エピローグ 続・続偉大なる勇者のパーティのお手伝い
勇者さんのいる世界に戻って、ヤバい装備品が置いてあった場所で少し調べてみる。僕にはそう感じないけど、見る人によってヤバいと理解できる装備品はちゃんとヤバいものなのだろう。装備品でも、なんでも大体切れる剣とか装備してたら、使用者が子供でもなんでも切れる。最強で絶対無敵の鎧があれば、それを着てる限りは傷を負わなくなる。弱い動物でも、遺伝子操作をやってしまえば、一代限りでも強大な存在になり変われる。レベル100以上のRealの世界では、装備品や技術といった存在は目を引くほどに大きいものだ。
「この装備品…」
この祠の隠された部屋に潜んでいた影のレベルは概ね60だとか70程度。明らかにことわりを超えた存在だった。外部からもたらされた事は確実。地下室の壁を調べても、特に何かが描かれていたなんて痕跡は見つからなかった。あの魔物はどこから出てきたのか。むしろ、あの魔物こそ、この装備品を守っていた防衛機構の一環だったのではないかと思う。
「置いておくなら、仕様書や注意書きぐらい置いといてよね…」
特に何も見つからない。今はもう、ただの地下室。異常な魔力も立ち消えてしまっている。ここは保管室で必要になった時に取りにくるつもりだったのだろうか。この装備品がどういうモノなのか。妻にも分からなかった。妻がヤバいというのだからレベル100を超えてるだろう。レベル100以上のアイテムというと、不老不死や無尽蔵のエネルギーといった人類の課題を解決できるぐらいのヤバさである。この世界にとっても同様である。見たところ、無線通信機構の確立が確認されておらず、おそらくコンピューターといった電子技術は中世レベル。魔法は日常的に使用されてる分、文明のレベルは地球よりも低レベル。ヒーラーの認識も共通認識されていたから、解剖学も整ってるか不明。病気を全てヒーラーで治しているのか。だとすると、この世界には病気という考え方が根本的に地球とは異なることになるけど。
「ここに取りに戻った場合を考慮して、連絡先を書いておこうかな」
共通言語が英語よりも少し古い感じなこの世界だけど、それでも読み解けるだろうと思える連絡先を壁に魔力で書き込む。分かるヒトなら分かる程度。
「さて、戻るかな」
祠から出て、勇者パーティの跡を追う。足跡、微かな魔力の残滓、香水、方向性はすぐに分かって、一直線に駆けて行く。久しぶりの感覚だ。空から飛ぶとか、ドラゴン変化だとか、そういうものではない。まるで勇者パーティのお手伝いであるキャラとしてロールプレイの一環としてゲームみたいに楽しんでる自分がいた。似たような状況でヨミノヒラサカがあったけど、今回はあのように逼迫した事態じゃないぶん、心に余裕が生まれる。
「おっと」
ちょっぴり嬉しくなり、駆け足の速度が増してゆく。こういうのってライヴ感ってのか。バイヴスっていうのか。心拍数が上がってくる。思わず、目の前が崖のことも気にせずに空を舞う。ガードレールを突き破った事故車はこんな感じなんだろうなって思いながらも、360度のパノラマを楽しむ。これがこの世界のザ・ワールドって感じなのか。密林地帯に大きな川が横断して、その川の上に街が築かれ、遥か彼方にはとてつもない空を突き破る塔があって、空飛ぶ島には金属でギラギラしてる不思議な人工島が群れを成して過ぎてゆく。太陽が二つある世界で、大空を支配しているのは小さな鳥達。魔力が十分行き渡って、僕にはゴキゲンな世界である。宙から勇者パーティを見つけると、地面に着地してそのままダッシュで森を駆け抜ける。
「いたいた」
500メートルぐらいになると速度を落として合流できた。
「おーいっ」
「おっマッキー」
四人は行商人らしき一行から買い物をしてるらしかった。
「へぇ。行商人さんとかいるんですねぇ」
珍しい服装をして大きなザックを抱えている一団である。
「そうですよ。私達の食事の多くはこういった方達からお弁当を頂いてます」
すごいサービスだ。
「それにしてもこんな森でいるかいないかわからないようなお客を探して、そういうサービスで商売できるなんてすごい仕事ですよね」
「確かにそれもそうだな」
勇者さんがぴたりと、手を止めた。
「あんた達、本当に行商人か?一応手形見せてくれないか?」
「うーむ。仕方ないですねぇ」
行商人達は本性を表して懐から大型ナイフを取り出していった。
「弱らせてから頂こうと思ってたのですが、こりゃお命まで頂かんとならんことになりましたなぁ」
「気をつけてください!」
行商人達はお互いを目で合図していき、僕達を攻撃してくるタイミングを見計らっている。
「馬鹿野郎!!」
グーで勇者さんは目の前の行商人風の盗賊を殴り倒した。
「つまんねーことやってんじゃねぇよ!このやろー!!」
「なんだとぉ…配置1番!こいつからやるぞ!!」
目にも止まらない速度で勇者さんは強盗団をグーパンチでぶっ飛ばしていった。魔力の使い方が上手だ。綺麗な魔力の流動で肉体を強化してる。
「つ、つええ」
「勇者さんの正義パンチは痛いんですからね!」
赤魔道士がそう言うが、全然解説になってない。解説役、誰かいないのかな?
「勇者の正義パンチ、これは効くんだなぁ。これが」
黒魔道士さんがそう言うがまるで解説になってない。解説役の人ってやっぱりいないのかな?
「勇者さんの正義パンチはいつ見ても格好いいや!」
ヴァミリオンドラゴンも拳を振り上げて言う。やっぱり解説役の人はいないのか。
「…」
え?
「…」
一瞬赤魔道士と黒魔道士が同時に僕に目線を向けた。え?まさかこれ、僕にもなんか言えってこと?僕にも勇者さんパンチの感想言えってこと?そうなの??
「勇者さんの正義パンチ、流石です。体内の魔力を上手に使ったオーラ術で器用にもインパクトする瞬間に拳の魔力の出力を上げている。足周りにも同様で、華麗なフットワークを可能にしてる。こうなると、もはや短剣といった射程の武器は意味をなさず、タメを必要とする魔法にも同様で、強い。近接格闘能力の強さが伺い知れる戦闘でしたね!」
ちらっと黒魔道士さんと赤魔道士さんを見るとうんうんと頭を頷いてくれた。あっ。なるほど。そういう感じなんですね。把握しました。
「ま!待て!待ってくれ!ワシらの村は怪物どもに占拠されておるんじゃ!助かりたければ、旅人の血肉をもってこいと言われての行為なんじゃ!好きでやってるわけじゃない!」
「馬鹿野郎!」
勇者さんは叫ぶように言う。
「来てるんだよ。ここに勇者が!!」
「ま。まさかあなた様は伝説の…」
「そうですよ。まさかのおひとなのですよ!」
「今頃気づいたの?」
「それにしてもラッキーだったね!」
三人がそう連続して言うと、ちらっとやっぱり僕の方を見た。どうやら僕も一言勇者さんヨイショをしなければならないらしい。
「さすが勇者さん。希望の人だ。もう既に、強盗団を救ってる!」
ちらっと見ると、赤魔道士さんも黒魔道士さんもうんうん頷いてくれてる。これ、どうやら僕も毎回やんないといけないらしい。
「勇者様。ワシらの村を案内致しまする」
「ああ。さっさと終わらせるぞっ!!」