エピローグ 偉大なる勇者の冒険
対戦の場所というのも色々ある。それ相応の相応しい場所が選ばれる。古代ローマ時代のコロッセオは対猛獣を含めた広さもあり、小学校の体育館程度の広さ。近代格闘の祭典ボクシング、7.62メートルの長方形。そして近代頭脳戦、カードゲーム、ボードゲーム、囲碁、将棋といったテーブルの広さで行われるものまで。そして最新のゲームにおいてVRゲームが取る幅の広さはゴーグル着用時の0メートル。もっと言えばパソコンやハードゲームを置くスペースぐらいだろうか。そして近代の代理戦争とも言える、国家と国家のぶつかり合い、スポーツ。サッカー105m✖️68mの長方形。野球13000m2東京ドーム準拠。戦いには相応しい場所が選定される。それは原始時代から繋がる闘争の歴史であり、なんびとにも侵されない聖なる領域。
「ドラゴン変化第三形態の全解放状態…」
Realプレイヤーの最上位、レベル1000、Gクラスの戦いのフィールド。宇宙空間、太陽、地球よりも遥かに広い面積を持つ木星、光源の無い暗黒空間、海中といった多岐に渡る。
「今回は地球タイプのフィールドかぁ」
以前、僕の嫌いな外国製の車を購入された事に腹が立ってRealで密かにプレイしてたことがある。三回、四回やって五回、六回とやって立て続けに俺TUEEEEモードな感じで婿入りならではストレス、鬱憤を闘いで解消してると七回目で闘いが始まった瞬間を意識する間も無くやられたことがある。剣術家に目と鼻の先で配置される超超近距離の場合、ジュース飲みながらあくびしてるとそういう結果になってしまうこともある。また、ブラックホールみたいな超重力の場合も同様に、究極闘気を展開して魂と肉体をガッチリ守りを固めないと環境に殺されてしまうケースも存在する。言ってしまえば、このフリーマッチのランダム環境では、ブラッドピットみたいな感じが許されないガチンコのマジバトルなのである。
「大気もあるし、植物もある、動物も存在してる。僕の魔力がこの星を覆い尽くせない。月以上の大きな惑星か」
もっとも、月は惑星ではなく乗り物だけど、普通の日本の二十歳の感覚では、やっぱり月はうさぎが餅ついてる惑星だよね。
「王様も一週間あげたんだから、慣れてるだろうね。さあ。どうくるかな?」
どう遊んでやろうか。考えた結果、まだ考えてなかった。圧倒的強者という立ち位置から、どう転んだら一番楽しめるか。王様もにっこり笑ってナイスーって言ってくれるにはどうすればいいか。
「あ」
そんなことを考えてると、空の大気が墨汁を垂らしたように波紋が飛んで、青がもっと青く、真っ青になっていった。
「この広さをカバーできる魔法展開、フィールドマジックか…」
やる気っていう概念が、ここまで眼に見える形を取ると。僕もなんだかテンションが上がってくる。
「ぉ!」
少しずつ、重力が軽減されてゆく。これが天地無用ってやつか。一度はやりたいよね。滅びの魔法。
「これは僕でも余裕で壊せる」
フィールドマジックは原則破壊できない。現実を塗り変えてるのだ。とどのつまり、神域の極地。変えるためにはこちらもフィールドマジックを駆使してその神域を塗り返すしかない。しかし僕はその限りじゃない。僕個人は癒し専門だ。もうほとんど忘れさられてるかもしれないけど、僕はヒーラー設定なのである。白の特色は癒し、治癒、そして復元。染め上がった空間を復元なんて、難しい話ではない。
「とりゃ」
青く青く染め上がった大気に魔力を集中させた拳が打ち砕く。ガラスが割れるように、大量の具現化された魔力がバラバラに飛び散り、不思議な青色の雨が音を立てて降り注いでく。
「波紋の先があっちか…」
重力は元に戻った。大きな翼をひとうねりさせ、一気に飛ぶ。大空を飛ぶことにはもう慣れた。世界は僕のもの。そこまでいかずとも、世界は僕の友。それぐらいに考えると、大空からの絶景もそこまで怖いものではない。地球の、古来。恐竜が跋扈していた白亜紀は、こんな世界だったのか。目線の先にはプテラノドンの群れ、大群。
「…」
じゃない。棒人間ならぬ、棒恐竜。
「!」
ティラノザウルスだとかスーパーサウルスだとか…。空を飛ぶはずが無い地上の覇者である恐竜にグロテスクな翼が生えてる。生物工学的か、遺伝的にか、捻れた生命が狂乱の火を持つ瞳で僕に向かってきてる。
「さすがに全部使うよね…」
倫理的にアウト。禁忌にされた行為。生涯使えぬ技術。使う機会の無い魔法。
「ゲームとは、魂の解放だ。全てがゆるされる。この一週間で、大分仕上がってきてるね」