エピローグ 続・再燃者
走馬灯が視界いっぱい、元気いっぱいに駆け巡った。死を感じたわけではない。僕の見た。今、この眼前に繰り広げられてる光景に僕の人生を重ねていた。思えば失敗ばっかりだった。そして意外と楽しかったことがいっぱいなんだとも。
「マッキー」
僕たちの頭上で、何千、何万というドラゴンが死闘を繰り広げてる。凄じい地響きの音が轟いた。ドラゴンが地面に叩きつけられた音だった。そのドラゴンは全身ズタズタになりながらも、再び翼を広げて舞い上がっていった。
「ドラゴンの台風だよ。中身の目にはドラゴンのメスがいて、この全部で生き残った最後の一体が見そめられるチャンスをもらえるんだ」
小学生ぐらいの背丈に薄手の冒険服に短パンみたいな装備をしてる。一年の間ですっかり立派な冒険者になったようだ。ヴァミリオンドラゴンである。
「ヒト型なんだ」
「その方がベーシックだからね。僕だって鏡を見たら、おっかないって思っちゃうような姿で誰かと一緒に冒険できるって思ってなんかないよ」
「なんか冒険者だね。似合ってるよ」
「でしょ。ヘドロの大海を焼き払ったらいっぱいお金もらっちゃったんだ」
「楽しんでるなあ」
「マッキーほどじゃないよ。そうそう。ドラゴンストームなんだけど、ここから強制的に移動ができないんだよ。フィールドマジックがかかってるのかフィールドロックって言ったらいいのか。同じ魂であるマッキーに助けてもらうことが精一杯なんだ」
「へぇ。だからみんな頑張って戦ってるんだ」
「うん。ドラゴンのメスはオスの1,000倍ぐらいの強さがあるから、誰も逆らわないんだ。冒険者ギルドの呼び名では、ヘルカイトって言って別種扱いだよ。ドラゴンの尊厳も誇りも踏み躙ってる。女だからってわけじゃないけど、暴力で人の生き死に簡単に関与してしまえるなんて間違ってるよ」
「それで僕がヴァミリオンドラゴンに体を貸して、全力でそのヘルカイトを倒すってこと?」
「そういうこと。別に殺されなくていいよ。僕一人だと、手加減が出来ないからマッキーに上手く手綱を握って欲しいんだ」
我が半身にして魂の片割れ。もう一つの魂。僕がヴァミリオンドラゴンにどれだけの借りがあるのか。僕がヴァミリオンドラゴンにどれほどの迷惑をかけたのか。そして、ヴァミリオンドラゴンは僕にどれだけ信頼してくれたのか。死にそうな時も、ダメになりそうな時だって、僕をずっと信頼してくれてた。僕が死ぬときはヴァミリオンドラゴンの死ぬ時だった。
「オッケー」
ドラゴン変化第二形態。一気に飛ばしてく。周囲の意識が一瞬僕に向いた。
「僕の体を貸すから」
ヴァミリオンドラゴンが僕の体に歩いて通り抜けるように肉体の奥深いところに入ってくと、僕の魔力の源泉は沸騰したように爆発的に上昇した。
「いっくよ!」
翼で一息に、羽ばたく。最近こういうのは全然やってなかったけど、体が意志が、覚えてた。虹色のオーラに加えて白オーラがまばゆいばかりに輝き出す。爆発的推進力を伴って、他のドラゴンをぶっちぎってドラゴンの嵐を駆け抜ける。目指すはドラゴンのメス、大ボス、ヘルカイト。
「…」
大き過ぎる。月の十分の一ぐらいのばかデカいドラゴン。
「…」
圧倒的な眼光。怖過ぎる。怖過ぎるので、ビビるよりも先に、その頭をぶん殴ってた。
「わらわを愚弄する愚か者よ。お前は不適格だ」
テレパシーでそう言われた。ノーダメージというより、むしろ僕の拳が潰れた。
「僕だってお前みたいなヤツと見合いなんてノーサンキューだよ馬鹿野郎!」
次は手加減せずに、ぶん殴った。
「がッぁ」
周囲の空間を切り裂きながら、巨大なうねりとなってぶっ飛んでいった。
「そのまま星になってくれるとありがたい」
一瞬、何千何万ものドラゴンの動きがぴたりと止んだ。大嵐が、突如として静寂に包まれた。というよりもむしろ、学生時代の全校集会で名指しで校長が注意したかのような気まづさを感じた。
「祭りはもう解散だ。空間だって、もう柔らかくなってる。くだらないカーニバルは終わりだよ!!」
咆哮を一つ。それだけで、この日本語の文章となって周囲に響き渡った。ドラゴンの咆哮はこうまで便利なものらしい。咆哮を受け取ってゆくと、そのままドラゴン達は他の場所は去っていった。
「大勝利!ブイ!」
そして僕達は勝利のVサインをやってのけた。