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エピローグ 偉大なる勇者のパーティのお手伝い、続

怪物どもに村を乗っられたという話を聞いて、勇者パーティはその村へとやってきた。


「なんだこれ…」


村の人間が怪物なのかがわからない。まるで丸太で出来た棒人間のような異形の存在が闊歩していた。


「あれ…」


ヴァミリオンドラゴンとも通信する。


「うん。人間じゃないね」


なんなんだ?村に居る存在が人間だとかむしろ怪物というよりも、魔術で作成された人工物のようなものが人間みたいな振る舞いをしている。


「村人が魔物にとらわれてますね…」


黒魔術師がそう言った。


「ひどい…」


「よし、乗り込むぞ!」


そう宣言すると勇者さんは村に乗り込み、棒人間を次から次へと殴り倒していった。勇者さんパーティ三人には、あれが怪物と人間に視えているのか?


「…」


先ほどの行商人の一団風情だった強盗団は間違いなく人間だったが、ふと周囲を見渡してみると消えている。勇者さんを見ると、殴り倒した棒人間に包まれている魔力が勇者さんに吸い込まれてるのが確認できる。なんだあれ?異常な魔力というよりも、もっと言うと魔力自体が加工されているような。バフがかってるみたいに魔力が吸収されていってる。勇者だけでなく、戦闘に参加している黒魔術師と赤魔術師も同様だ。割合の多くは勇者に吸収されていってるみたいだ。


「呪いに近いね」


加工された魔力が強制的に付与されていってる。見ているだけの話だけど、そこから何かしらの強制力が生まれる類のものではないらしいということは分かる。だけど、その人工的な魔力が、特定の魔法によって引き金となる可能性も否めない。三人は変わらずボコボコにして無双していってるが、棒人間もそこまで弱いわけじゃない。動きを見る限りではレベル20クラスの動き方も魔力の多寡たかもある。


「うおおおおお」


魔力とは、特有の匂いがある。最近なんとなくそれが分かってきた。例えるなら、それは家の匂い。長年住んできて生活してきた匂いは、自分自身では慣れ親しんでるから気にならない。それでも、他人の家に上がる時には誰もがそんな生活臭を感じ取る。それは生きてきた証であって、生活してきた結果。もっと細分化するなら遺伝子みたいなDNAの配列コードのように細かく刻まれるものかもしれないけど、僕にはそれが匂いとして捉えて理解している。匂いは広がり拡散していくもの。が。この匂い、魔力は、単独の人間の魔力で構成されているものではないということも分かった。まるで魔術書に従って数名のグループが儀式によって作り上げた存在のようだ。単純な村を襲うだとか強盗団の犯罪行為とはまるで違うように感じる。例えば、特定の集団によって成し遂げる計画のように。僕から見た魔力は、それはまるで加工された工業用純水みたいで、そこには気持ちが入ってない。機械的に作られたような魔力。


「打ち取ったりぃー!」


大きな棒人間を倒すと勇者は勝ちどきをあげた。周囲10キロ程度にはある程度の魔力を持つ存在は確認できない。これは罠ではない。少なくとも、誰かがこの結果を見て確認はしていない。


「残念ながらヒーラーの出番はなかったみたいだね」


「そうそう。楽勝よ!」


「さすが勇者様!」


「さすが勇者様!」


僕とヴァミリオンドラゴンも二人にならって勇者さんを讃える。これ、だんだん褒める語彙が縮小していって最終的には一言でいつものやつで片付けられるようになると思う。そういう部分もちゃんと考えていかないといけないかな。


「…」


先ほど倒したような棒人間に向かって勇者パーティの三名は談笑し、勝ちどきをあげ、励ましてる。それがどれほどぞっとする光景なのか、ちょっとしたホラーよりもマジもんのホラーである。


「さっきの強盗団の人間はマーキングしてあるから、問い詰めにいく?」


ヴァミリオンドラゴンの会話が頭の中に流れた。


「よく気付いたね、なんか変だった?」


「小綺麗だったからね。それに、嘘ばかりだった」


「そうだったんだ。後で尋問しにいこう」


ヴァミリオンドラゴンは人の言葉の虚実が分かるのか。僕なんて、人間の喋ってる言葉の建前や本音、大前提や世間話、そういうのも込み込みで、喋り方には独特の個性がある。嘘も方便で、人間関係を良好に築き上げるためにはいろいろ必要なのだということも知ってる。嘘でも面白かったり笑えたりするのもユーモアのセンスになってくるのである。ちなみに僕が欲しいけど決定的に欠けてるセンスでもある。現代社会では暴力よりも、むしろそっちが重要だったりするのである。


「そうなの?」


「そうだよ」


この距離まで近づくと、もう頭の中は同期レベルで会話というより通信か。


「それにしても、器用だね。まるでゲームのデザインだよ。Realを思い出すね」


「そうだね。その通りだ」


Realの目的はプレイヤーの純粋な強化だった。これもまた、勇者のレベルを底上げすることなのだとしたら、バックは勇者を選出した組織や機構、国家だったりする可能性も出てくる。何せドラゴン退治だ。街で火の息一つで燃え尽くすような存在である。勇者のレベル上げは必須事項。まぁもういないからそれをどうこうするために僕がいるんだけど。


「本来ドラゴンみたいな格上を倒すためには、国家ぐるみの戦術が必須だからね。これもまた一環なのかもしれない」


そうして僕も含めて勇者パーティ五名様は棒人間の手厚い待遇を受けて一晩世話になった。一応、勇者を邪魔とするあらゆる想定を考えて僕も一緒に宿に泊まる。


「スースー」


この勇者さん、寝るの早いし寝相いいな。


「今から強盗団やってた人のとこに行く?」


ヴァミリオンドラゴンからの提案。


「一応遠くへ出て、見るだけ様子を見ようか」


ヴァミリオンドラゴンが手で空間を切り裂いて隙間を縫うように移動する。案の定、どこかわからないけど、街の中だった。マーキング相手は堀と塀に囲まれた大きな城の中。


「大変だなぁ」


「物事を円滑に進めるためには回り道も必要なんだよ」


一瞬、敵意を持った魔力がぼくたち二人に集中するように重なろうとした。やばいと判断して元の宿屋まで戻る。


「凄いセキュリティーがしっかりしてるね」


ヴァミリオンドラゴンの感想と概ね同じ。


「人間が僕達に敵性魔力を向けたんじゃないね。空間突破能力ジャンプを警戒して不法侵入者への攻撃プログラムをあらかじめ組んでたんじゃないかな。いずれにせよ、意外とここはレベルがある」


Real換算でレベル3040程度じゃない、6070クラス。どうやらこの世界にも、いろいろと事情がありそうだ。

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