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エピローグ 偉大なる勇者の冒険・続続続

旅の醍醐味の一つはご飯だ。これまで嗅いだことのない匂いに、これまで見たことの無いカタチに、触れたことの無い味わい、美味しさ。料理こそ究極の機能美であり、それはナイフや飛行機なんかとは比べものにならない。美しさの極致だろう。必要なものが、必要なぶんだけ満たされる。それが食事である。普通のごく日常の生活の中で、イカの天ぷらなんか出てくるだろうか。お刺身の活け作りに、イカ焼売、ざる豆腐。炊き立てのピカピカご飯、カニの入った濃厚なカニ味噌汁。これらは普段普通に生きてるだけでは決して朝食で出てくることなどあり得ない。それが旅先だと出てくるのだ。そう佐賀県の呼子ではね。旅先のご飯というものは、大切なものだ。むしろ決定的なものだと言っていいだろう。


「葉っぱ山樽味噌ですね。今日の朝食。ご馳走ですよ」


そんなわけで勇者パーティ御一行がようやく全員起きてきたので朝食を食べる。テーブルの真ん中にネチャネチャした葉っぱの山盛りが天井につく勢いで盛られてる。これを全員で食べるのだろう。


「はーい。みんなで分けてねぇ」


僕達の朝食を用意してくれた棒人間が非常に奇怪な機械的音声で言った。何それ、怖いやつ。


「ほう。葉っぱの味噌樽かぁ。昨日のディナーが軽食のように感じるぜ!」


勇者さんがにこやかに嬉しそうに言う。それ、本当に美味しそうなんですか。なんか、味噌好きな僕としても、この独特な発酵はちょっと躊躇ためらわれる。


「へぇ。いいもん出してくれんじゃん」


黒魔術師さんもそう言う。


「今朝はお宝を用意してくれてましたね」


赤魔道士さんもそう言う。


「うーん。ジューシーだね!」


ヴァミリオンドラゴンもそう言う。基本的に味ではなく、どれだけ魔力の濃度が高いか薄いのかで判断するので、一般の味覚の感覚ではない。ただ、確かに、特別な魔力の感じはする。ううう。ううう、調理に誰かの魔力を使ったのか。ちょっと、魔力を日常的に使用しない地球人の感覚とは違う。それともこれは、魔力の熟成か?ただの葉っぱの山盛りだけど、確かに奇妙な魔力の性質は帯びているように感じるけど。


「いったただきまーっす」


みんなもぐもぐフォーク使って食べてる。


「うーん。なかなか美味しいですね」


みんな口々にそう言ってる。実に幸せそうである。僕も意を決してフォークで寄せて、口元まで持ってゆく。


「うっ」


やっぱり葉っぱが腐った匂いがする。


「ッッ」


頑張って口に放り込むと、葉っぱが弾け、口の中にミックスジュースのようなフルーティな味わいが広がってゆく。


「…」


凄い。これは新感覚。これって口の中で噛んでみると弾けるぞ。ん〜〜。味噌どこいった?美味いっていうか、僕の感覚からすると、これってスイーツだ。まるで見た目からは分からない、この味わいが隠されてた。なるほど。こういうのもあるのか!


「マッキーこれ初めてか?これはここらでしか自生してない万年杉に葉っぱを山盛りに盛り込んで十年熟成させるんだ。万年杉が森林全体の果物や果実のおいしさを吸い込んで出来上がる郷土料理でな。なかなか、ここらでしか食べれない代物なんだよ」


「へぇ。そうなんですか。見た目からは想像もできないフルーティーな味わいで驚きました」


「でしょう?ちなみにこれは日持ちしないからここだけの特別なんですよ」


「ラッキーだねマッキー!」


「そうだね。ありがたいことですよ」


昨日のディナーは普通に汁物に乾燥させた保存食だったんだけど。なんか、ベッドに横になった時に吸う空気も見たこともない夜空に、誰も知らない勇者のパーティとのお喋りだったり、変な意味で今冒険してるのかって思えてきた。もう父親になるわけだし、そういうのは引退するつもりだったんだけどな。次に冒険みたいなことをやるのは子供が大きくなった後のつもりだった。不思議な縁だなと思う。


「誰か急いで来てますね」


ガラス越しに走ってきている人間が見えた。オーラの多寡もある。棒人間じゃない。また一波乱起きそうだ。

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