エピローグ 偉大なる勇者の冒険
思いきり殴りつけた。おそらくきっと、耐えうるものがないようなレベルでの攻撃だった。少なくとも手心を加えた認識はないように思う。ただ、僕のそんなパンチに耐えている棒巨人にショックを覚えた。かつてない勇者。僕がそうであろうとした勇者。誰もが知りえる絵本の勇者。ファンタジーの勇者。その生涯を生き抜いた魂を受け継ぐ棒巨人。殴る前も、殴った後も鳥肌が立ってる。意味もわからず、震えてる。シバリング?恐怖?畏怖?戦慄ってやつ?ひょっとして感動?世界一の絵画に火を放つような感覚がしないでもなかったのは認めるしかない。ただ。それでも僕の攻撃に耐えたのである。
「全力だぞ…」
残りの55体超、どーすんだこれ!?
「!」
自律的に思考し動き、組織的な戦術でもって、戦ってる。或る棒巨人は巨人たちにバフを。土地に祝福を。どこからともなくピアノの音が聞こえてきた。音じゃない。この中の誰かの意思。魔力とか魔術とかじゃない、現実を凌駕し浸食する超能力。
「…」
殴った後から流れ出る、殴った対象の想いの記憶。とてつもない物語が僕の頭の中に流入してくる。悲しい物語も、最高の物語も、ハッピーエンドも、ずっと繋がってた。親から子に、そして孫に。それは僕の目指すところの物語でもあった。これが僕の目指すところなのだろうか。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
…失礼した。気持ちが入ってなかった。どこか他人行儀で第三者の観点から漠然と見ているような気持ちだった。彼らにとって僕という対象は、滅ぼすべき敵という認識なのだろう。当然、命懸けだ。少なくともそういう風にプログラムを組み込まれているし、実際自律的にそう動いてるはずだ。気持ち。気持ち。気持ちが入ってなかった。ヴァイヴス上げてこうじゃないか。
「おおおおおおおおお」
張り巡らされた魔術のガードも、粘っこいバフも、最上級の魔力も。この一撃で。レベルという概念があるならむしろ僕の方が低いだろう。今頑張ってもレベル600、いや700、ひょっとして800ぐらいあるかもしれないけど、敵は1000を超えてきてる。僕はヴァミリオンドラゴンの力を使い、この絶望的なレベル差を埋めている。ひょっとしたら、今のこの状態は、レベル1000を超えてる状態かもしれないけど。けど、そもそもレベルっていうのは、あくまでも魔力の総合的な量の問題や技術、魔法の扱いといったものぐらいだ。
「これまで戦ってきた中でも最大級のインパクトだ。やるじゃないか、マッキー」
棒巨人が喋った。そしてそれを言うと泡のように消えてった。本当にそれを言いたかったのだろう。
「はぁはぁ」
マジで殴ったらたった一発でも息切れする。これを後55回。たった一回でも僕はもう今週はもうおなか一杯って感じなのに。まだ。そしてこれだけの魔力の放出、魔力の創造、圧倒的な速度で完成させてくる王様に脱帽。詰み碁みたいに確実に僕を取りに来てる。
「おおおおおおおおおおおおお」
英雄を倒すこと。すっごいストレスだ。でも、あくまでも、僕と王様の戦いだ。
「程度の低いデバフは気休めにもならないよ」
自分自身で強いと思ってる。
「おおおおおおおおお」
次から次へと消し飛ばしてゆくばかりだ。気合でなんとかする。いわゆる根性ーってやつかもしれない。強者としての振る舞いだ。殴って、殴って、殴る。時にヤバそうな攻撃を避けながら。
「ヒーラーからね!」