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エピローグ 続々、続々年一

昼飯を終えて会計へ。


「ゴチになりました!」


マスターは土下座する勢いで深々と頭を下げる。なんたって一人で五千円分くらい食べてるからね。そうなるよね。僕も妻に感謝を述べる。二人とも収入は全て積み立てて、そこから必要な分だけ支払いや支出で抜いて、最低限のお小遣い制度でやりくりしてるのだ。まぁ今日妻は大勝ちしてるから問題ないけど。


「…」


何か言いたそうなマスターの顔が出てきたので、何か言う前に僕が言う。


「マスター十万円負けですよね。流石にまたやるとか、ないですよね」


「パチで少しは取り返したし!でも、流石に打ち止めだな。パチスロやってると金銭感覚麻痺してくるからヤバいわ!」


「ですよね」


「でもね。負けて負けて、負けてくると段々気持ち良くなってくるんだよ。心と頭と財布がぶっ壊れてきて、ひょっとしたらこれって破滅に向かって突っ走ってるんじゃないかって。でもやめられないんだな。なぜなら、そこで辞めたら負けを認めたことになるから。辞めない限りは負けにはならない。それがスロットやパチンコの恐ろしいところだなぁ」


「依存症じゃないですか!」


「自覚してるし、あそこにいる奴ら、総じてその自覚もあるだろう。でもな。ギャンブルをするって、そういうところを走るってこと。イベントってそう言うことなのね」


「イベント規制大正解じゃないですか。もっとどんどんパチンコ屋が無くなればいいですよ」


僕がそう言うと。


「潰れてジャスコになれぇええええええええ!!!」


誰かが大声で叫んだ。


「今叫んだヤツ二十二万負けだって」


マスターがケータイ見ながらそう言った。


「皆金銭感覚壊れ過ぎだろ。それとも金持ちなのかな?普通の会社員の初任給の手取りって平均15万円ぐらいでしょ、どっか狂ってるよなぁ」


「まぁ人間狂ってないと生きられないからね。生きてるだけでもとっても偉いよ」


僕達は生き急ぐ歌舞伎町を行き交う人々を見ながらそんなことを話す。お腹も膨れたし、パチスロで500円勝ちしたし、妻は大勝ちしたしで、今日は大満足だ。もう十分脳汁は垂れ流した。


「立ち話もなんだし、喫茶店入る?」


妻の提案。ナイス。またパチンコやりたいって言い出したらどうしようかと内心思ってたところだ。お腹には子供もいることだし、1000%体に悪影響だっていうのは確実だろうし、このままの勢いでパチ屋から離れたい。


「いいね。それとも、今ロフトでなんか面白いのやってるかも」


「ロフトってなに?」


「いろいろなイベントをやる場所だよ。新宿ロフトって言えばサブカルチャーの聖地って感じで。えーっと、なんて言ったらいいですかね?」


「狂人達の発狂する場所だよ。ライヴ会場みたいなところ。座談会とか、四方山話とか、怖い話とかね。ぶっちゃけ興味ない人からすると、マジでしょうもないって感じなんですけど。えーっと今日の午後の部はー。恐怖の電波男の来襲、捕獲できるのかスーパーモンスター」


「面白そう」


「うん。絶対行かない」


そう決めた。行きたいって言われても絶対行かない。そう決めた。東京で上手く生き抜くコツは、ヤバいもの、ヤバい人、ヤバい場所には近寄らないことである。これ、鉄則である。是非復唱して欲しい。


「ゲッタンゲッタンたたかいのぉときぃ」


「とりあえず喫茶店行きましょうか。少しゆっくりして美味しいコーヒーでも」


いつにも増して、この場所は雑多なフェスティバルみたいな場所だ。世界各国から観光客が押し寄せてきてる。アニメや漫画だとお馴染みの場所だし、新宿駅から近いし西武新宿駅のすぐ隣だし、爛れた大人のデパートなのだ。それでもキョロキョロしてる観光客は少ない。皆、行くべき場所を知ってるのだ。どこへ行こうというんだろう。僕達はとりあえず。パチンコ屋ムーヴではなく喫茶店にステージチェンジしようとしたところ。


「…」


違和感を感じたので群衆のオーラを視て見た。好戦的なオーラを出してる人が至る所にいて、僕達に視線を送っていた。


「気にしなくていいよ。ただの監視だから」


「さっきはいなかったですよね」


「オレ他人は気にしない人間だから。朝ご飯遅かったんじゃないかな」


「うん?」


一瞬ヤバい魔力を感じて振り返った。しかしそこにはいつもの日常の風景が雑多に流れてるばかり。


「ルノアール行こうか。今度はオレがご馳走するよ。ちなみに新宿のルノアールって東京じゃ一番高いんじゃないかな」


「今なんか、なんかいなかった?」


「気にしないでくださいっすよ。いこーぜマッキー」


マスターの右の拳にはまとわりつくようにグロテスクな色をしたオーラが垂れていた。


「ずんだ虫だよ、ずんだ虫」


「そうですか」


ずんだ虫ってなんだ?


「ずんだ虫ってなに」


「妖精から生み出される脳汁みたいなもんですよ」


「そうなんだ」


絶対違うだろ。


「闇カジノってのはあるけど」


「闇カジノって、闇のカジノなの、それとも闇であるカジノって意味なの、カジノの装飾語なの」


「闇のギャンブルができる違法カジノの略ですね」


「…」


「ルノアール行きましょう」


妻が変な遊び覚えちゃったらどうしようか。






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