エピローグ 偉大なる勇者の冒険
遠くからやってくる歪な恐竜の大群をどう対処しようか。魔力の威圧で大群を押し潰そうとしたけどできなかった。ちゃんとオーラでコーティングされている。ちゃんと僕への攻撃手段として魔力を消費してる。よく雑な攻撃じゃない、明確な意思を持つこれらの攻撃を見て改めて感動する。
「僕もここまできたんだよなぁ」
僕も幸せ者だ。現代の地球で、僕の力は振るえない。さて。どうしようか。恐竜の大群の攻撃手段も結構ある。
「せっかくなんだから」
ちゃんと腕を振るって対処しよう。たまにはちゃんと本気でやりあわないとね。ミサイルみたいに近寄ったら爆発するとかなしにしてよ。絶対だよ。せっかく恐竜チョイスしたんだから、ちゃんと物理で殴ってくれないとがっかりしちゃうぞ。
「よし」
ドラゴン変化第三形態、マックスの状態でのぶん殴り。どごんと響く大きな衝撃は空間を伝って物体を分解する。
「よしよし」
頑張れば肉眼で確認できるぐらいまでの距離にはきたな。一息吸って、体内でマナを練り上げ、一息吐いてマナを体外に放出しオーラとして武装する。拳に力と想いを乗せて、ちゃんと。
「…」
殴る。ベコんと空間が大きく凹み、歪んだ恐竜達が木っ端微塵になってゆく。文字通り、ちりになってく。
「ふはーっ」
ビギびぎと空間に一瞬亀裂が入った。若干ヴァミリオンドラゴンのドラゴンオーラも入ってる。Realとはいえ、ヴァミリオンドラゴンクラスにはなかなか対応が難しいんじゃないのかな。
「…」
気持ち良さがある。汗も出てるし。そういえば、誰かか何かが言ってたっけか。体の中の水分を出すと人間は気持ち良くなるのだと。発汗、排尿、もっといえば射精もか。どれも人体に根付いた生理的現象、本来ならこれに自身の生命エネルギーである魔力、マナの放出も加えるべきなのかもしれない。今すっごい脳内麻薬出てる。溜まってたモヤモヤとか悪いものが全部体の外に出ていったような感覚すらある。
「さてと」
翼を大きく開いて、ドラゴンのような飛び方をする。が。
「いない」
展開された魔力を辿って移動した先に、王様はいない。王様の反応が無い。こういう場合はちょっとまずい。何がまずいかっていうと、引き延ばしとかされちゃうのだ。負けたくないそこそこ強いレベル1000のプレイヤーさん達は負けそうになっちゃうと逃げたり、攻撃されないような手段を取ってくるケースもある。これが何が最悪かというと、妻とのご飯が30分後って時でちょっと遊ぼっかなって思った時に相手が逃げられたり、攻撃できない状態に持ってったりするのである。もちろん僕はそういう時は投了するけど、それってとってもずるい気がするのである。お互いが気持ち良くなるのが対戦ゲームの醍醐味であって、自分さえ良ければってプレイはなんだかなぁって感じなのだ。まぁそういうのも戦略なんだけどね。僕も負けたくなかったからそれで三時間ぐらいずっと鬼ごっこしてたこともあった。相手がどこだかわからなければ、どうしようもないのである。
「うぬぬ」
もしくは。魔法の詠唱、魔術の術式、いずれも、時間をかければかけるだけ強力な魔法を使用できるのなんてのもある。一時間隠れられて、一時間後にドヤ顔で隕石を落としてきたプレイヤーもいたけど、流石の僕でもそういうことされちゃうとブチギレて一瞬で終わらせたりもした。王様は元々棒人間を製作して戦略の中に取り組むだろう。ひょっとしたらどこかで頑張って棒人間を作成してるのかもしれない。
「そういえば時間制限決めてなかったっけかな」
ここまで引っ張ったんだ。丸一日潰すぐらいの気持ちで取り掛かってもいいかな。ただ、それ以上は無理だ。地球の何倍もの広大な広さを持つ領域から王様一人を探し出す能力は僕には無い。王様がガチで隠れようとしたら、ちゃんと隠れることができるだろうし。僕みたいなタイプは、向かい合う戦闘は得意だけど、顔も見えないところでの戦いは勝負の場にもってけない。そういう意味では、強弱といった強さ比べとはまるで違った戦術がRealの対戦には重要であったりする。流石に一週間Realのフリーマッチをやってればあらゆる戦術を見極めることが出来ただろう。
「魔力切れか、物理攻撃による魂の破壊か、それとも…」
支配系統が得意なら一撃必殺の条件付けで詰みにすることすらできるかもしれない。でも、なんだろうか。最強、頂点、天辺ってのは二つぐらいに分かれると思う。一つは支配するタイプ。もう一つは、導くタイプ。王様は明らかに後者。同じ青でもビッキーみたいな一撃必殺は無さそうな感じだ。
「投了待ちの遅延行為以外ならどれでも構わないか…」