エピローグ 偉大なる勇者のパーティ
ドラゴンの嵐が終わると大空はドラゴン達の帰路で溢れかえり、色とりどりの向こう側の世界が顔を覗かせていた。火山の世界も氷も世界も砂漠の世界も、よくわからない世界も、それぞれが帰ってゆく故郷であった。僕たちも例外も例外なく、ヴァミリオンドラゴンの居た世界へと帰ってゆく。つられて次元を渡ると、そこは平凡な田舎道に出た。
「今は武者修行中だね」
難しい言葉も使うようになったと感心する。
「それにしても何もないへんぴなところだね。武者修行中なんだ」
「そうそう。あっちに町がいるから。そこで冒険のお手伝いしてるんだよ」
「へぇ。そうなんだ」
丘を下ると小さな町が見えてくる。本当に小さな町で、Realの最初の街を思い出した。道中の環境は地球と変わらず、木に登るリスを見ている感じでは動物の平均なサイズも地球の標準と変わらない感じがする。草木も同様で、少し肌寒さを感じる秋のような季節。
「おーい」
町の入り口には冒険者のパーティと思わしきものがいた。
「お!ヒーラーの友達?」
頭に妙な冠をつけてる男性。うん。僕の想像通りの勇者のテンプレのような見た目である。
「そうなんだ。バッタリ会って長話しちゃったよ」
「ヒーラーってそういう名前?」
「そうそう」
頭の中で会話する。同じ魂同士ならこういうこともできるのである。
「そうか。俺の名前は…」
どうやら勇者のパーティの一団らしい。悪しきドラゴンを倒すのが目的らしい。
「この近くの祠に先代勇者の伝説のマントがあるらしいんだ」
どうやら冒険者四名のパーティでそのマントを取りに行く最中とのこと。
「大変な冒険ですね」
「ああ!でもやるしかない。それが運命なんだからな!」
「でもそれ、三日前に僕が倒したんだよね」
頭の中でヴァミリオンドラゴンのとんでもない発言が繰り出された。
「なんかここにきたら絡まれてさ。勇者さんには悪いことしちゃったなぁ」
「でも良かったんじゃない?僕が見たところ勇者さんのレベルは30とかそのあたりだし。わざわざ危険な冒険に出掛けるなんて無謀なことだよ」
「人間は成長するからね。そういうのが楽しみなんだ」
邪悪なドラゴンが既に倒されてるのに、邪悪なドラゴンを倒しに行く勇者のパーティ。しかし、それを止めるのは野暮な話である。
「私たちは〜」
黒魔道士と赤魔道士で勇者を取り合ってる三角関係らしい。そして勇者はそれに気づいてない冒険一筋。これもまたテンプレである。
「魔物だ!気をつけろ!」
見ると、大型の猫科の腐った死体が瘴気を放ちながら走ってきていた。
「行くぞ!」
勇者の小さな盾で魔物を引き付け、黒魔道士と赤魔道士で魔物を焼き払うことができた。
「ふぅ。何とかなったな。それにしても、手強かった…」
連携は取れてる。華麗なコンビネーションは間違いなく修練度の高い完璧なものだった。なるほど。確かに冒険者として勇者を地でいってるだけのことはある。
「そういえばあなたの名前は…」
「マッキーです。えっと。ヒーラーですね」
まさかのダブルヒーラーである。僕のジョブを言うと三人の顔から多少の落胆が見てとれた。
「ヒーラーかぁ」
「ガチャ失敗かぁ」
赤魔道士のガチャ失敗発言はちょっとダメだろ。
「まぁ僕はもう家庭がありますので、冒険はできませんから」
「そうなんですか。見たとこ結構強そうだと思ったんですけど」
そんなこんなで道中の魔物を退治しながら進んでゆくと、ひと回り大きな洞窟が目の前に現れた。
「く。正気が溢れています。危険なダンジョンですね」
黒魔道士はそう言う。確かに瘴気が漏れてるが、僕の知ってる瘴気の漏れたおどろおどろしいダンジョンというほどではない。うちの自宅の最寄りの洞窟の四分の一程度の瘴気濃度である。
「俺も剣を使えればいいんだが…」
どうやら勇者さんの剣は伝説の剣らしく、必要な時しか抜けないらしい。そういう感じのことを武器屋に言われて購入したのだと。
「呪われてるよね」
「呪われた武具だね。勇者さんの本来あるオーラを吸ってる、生きた武器だね」
頭の中でヴァミリオンドラゴンと会話する。武器屋にハズレを引かされて図らずも縛りプレイを行なっているというとんでもない状態である。それでも一応部外者なので、その事には触れないほうがいいだろうか。もしかしたら、後々色々イベントが発生するのかもしれない。
「まぁいいさ!盾一つあれば、問題は何もない!」
かっこいいセリフを言われたので、僕達にできることは何もないだろう。今後色々イベントありそうだし。何たって勇者何だし。
「参りましょうか」
おびただしい火の玉が召喚され、僕達は揺れる光の下、先代勇者の使用した装備品を取りにダンジョンへ潜ってゆく。