エピローグ 偉大なる勇者の冒険
百年に一度の大嵐がやってきた。らしい。僕とヴァミリオンドラゴンは顔を見合わせて頷いて青天に変えると、大平原地帯を虎ソリで一っ飛びに王都に辿り着いた。
「よっしゃ!」
勇者さんは虎ソリから飛び降りると雲一つ無い日本晴れに背伸びをしてから大声で帰ってきぞと叫んだ。黒魔と赤魔さんは虎ソリの中でこれまでかかった経費一式を計算した書類にまだ取り掛かったままだ。
「領収書は上様でお願いします」
「あいよ。勇者さんも大変だね」
「いえいえ。ライダーさんほどじゃないですよ」
「今日は大仕事だと思ったがね。大嵐がぴたりと消えたんだ。何かあるね。気をつけな」
「ありがとうございます」
僕達も礼を言って降りると、真正面に王都が見えた。宮殿というよりも、巨大な一枚の壁が見える。そこには植物と動物の絵が描かれており、こういうのをモノリスっていうんだろうなって思う。
「あれが王宮なんですか?」
「ええ」
ヴァミリオンドラゴンの問いにようやく書類整理が終わった黒魔さんは答えた。
「王の坐す場所ですね。王宮と言いますか、住まわれる場所は地下ですが」
異質な魔力が流れるモノリスである。明らかにこの世界とは不釣り合いなもの。かなり古いが、旧時代の存在なのだろう。いかに空を飛んだり、ロボットになってもおかしくないぐらいのこの世界とのミスマッチを感じる。
「頭と籠手、脚。みんな驚くだろうなぁ」
王都の門が開いてゆくとき、僕は少し怖かった。王都民が全員棒人間とかいうのだけはやめてくれよと思いながら、王都へ進む。
「へぇ。いいじゃん」
ヴァミリオンドラゴンがつぶやいたように、そこは至って普通の街並み。魔法と魔術と科学が融合した街並みだった。人々もそれぞれ普通に忙しくしてらっしゃる。王都になると、みんな忙しくなっちゃうわけだ。東京駅なんてやたらめったら忙しい。東京駅の場合はディズニー関連の親子連れから観光客に通勤と、本当に大変だ。
「Realのイースターヴェルを思い出すね。あっちは下品な広告が出てたけど」
「そうだね。レベル的にもそういう感じかもね」
上空に居た監視の人工物が、さらに二体、もっと上空からちらりと見えて増えてる。
「大型の飛行モンスターとか居ないの?」
「なんだよそれ。いるわけないじゃんファンタジーだぜ」
勇者さんは屋台で何かをせしめて、みんなに分けた。ホクホクのジャガイモ。ジャガイモを蒸してスパイスで味付けしてあるらしい。後で黒魔がお金を支払ってるのが見えた。
「最高だ!泣けてくるぜ」
勇者さんは泣いてる。
「ですね」
勇者パーティ一同で泣くほど美味しいホクホクを食べながら歩いてると、いろいろと勇者パーティの三名でああでもないこうでもないと、昔話に花が咲いてる。そうしてると、モノリスへの大階段を登ってゆく。巨大なモノリスが開いた瞬間、身構えた。
「!!」
それは王宮でもシンボルでも建築物ですらなかった。それは巨大なゲートだった。
「予想外だね。あれから先は別の世界だよ」
ヴァミリオンドラゴンが緊張して僕に通信してる側で。
「ひっさしぶりに会うと驚くだろうなぁ〜!」
「ですねえ」
「たんまりと領収書がたまってますからね!」
勇者パーティ三名は特に気にする素振りをまるで見せない。これが平常運転らしい。しかしながらゲートが開いた瞬間に発せられる魔力は正真正銘レベル100を超えている。レベル100の概念は生物を超越した象徴。肉体的にも精神的にも意志が独立した超越種の証拠でもある。空間と空間を繋ぎ合わせる魔法の物体を作り上げるなんて、この世界には到底作れるとは思えない。
「…」
生唾を飲む。こういう緊張は久しぶりだな。悪くない。
「おじきー!」
勇者さんが叫ぶ。その先のわずかな階段の先の玉座には人間とも棒人間とも取れるような存在が座っていた。
「…」