エピローグ 偉大なる勇者の物語
息継ぎもままならない程に早さに特化した弾丸状の魔力。僕の可動から予測した先の動きへの剣戟。頭の中で不協な音量のフルコーラス、僕の気持ちを下げてくる音。降り注ぐ不幸の雨。巨人の群れから十体ぐらいから片っ端から倒してっても無理だと思った。予想以上に大規模パーティが織りなすコンビネーションの効果は絶大。倒すたびに体が重くもなってゆく。これは死後の呪いというやつか。僕ですらこれの解呪は無理。
「…なるほど」
これは絶望的なレベル差への回答。最善手。解。
「…」
間違いなく。僕は一分も持たないだろう。この戦況は、そういうものだ。ドラゴン変化大三形態でも、この包囲網を突破することはかなわない。負けだと思う。
「負けか」
僕個人の力では、負け。敗北である。
「…」
スポーツ。或いは競技なら、ここで投了しお互いが握手を求めて健闘をたたえあうものだろう。でも、この闘いは既にそういうものじゃない。人生。人生を出している。このレベルになると、戦い方が人生そのもの。どういうふうに生きてきたの生き様が戦闘の主題になってゆく。全てを出した結実がこの戦況を作り出した。王様の生き様が僕に打ち勝った。
「…」
偉大なる英霊達にとって、これでいいのか。この結果。この状態。十分なものだろうか。
「…もっと戦ってみたいかな」
もしこれが、真剣勝負で命がかかったものだとしたら?当然、終われない。ドラゴンカリスマを解き放つべきか、迷う。出せば一瞬で片がつくだろう。そう思う。七色の究極闘気はそれぞれ特別な能力を持つ。カリスマは色ごとにその色に見合った特別な能力をもたらしてくれる。カリスマ自体がそういうもので、それは、魔力という概念の上位。魔力がもたらす能力から少し上の能力を与えてくれるのだ。それが七色もある。虹色の特別。これは…。こういう概念があるという存在こそが死蔵されるべきだと思う。存在が表面化されるべき力じゃない。
「…」
意表をつかれる形で僕に決定打が入った。そこでゲームは終わった。
「うぬぅ」
ログアウトした後、王様はそのニコニコ顔を隠そうとした結果途轍もないニコニコ顔の片鱗だけが飛び出して奇妙な変顔で現れてこう言った。
「いやぁ。素晴らしい戦いだったよ。末樹君」
そりゃ嬉しいでしょうね。あなたが倒したのはヴァミリオンドラゴンを引き当てた末樹なのだから。
「それは良かったですよ」
満足したと思う。けど。心の中ではメチャクチャ悔しい!!敗北がこれほどストレスになってしまうとは思ってもみなかった。
「…」
そのニコニコ変顔を見てると。無性に腹が立ってきた。男として負けたっていうのが本当にムカっ腹が立ってくるのである。でも。それで良かったと思う。いや、こんな気持ちになるぐらいならドラゴンカリスマを使って一瞬で蹴散らして一騎当千で俺TUEEEE全開モードでやってりゃ良かっただけかもしれない。くぅ。くぅううう。心のモヤモヤが半端じゃない。これで良かったと思う。王様には気持ちよくなってもらって、もっと世界を見て、もっと広い世界を体感してもらいたかったのだ。これで良しとしましょう。いやマジで悔しいなぁ!!