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エピローグ 偉大なる勇者の冒険

かつて昔、絶大な力を手に入れた王がいた。そんな話を聞いた。文字通りの超人となった王も、やがて過ぎゆく時の中では王を取り巻く環境すらも変わっていった。そんな話だった。一千年、二千年、それだけ永い時を生きてきたらしい。自分自身の職業が王なのだから、追い求めるのは人々の統治であった。しかしながら、王が見守る人々には恒久的な平和という状況を保つことが出来なかった。生物というヒトの本能の中に、変化を求めるというものがあるのだ。退屈や暇よりも、苦痛を求める傾向にあるのだということだった。それともヒトという種が競争や戦争を愛する種族ということなのだろうかと。いずれにせよ、ここ三千年の中では、人々から暴虐の火は消えなかったそうだ。むしろ年月を経るごとに殺傷能力を増してゆく兵器は、人々自身を何度も何度も文明を崩壊させる結果となったのだと。だから遂に王は着手に至る決断を下したのだ。自らが英雄を、勇者を、種の頂点に位置する世界の中心を作り出そうとしたらしい。それが、勇者システムとのことだった。


「誰かに相談とかしなかったんですか?」


その棒人間の考える返答に僕は答えることが出来なかったので、その問いかけを横に膨らませてみる。


「誰かとは?」


「例えば僕と同じような、漂流者みたいな。Realとかだと、そういうことをやった冒険者なんかいるんじゃないですか?」


「Realか。あいにく私は1%でも私の生存を脅かす可能性があるのなら、リスクは冒さない」


「確かにレベル100から生き死にがかかるゲームですけど、リスクを取る価値はあると思いますよ」


「このプランがご破算になったら、考えてみる」


長い、長い年月を生きてきたヒトには、僕の考えなど遠く及ばないだろうなと思うが、リスクを取らないというのも考えものだなとも思う。


「あなたになら話してもいいかな」


僕達がどうしてここにいるのかを説明した。


「ドラゴン?この世界にそんな生き物は存在しないが…」


そんなことを言われる。


「え?いや、あれドラゴンだったよ。多分…」


ヴァミリオンドラゴンがそう言うのだから多分間違いないんだと思う。


「王様がこの世界にいないっていうんなら、そのドラゴンも漂流してきたのかな」


「どうだろうかな。お腹減ってそうだったから、そのままだとこの世界を丸ごと食べてしまいそうだったよ」


「それは倒してしまって正解だけど。それならそれで良かったってだけなのかな」


「うーん。そうだったんだ。それなら気に病む必要はないもんね」


「ドラゴンか。少し気になるな」


「そうだ。勇者装備が本来隠されてた祠の下に、強力な頭装備があったんだけど。一応勇者さんに渡してるやつなんですが。本来の魔物とはまるで違うレベル帯の魔物がいましたよ」


「む。アレはやはりそうか…。私に強大な力を与えた存在が残した存在のモノだろう」


「他の世界の存在か、他の惑星の存在か」


「それとも、この大地の古き神々かもしれん」


「もしかしたら、おじさんこそ選ばれた存在なのかもね」


「選ばれたのだと思ってるよ。だからこそ、王としての役割を全うしているのだ」


「おじさんが勇者になったら良かったのに」


「お若いの。君は途轍もない存在の力を感じる。一つ教えておこうか。勇者に必要な条件を」


「僕も知りたいですね」


「勇者には勇気が必要だ。それは死を恐れない絶対的な超越者として高みに立って、自分の行為の後の歴史に想いを馳せること行為なのだ。生物に根付く本能を超越した絶対的な理想が必要であり、また能力も。私はかつて死戦を幾度も潜り抜けてきた。…もうやりたくないんだ」


それから三人で露天風呂に浸かった。遠い星々に想いを馳せた。


「宇宙とは不思議なものだな。広がり続け、やがては消えて無くなってゆく。知恵ある生命はそこから別の宇宙を模索する。そうして別の宇宙を探索する。…人間の進化は、この別の存在の力が介在してから発展を遂げるものではないかと。そう思えるのだ。むしろそれすらも、生命の進化の種に仕込まれたものかもしれない。一人では生きていけないように、他の超越種によって導かれるのではないのかと」


「どうでしょうかね。少なくとも」


日本にも江戸時代に天狗に攫われた少年の話を元に書かれた仙境異聞だとか、茨城県に出現したうつろ船事件、昭和には介良事件なんか中学生が小さいUFOを捕獲したりもしてる。意外と他の存在というのは存外身近なものなのかもしれない。文明に影響を与えた存在というと、ピラミッドとかも世界中に点在してる。ぶっちゃけRealなんかもその最たる例だ。


「僕はそれで幸せになれた」


「そうか…。それは良かったな」


「じゃあ僕達、明日にはここを離れるよ。それともおじさん、Realで遊ぶ?」


「最初のゲームマスターに会った時からログアウトをした。自身の魂を懸けるなどありえない」


その言葉には、ちょっと濁ってる感じを受ける。


「じゃあ一緒にやってみます?僕達慣れてますよ。こっちの子なんか結構名前が通ってるぐらい有名なんですから」


「一度ぐらいなら、いいかもしれないな…」


そして二時間ぐらいの長湯にちょっとのぼせた状態で部屋に戻ってそのまま眠った。将来こういう感じで自分の子供と旅行出来るのなら、きっと生と死にも十分に納得できるようにも思える。

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