エピローグ 偉大なる勇者のパーティ・続々
妻の居ないベッドで起きた。安物なギィギィと軋むベッドで起きた。コーヒーの無い朝だった。結婚してからというもの、毎晩一緒に眠ってお腹が大きくなるまでの限られた時間の中で二人っきりを思う存分心ゆくまで楽しむつもりだったのに。僕はヴァミリオンドラゴンのお手伝いで、妻は今頃カジノである。っていうか、カジノってどこだ?日本にもIR法案のモデルケースとしてカジノ街が日本が誇る辺境の土地、何も知らない誰も知らない群馬県でテスト実施が行われてるらしいけど。グンマー。それか、オーソドックスにラスベガスか。神様だし、ベガスで休暇って言えば、聞こえはいい。それかRealのカジノか。Realのカジノの可能性を今この瞬間まで見出せなかった。Realのカジノはヤバそうだ。まぁ最悪ビッキーがいるからなんとかしてくれるか。っていうか、いつの間に仲良くなったんだろ。
「みんな寝てるし」
ヴァミリオンドラゴンがお腹をボリボリかいてる。見た目は小五のそれである。実写版ぼくの夏休みの主人公のオーディションがあったら推薦してみようと思ってる。
「うーん」
棒人間は相変わらず人間の振る舞いを続けてる。この魔術をこなしたグループは相当の熟練者だと思う。人間の様子をそのままにトレースしてる。いや。今可能性に気付いたけど、この棒人形をかなり遠くから手動で遠隔操作してる可能性もあったな。起きたばかりだからか、頭が冴える。改めて考えると、魔力という生命エネルギーの用途は無限大だな。これから地球でもRealを通じて魔力という概念が共通認識となっていって魔法が技術として使用される日も来ることだろう。インターネットが地球を席巻したぐらいの進化が発生するのだ。
「インターネットと同じぐらいなら、実は案外大したことないのかもなぁ」
宿らしいけど、僕から言わせてもらえればペンションだとか山小屋の類である。冷蔵庫もなければカラオケも無いし、ネットフリックスに繋がったモニターだって無い。冷たい飲み物が欲しくなってきたので、一階に降りると棒人間が作ったであろう朝食の香りがしている。
「美味しそうだなぁ」
棒人間から井戸で汲んできたばかりの冷水をもらうと、ごくごく飲む。うまい。マジでうまい。ボルヴィック越えである。
「いかん、いかんなあ」
最近妻と一緒に結婚したということで世界中を飛び回って色んな場所へ出掛けていったりしていた。絶景探しの旅もやりすぎなぐらいやりすぎた。今ではランチに札幌味噌ラーメンを自炊して食べてるレベルでおうちライフエンジョイモードである。豪華絢爛な旅行をやりすぎたせいで、若干僕自身鼻持ちならないヤツになってる感じは正直あると思う。何しろおもてなしされっぱなしだったからである。海外の金持ち特権階級のサービスは日本とは根本から違ってる。金持ちアピールに際限など無いのである。
「それに引き換え、この安っぽいロッジ。落ち着くなぁ」
どことなく、佐賀県の風を感じる。良い意味でも悪い意味でも。
「おや。マッキー。早いですね」
赤魔道士さんが言ってくれる。
「ええ。こういう団体での宿泊は不慣れでして。起きちゃいましたよ」
「そうですか」
棒人間達も起き出したのだろう。連れで歩いてたりもする。
「良い田舎ですねぇ」
そんなことを言ってるとフォークを投げつけられた。
「え!?」
「失礼しました。ですが、マッキー。あなた。やはりただのヒーラーではないようですね。私の魔力を帯びた投擲を難なくキャッチとは」
「アハハ…」
秘技、笑って誤魔化す。妻には有効な手段である。
「まぁいいです。いずれにせよ、今のままではドラゴン討伐なんて百年あっても足りませんから」
そのドラゴンがもう既にヴァミリオンドラゴンがワンパンで倒してしまってるのが問題なのである。