エピローグ むなしさギャンブラー
喫茶店でまったりするハズだったのにノリで余興に興じてお財布空っぽにされた挙句身ぐるみ剥がされてしまう結果となってしまった。僕とマスターと妻で、無言でトボトボと歩き、結局最寄りのスタバで歌舞伎町を見下ろしながらスイーツみたいなコーヒーを飲む。最悪の味がしたけど、妻がなんとか洋服も財布の中身も取り戻してくれたので不幸中の幸である。
「パチンコ行く?」
目からハイライトを失ったマスターがそう言った。ちなみにマスターがギャンブルで負けてたのは50%のハイアンドローである。それを都合3回。マスターが言うにはイカサマの類は無かったという話だけど、僕が思うにガチのマジのディーラーはシャッフルも指で覚えることができるように思える。元々用意してたトランプの配列を全て暗記してシャッフルも指で覚えれば可能ではないかと。最後に三つに切り分けたトランプの山札もただ並べるだけじゃなくて自分でカットすべきだったように思える。そして僕が負けた競技はポーカーだった。これは純粋に慣れ、不慣れが効いていた。慣れてるなら僕の顔や仕草で自分の配役の強弱が丸わかりだろう。勢いでオールベットしたのも悪かったし、洋酒の効いた極上スイーツを食べたのも悪手だった。
「パチンコ…どうする?」
最後に取り戻してくれたのが妻だったので、ツキコモリさんがやりたいってちょっとでも思うなら、やらせてあげたいかなって気持ちもある。あの喧騒とこの世の邪悪の巣窟みたいな場所で、頭を空っぽにして狂乱するのである。確かに、今、僕もまたそんな気持ちではある。
「今日はもう出ないと思うけど、マッキーに任せるよ。ああいうところにいたら良くないとは思うからね」
その通りである。だったら今日はもう解散で…。
「ジャグラーがやろっか」
「え?」
どう考えてもパチンコ行くの止める流れだったよね?これだから依存症の人間は正常な判断ができないわけだ。薬物治療も視野に入れるべきである。ついでに入院もした方がいい。
「あのね、良い台はもう午前中に判別終わってぶん回されてるよ。良い台をこんな夕方に取れるほど、新宿のスロッターはバカじゃないですよ」
「勝ちだとか負けだとか、どうでも良いんだ。本当のところは。ただ、あの、辞書に載ってない光り方をする不思議な色を見たいんだ」
死んだような声があるとすればこういう声なんだろう。ギャンブルは人からお金だけではなく、自信も尊厳も奪ってゆくのだ。こっちの方が情けない気分になってきた。
「これ以上負けるっていうんですか?いいですか。パチンコ台ってのは店側に設置されてある機械なんですよ。一条店長だって店側が100%勝つって言ってたじゃないですか」
「じゃあ、パチンコで一万円ノリ打ち…。なんかもう。何かにすがらないとやってけない精神状態なんだよ」
「ツキコモリさんやる?疲れてない?」
「疲れたけど、少しぐらいなら…」
なんかまた行く流れになってしまった。とんでもない一日になってしまった。
「じゃあ一万円までですよ。それ以上やりたいって言うなら、サブマス呼びますからね」
「おっしゃあああああああ!!行くぜっ!」
これがパチンカスの末路である。パチンコとは、お金だけではなく人格すらも破壊する。警察よ、もっと規制してバンバンパチンコ店をぶっ潰せ。それかさっさとIR通してカジノを佐賀県にお願いします。
「また同じ店ですか」
「やられたから取り返す」
「次はもう抜くのやめてくださいよ。出禁になりますから」
「分かってるって!!」
ルンルン気分で再びパチ屋に入って行ったが、僕達三人はそのまま大当たりにすらならずにフィニッシュなす。そして朝イチから十万やられた台は大爆発して一撃でコンプリートの稼働停止になっていた。四十万出ていたのである。
「…」
マスターがガチ真顔になったところで僕たちの狂った一日は終了を迎えた。
「歩けます?人呼びましょうか?」
「…」
顔が福笑いみたいに壊れてたので、サークルメンバーに連絡して引き取ってもらった。
「帰ろっか」
「うん」
そして僕たちは空間をぶち抜いて我が家に帰って、カップラーメン食べてネットフリックスでホラー映画観てから寝た。空虚に酷似した何かに時間を奪われた気持ちになった一日だった。




