち悪くなってくるってマジで相当やばいと思う。
「ほぉ」
「どうです?」
「うん。なかなか美味だね」
「美味しいだけじゃないんです。体にもいいんです」
「ほう。我が王国にも取り入れようか」
そういうつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ。久しぶりに実家に帰ったけど、歴史が詰まった旅館だなぁって思う。そう思えばこの人だって相当な年齢いってるよな。そう考えたらちょっと普通に話せなさそうなので深く考えることはやめだ。
「この国の一般庶民はこのような美味しいものを食べてるのか?」
「いや。これは特別な食べ物ですね。普通の食べたいですか?」
「そうだね。君たちの世界の人間が普通どんなものを食べてるのかは興味があるよ」
「そうですか。それなら…」
新宿にはよく妻と買い物や映画や散策などをするので空間と空間を繋ぎ合わせた扉を作ってある。その扉を持ってきて新宿へ向かう。
「空間と空間…。空間超越能力。考えてもみなかったな」
そして三人で歌舞伎町のごった返しを練り歩いた。
「凄まじいな…」
吉野家に到着した。
「…」
ここの吉野家どーだったっけか?吉野家にもランクがある。牛丼の盛りが最悪で舐めてるとしか思えないぐらいの盛りをするところもあれば、きっちりとちゃんとした牛丼を出してくれるところもあるのだ。
「あっちも似たような店舗ではないか」
見ると僕の嫌いな牛丼屋だった。
「あれは違いますね。これです。日本国民に愛されてる早い安い美味いの三拍子揃った吉野家です。ちなみに吉野家にも盛りって呼ばれるどれだけちゃんと牛丼の料理の具材が乗っかってるのかに注目しないといけません。舐めてるところは本当に舐めてるから、ちゃんと店を選ぶのが重要です」
「スタッフによって量の裁定が違うのは、経営者にとって困るな」
「でしょう!?ちなみにこれって二十四時間やってて年中無休なんですけど、深夜の誰も居ない牛丼屋の盛りはスタッフ次第ですけどちょっぴり多いってケースが多いですね。すっごい盛ってくれたりもしてくれたり。これは玄人のやり方で、素人はちょっと難しいかもしれませんけど」
「スタッフも仕事が無ければ気力が無くなるからね。頑張り過ぎるのは良いことだよ」
「そうなんですよ!」
僕の熱い牛丼熱が伝わってくれたみたいで嬉しい。
「あそこの黄色いのも似たようなポスターが貼られているね」
「松屋ですね。あそこも似たようなところですけど、牛肉の脂身があっちの方が多いって印象ですね。特盛の量はあっちに軍配上がりそうです」
「君はその盛りにこだわってるんだな」
そして実際に入ってみた。
「色々あるな…。とりあえずよく食べられてるオーソドックスなやつを注文しようか」
僕達はカウンターに座った。
「コスプレ?」
「外人筋肉ムッキムキじゃん」
そんなことを言われながらも牛丼の大盛を注文する。
「ほう」
すぐに出てきて、僕が食べ方を見せてみた。
「ほう」
そして牛丼大盛りをかっこんでガツガツ食べてくれた。
「うーむ。うまいなこれ!!」
さっきとテンションがちょっと違うくないですかね。
「そりゃ男の子が大好きな食べ物が詰まってますからね。肉とご飯、タンパク質と炭水化物。そして砂糖。肉体労働者のみならず頭脳労働者だって大好きなんですよ。サラリーマンだって肥満を恐れずにもりもり食べてるんです」
「焼肉丼も超特盛できるんです?」
「できますよー」
「それお願いします」
もう一人のフレンドがついに焼肉丼に手を出してきた。なかなか慧眼の持ち主だな。焼肉丼と牛丼は似て非なるもの。お肉が食べたいなら焼肉丼だ。間違いない。ネギ抜きを頼むとさらにベター。
「忙しく生きてるのだな」
もぐもぐもぐ食べてから。
「休憩時間も限られますからね」
「次は松屋へ?」
そういう事言っちゃうのか。牛丼屋をはしご。そうか。なるほどなるほど。そうなのか。
「松屋もいいですけど、ラーメン屋なんてのもありますよ」
「ラーメンか。一風堂は食べたことがあるが…。まさかニッポンにもあるとはね…」
「違いますよ。違います。日本が発祥なのです。そして豚骨ラーメンは九州は福岡県久留米市で生誕したのが始まりです」
「ほう」
「福岡県は豚骨ラーメンの県とも言えるでしょう。つまり、全ての豚骨ラーメンは福岡県から始まったということ。つまり、始祖ってこと。そして僕の本籍地は佐賀県なんですけど福岡県に隣接してる左の方の県です。ここテストに出ます」
「なるほど」
「東京の人間に佐賀県がどこかわからない人が多いっていうよりも、佐賀県の場所が分かる人の方が少ないと言った方がいいでしょう。だから僕は佐賀県がどこかって馬鹿にした質問にこう返してます。福岡の左隣だってね」
ここまで言って気づいた。しまった。こうまでやってしまうと、福岡県のふんどしで相撲を取るようなものじゃないか。福岡に頼らなくても、佐賀は。佐賀県は。それだけでもう光り輝くことができる県なのに。
「地域の話はいいですから松屋行きましょう。松屋」
「そう?」
そして僕はお会計を支払う。
「スイカでお願いします」
僕のスイカには18300円入ってる。圧倒的戦闘力。これが末樹。マッキーの現在の総合戦闘力の数値化である。一度かざせば、叶わないものなどあんまりない魔法のカードと化してある。
「レシートは結構です」