エピローグ 偉大なる勇者の冒険
粘りつくほどの濃厚な魔力濃度、目を凝らせばまるで濃霧があるよう。天井は星々が描かれ、名も分からない動物達で満ち溢れてる。凍てつく魔力か灼熱の魔力か、体感温度が狂う。
「おじきー!ただいま帰りました!」
「おうおう。よく帰られましたな」
普通の勇者と王様の構図なのだろうが、僕の目にはそれがとてつもなくいびつなものに見えた。
「…」
世界には温度や湿度の他に魔力濃度、高低差による重力、そして感性による雰囲気というなんとなくな空気感がある。僕にとって空気感というものは何よりも大事だけれど、ここはちょっと不気味だ。妻の実家の洞窟を初めて見た感覚に似ている。禁忌の領域に足を踏み入れている感覚である。
「マッキーあれ」
ヴァミリオンドラゴンの視線の先には玉座の横のごく普通の副大臣みたいな人がいた。とりわけキャラクターデザインがあるわけじゃない。そんな人が、僕達二人に目を向けていた。直感的にこいつだと感じた。でも、何のために。
「たんまり領収書はありますからね」
「わかってるよ」
玉座に座ってる男は棒人間じゃない。間違いなく人間だ。完璧に操作されてる人間なのだろうか。強化されてる?寿命を伸ばしてる?無自覚?自覚してる?正確なところは分からない。
「…」
ただ一方で。これが正しくない存在なのかと言われれば分からない。決定的なわかりやすい犯罪が行われてるということはなかった。目の前の王をいびつな魔力で操作していることを除いては。むしろ徹底的に民間の犠牲を排しているイメージさえある。
「気になるけど、どうする?」
通信が入った。
「後で会いに行こう。あのオーラは目視で確認できた。いつでも目の前に立てる」
「あの人、僕達に気づいてすらいなかったね」
僕達の魔力操作は自由自在でもはや極めてるところまでいってる。相当な熟練者でも僕達をパッと見て魔力練度の高い者だとは気付けない。それはRealでのレベル100を超えた他サーバーへの冒険が証明していた。どういう意図があるのか。あの王様はどうなってるのか。
「今日はゆっくり休むがいい」
王様の言葉からは、別のノイズみたいな声が聞こえる。あとでどういう状態なのかを事実確認しておく必要がある。悪い状態なら解放してあげるべきだが、果たしてそれは僕達がすべきことなのだろうか。勇者が解決すべき問題ではないのだろうか。いずれにせよ、後ほど確認してみるだけだ。
「これぐらいのゲートなら突破できるからね」
「でも、隣接された近しい次元というわけじゃないかな。次元の門らしく、相当遠い。まぁ僕達は感覚で何となくな把握はできるんだけど」
王への謁見が終わって僕達は下がり、門を使って元の場所の王都まで戻ってきた。
「はぁーくたくた。せっかくいいホテル取ってくれてるんだからいっぱい食べていっぱい寝ましょう」
赤魔さんが言ってくれた。
「わーい」
Realをプレイしていると他のプレイヤーから散々超越種と揶揄された。全知全能とは行動であり一切の規制の無制限の行動が可能なことを指し示す言葉だ。もし、あの男がこの世界を意のままに操ろうとしているなら止めなければならない。レベル200程度ならこの世界でも超越種になれるだろう。しかし、僕には棒人間の魔力がそこはかとなく慈愛の精神を感じた。フェアーにこの世界を塗り変えてるような感じがするのである。それも、勇者を使って。あの監視していた鳥の形の人工物ですら、ひょっとしたら監視目的ではなく、勇者の護衛目的の可能性もある。勇者のヒーラーだった可能性すらあるのだ。