エピローグ 偉大なる勇者の冒険
負けてしまった。これは僕の冒険という生き様と、勇者であった王様の生き様の比較だろう。年齢差は途方も無いほどの不利だという事実の結果。ヴァミリオンドラゴンの力と僕の力では、相手が有利条件の十分条件では手も足も出なくなってしまった。これは僕と王様の一対一。サシでの戦いだ。ヴァミリオンドラゴンの真髄を引っ張ってくるものとは根本から違う。僕は僕であって、僕以外何者でも無いのだ。それ以上、これ以上ヴァミリオンドラゴンの力を引っ張ってきたのならば、それは、二体一に等しい。この戦いに二体一の戦いは無い。
「くっそー」
とはいえ、滅茶苦茶悔しい。敗北によるストレスは半端なものじゃない。それが僕のレベルなら当然だろう。もうとんでもなくストレスだ。
「全部を出したよ。もうこれ以上は無いぐらいにもやり切った感が…すごいね」
ニコニコ顔が隠しきれてないニコニコ顔だ。ちゃんと本体が出てきてる。全盛期の肉体、魔力、オーラ、それぞれがみなぎってる。そういう顔か。なるほど。これまでの生き様という戦歴が深く顔に刻みつけられてる。年齢は50代後半といったところか。それが全盛期、最高の万全の状態。
「Realでも多く戦いを味わったが世界は広いね」
「今頃かな?いつも空の上には無数の星々が光り輝いてるよ。目に見えなくても、無数の可能性が見えてくる。あなたが今、そんな気持ちでいるのなら、それはまだ氷山の一角ってやつですね」
「ドラゴンの持つ能力はもっとあるように感じてたがね」
「これは僕とあなたの戦いでしたよ」
「いやはや…。めでたいものだよ」
めでたいでしょうね。
「どうだい?これから一狩りでも?」
モンハンかな?
「いいですねぇ!」
そして二人でそのままRealへ。このむしゃくしゃをエネルギーにして外に出さないと、そのまま内部で溜まって心に食らってしまうかもしれない。
「一応プレイヤーキルされたらそのまま死亡扱いになりますからね。気をつけてくださいよ」
「流石に気を張るよ」
「あと、僕と真剣勝負したいからって後ろから刺すような真似はやめてくださいよ」
「…考えてもなかったな。私はそういうタイプじゃない」
情熱の無いアットホームな戦いだった。反面、王様の能力で使役した棒人間達は本当に僕を滅するための攻撃対象として認識してるようだった。僕の想定よりも遥かに強大な魔法を行使することができる王様だった。それを認めていてもなおも、まだ僕の心は燻り続けてる。とりあえず、殲滅タイプのダンジョンで一緒に遊んで高得点を残した。モチベーションがここまで僕の能力の振り幅に影響を与えてるなんて初めて知った。むしろこれまでの僕の冒険は常にマックスで最高の状態を維持し続けてきたんだと思う。ひょっとして、僕は心に支配されているのだろうか。…妻の顔が心に出てきた。最近ずっと一緒になってなかった。また今度、好きな場所に連れて行ってあげよう。もう、帰りたくなった。どれほどストレス解消を冒険でやったとしても、僕の心を癒してくれるのは、僕の家しかない。ヴァミリオンドラゴンを連れて、のんびりとこたつに入って、ネットフリックスでハリポタを一から最後まで観たい。僕に最強は似合わないのだ。そう思うと、少しは心が癒される。