続々、年一の
目の色を変えて、朝からパチスロで並んで、それでもって財布から一万円を出してゲームに突っ込む。ギャンブル依存症の末期、ここがそもそも、地の獄ではないだろうか。富豪が遊ぶメダルゲームであって、そもそも普通は勝てないと隣のジャンキーは言っていた。皆気付いてないのだ。このパチンコ屋こそが、脳内麻薬の大型百貨店であり、お金も気力もかっさらう地獄なのである。
「4200枚、八万円で投資一万円で七万勝ちか」
隣のジャンキーはどうやら天井の50%を通せずに、酷い顔で打っている。正に亡者。
「こい、こい、きてくれ、こい!」
「そういえは、パチスロとかパチンコの確率を操作する基盤って無作為なんですかね。僕なんて高校の頃の台打ちでジャグラー打ってた時なんか、設定を入れた瞬間にどこで光るのか、大まかなスランプグラフのロードマップに沿って出玉が管理されてるって思ってますけど」
「シナリオ信者か。基盤も台によるんじゃないかな。ビッグデータの統計で、負ける時はとことん負けるって出てたから、無作為じゃないとは思う。ぶっちゃけ新台なんかは出た当初はプレミアフラグを引きやすくなってたり、ホールというよりメーカーが出る仕様にしてたり。まぁ逆に逆タイマーで全く出なかったこともあったらしいけどな。そもそもメーカーの公表してる数値、例えば初当たり確率に確変突入率に継続率、それが本当に真実なのかも打ち手側が確認する事だって出来ないからね」
また大音量のぱぱぱぱぺぺぺぺぽぽぽぽばーが聞こえてきた。ここまで聞こえてくるなんてヤバすぎる。隣の客が迷惑であるってか最近の台は音が凄いな。脳に突き刺さるような電子音だ。
「それでもよくやりますよね、死にそうな顔しながらも」
「勝てるからね。今日だけは。しかもこれ、さっき456確して奇数示唆ばっかだから、多分5」
「それでもう後1万円なんですか」
「最近のはね、荒いのよ。これだけ全台456とかなら、負ける台も出てくるんだよね。オレは店側が最終的にいくら勝てるのか、それで見てるから。逆に言えば、出るコインの量は決まってるってこと」
「じゃ帰りませんか?それかそろそろその白い手袋脱ぐかにしてください」
「これはそういうんじゃないから。でもな、マッキー。まだ開店してから三時間も経ってないんだぜ」
死にそうな顔がそう言った。
「それ本当に高設定なんですか?」
「もしかしたら、ガセかもしれないけどね。これ新台だから」
「ちなみにこの台はどうですか」
「それは分かんないね。示唆系出てないし、そんなに出たのは確定役とレア役のタイミングだし。上なら、まだそこから出て、下ならすぐに無くなる」
「いや、僕はもう十分なんですけど」
「ばばばばぺぺぺぺぽぽばばばばーー」
「絶好調ですね、あそこの角台。マジで迷惑ですけど、光量もマックスでガンギマリしてんじゃないですか」
「あの台さ。確変中に選べるモードがいくつかあってさ。大御所声優のモードは全然連チャンしなくてさ。ロリ二人モードの連チャンは結構高くてさ。モードによって継続率が違うと思う。これ、あると思います」
「解析でバレるような仕様はしないと思うなぁ」
「店で台が魔改造されてる可能性だってある。でもこれは一応新台三日目だからね。このゴッドはまだ純正品だと妄想してる」
「あっ。チャンスゾーン当たりました」
「岡野洋一って、まじでクズだと思うけど。こういう時欲しいのは、一緒にハマってくれる仲間なんだよね。望ましいのは、オレに後に当たってくれること」
「ノリ打ちって言ってませんでした?」
「それでも、それでも!」
「また何かのアニメネタっすか。最近アニメ観てないんですよね。あっ外れました」
「あ。ああ。あああ」
「どうしたんですか」
「しゃたろーが、いた」
「誰だよ!?わかんないよ!これ、換金してきますね。4000枚で十分でしょ」
「あ、ああぁ」
僕はそのままカウンターで景品の金貨に変えてもらって外に出た。新宿の、いつもの変わらない人間性のある街模様の昼下がりである。
「そういや換金所どこだろ」
目の前にお巡りさんが巡回してたので尋ねてみると、分かりませんの一点張りだった。
「そこの交番で聞こうかなぁ。あ!」
よくよく周りを見ると黄色い看板があった。換金してもらうと72000円。そっか。ここ等価じゃないのか。
「カフェオレ買って戻るか」
そういや、ハニーはどうしてるだろうか。なんてことを考えてエスカレーターを上って地獄に舞い戻ってくると。
「。。。」
ぱぱぱぱぺぺぺぺぽぽぽぽばー。
「つ、ツキコモリさん」
大音量の爆音でダイバクハツしてたのは妻だった。
「あ、マッキーこれ凄いよ、もう3万発出てる。サミタに課金しちゃおっかな」
「す、凄い。ね。えっと。とりあえず、音量下げようか」
「そういうのあるんだ」
目の瞳孔が開いてるし、目がばっきばき。完全にきまってる状態である。やっぱり、光の量マックスだし。電子ドラッグって呼ぶべきなのかもしれない。マリファナが可愛く見えるレベルだぞ、これ。
「まだ出そう?」
でも目茶苦茶楽しそうだ。脳内麻薬ガンガン出て、脳汁で視界が奪われてるところだろう。
「まだ出そう」
「じゃ、また後で」
あんな顔、見せたことがない。まぁここは電子ドラッグ専門店だから。そもそも、普通に生きてても絶対得られない快感なのである。これは、人間の業だ。だとしたら、僕が意見できる問題じゃないかもしれない。
「あれ?マスター?」
マスターがパチンコに移動してた。
「456だったんじゃないんですか?」
「いそまるさんに聞いたら、高設定示唆強だって。多分1」
「でしょうね」
僕も隣に座って財布から二万円出してノリ打ち分の勝ちを渡した。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「マジ止めてください、そういうの」
僕は気付いた。
「あれ?」
マスターは右手にポケットに手を突っ込んで、左手でハンドルを捻っていた。
「まさか」
「十分喋らいで」
盤面にはどすけべなアニメが水着でやらしいポーズを決めてる図柄が回ってた。
「。。。」
それが高尾だった。
「。。。ふぅ」
マジかよ。