エピローグ 偉大なる勇者の冒険
「対戦はすぐ出来ますけど、その闘いには一旦ストップですね」
「ほう?」
接続がカットされた。僕が共同ログインを拒否した。
「あなたには経験が無いんじゃないですか?闘いというものを」
それよりも。Realに接続した。僕はこの人がそもそも棒人間である可能性も捨てきれてはいなかった。王だと思い込んでいる、或いはそういう役目の棒人間なのだという可能性。しかしながら、Realに接続した。Realのログイン条件は、自我を持つ脳を持っていること。地球でもシャム双生児、脳髄さえ別個なら一つの肉体を持っていたとしても一個のプレイヤーとして通常通りのプレイヤーとしてプレイできる。或いは一卵性双生児の場合もデータは別個。それとも、この状態で本体がログインしたのか。いや、そもそも。僕と戦う意志があるという時点で、この棒人間はただの末端なインターフェイスなんかじゃない。間違いなく、この王様は本物。
「闘いの経験、か」
だとするなら、オーケー。その誠意は汲んであげなきゃいけないだろう。
「同格、或いは格上の相手との闘いの経験はありますか?」
「…無いな」
だとしたらフェアーじゃない。
「そうですか。一週間あげますから、そこで慣らしてください」
Realの闘い。それもランクマッチのフリースタイルでは数多くの条件が設定できる。超超近距離戦から、超超遠距離戦まで。
「一週間か」
「待てないですか」
「当然だ!」
オーラの量が跳ね上がった。
「…」
命を懸けたことの無いルーキーは、何時だって無鉄砲なものだ。それとも、幾たびも潜り抜けてきたのだろうか。その年齢に比例する経験を。
「Realの長距離戦は月ぐらいの天体であったりもするんですよ。そして戦闘のフィールドも太陽であったりも」
「…ほう」
「100万℃の耐久力を持つぐらいのオーラ兵装が必要だし、逆に絶対零度での闘いもあったりする。ランダムマッチにすると魔力禁止や四肢禁止、魔法禁止なんかの変則マッチもあったりする。それがレベル1000のランクマッチです。Realの土俵でやるなら、そこで慣れてもらわないと」
「…」
棒人間は少し考えてから言った。
「そんな場所でやるのか」
「ええ。だから、まずは慣れてもらわないと」
「生物の生存環境を超えた場所での戦闘に意味はあるのか?」
そんなことを言われた。
「生物の定義が少し狭いですね。大体の動物は星を超えて銀河を駆け抜けるんですよ」
「そもそも、超越種を生物として定義しても良いのか。しかし、まぁ。一週間か」
それぐらいあれば、僕を倒せる戦略を練れるだろう。それぐらいが一番楽しめるはずだ。
「…わかった」
「条件は任せますよ。好きなように設定してもらって構わないです」