エピローグ 偉大なる勇者の冒険
大まかな流れ、生きている年齢に比例して起こり得るイベント、運命。僕は王様からおおよその出来事を聞いた。それは死に向かってゆく生だった。僕にはそれがとてつもなくショッキングな事に思えたのだ。僕が人に何かできることなんてないのだと確信してしまった。運命を知りながらも、人間は他人を助けることはできない。いや、もう少し突っ込めば、他人の人生に対しても僕が干渉できる余地なんてまるでないということだ。人間には人生の時間があって、その時間は本人が自由に使えるのだ。それが、まるでどう転んでも非常識極まりなく、危険であり、死によって完結を迎える物語であったとしても。勇者なら尚更だろう。死の観念が根本からしてまるで違う。喜んで死にに行くようなものだ。何かのために、誰かのために、そんなことが人間ができるはずはないように思える。だとしたら人を超えてるのだ。
「おやすみなさい」
ぐーぐー寝相良く寝てる勇者の顔を見て、そう言った。僕にはそれぐらいしかできないのだ。見守るだとか、祈ってるだとか、そんな安っぽい言葉で僕は自分自身を満足させることなど出来はしない。思い上がってたのかもしれない。世界が滅ぶのは僕が行動しなかったからだと思ってた。もしかしたら、その限りじゃなかったのかもしれない。人間はそんな矮小で目に見えて分かりやすい生き物ではなかったのかもしれない。僕が月での殺戮の限りを行わずとも、人類は自身に降りかかる火の粉を振り払えるだけの力があったのかもしれない。僕のやってきたことは、英雄的行為だったのだろうか。それはただ僕の個人的な感想だっただけなのかもしれない。僕がどうこう動こうが、人類は人類自身を守ることができたのかもしれない。
「ぐーぐー」
ヴァミリオンドラゴンは眠ってる。眠ることが大好きなのだ。
「…」
人が人を助けることはできないのか。大きな枠組みの中で、それが運命と呼ばれる代物の中で、僕は誰かの役に立ってるのだろうか。いずれにせよ、目の前の勇者は、偉大なる功績を積み、そして志半ばで。それは観測された運命の一つの結果に過ぎないだろう。それでも、人のために盾となる姿には、感動せざるを得ないのだ。
「…」
王様は一つの世界、一つの惑星、一つの歴史、一つの文明、そして一千年単位で人類の編纂を綴っている。僕の見ている景色とは、まるで違う風景を見ているのだ。これが王と民の違いか。
「寝よう」
勇者さんのパーティを翌日見送った。その偉大なる冒険の軌跡に祝福があれば。その人生に、何かもっと途轍もなく誇れたり、人々の記憶に残るような生き様であったり。最高の人生であって欲しい。僕を含む人間は、心の中すら見れない大きな自分自身が存在している。きっと、それは、衝動なんてものではない、もっと美しい何かのはずだ。
「一週間が経過した」
約束通りの戦いだ。負ける気が失せていた。
「或いは君が私を変えるのかもしれない」
全盛期の肉体に戻っていた。Realレベルはさすがに1000を超えてるか。
「ランダムマッチで構わない。もとより私がやりたいのは、勝つとか負けるとかではない、純粋な真っ向勝負なのだから」