表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/198

第十三話 ニコニコお面を被っちゃった人

「ギルド登録飛ばしますよ~」


「はい」


ギルドの登録が終わると、端末にいろいろ情報が入ってくる。ギルドメンバーのログイン状況やギルドに対するヘルプ的なチュートリアルにハウスルール。


「ダニー・オーシャンって人がギルドマスターでジャッカル・エルスって人がサブマスターなんだ」


ダニー・オーシャンってロバート・デニーロ…じゃなくってジョージ・クルーニーがでてたオーシャンズ11の映画から取ってるのかな。オーシャンズ11もリメイクされてるやつで、元はオーシャンと11人の仲間って邦題の映画で主演がフランク・シナトラ。シナトラかぁ…。80、90のお爺ちゃんだからシナトラファンなのかな。エヴァのフライミートゥザムーン、やっぱりマイウェイは名曲だ。誰かが葬式で流してくれって言ってたっけ。


「ですです~」


他にもマーベン、アクスター、メンバーの名前とレベルがずらりと並んでる。


「ミルフィーさんってギルドの中でも高いんだ」


「ギルドの方針上、最大瞬間火力を上げるための武器や装備品はアタッカー優先で配られましたからね~。武器が良ければレベルも上がり易くなりますから~」


「結構少人数制なんだね。100人以上の大御所かと思ったらミルフィー入れて八人しかいかないし」


「うちは仲良しのギルドが多くて、動くときは他のギルドと連携を取って行動しますから~。少人数精鋭でいた方がなにかと都合もいいですからね~」


「おねえたまって人もいるの?」


「ソフィア・ローツって名前の人ですよ~」


「へぇ。レベル80かぁ…」


「本職は銀行家で最近は顧客にRealツアーをサービスしたりしてるんですよ~。富豪のお年寄りにRealで元気になるサービスですね~。好評みたいです~」


「なんでもありが謳い文句だからね…」


「元気になるサービスってどんなの?」


「性転換や人間でない怪物のアバターとかで現実じゃできない本能を満たしてくれるあらゆる快楽の提供みたいですよ~。私はそこの事務処理や法的手続き、数の改ざん作業なんかやってます~」


「最後のは聞かなかったことにしよう。へぇ。仕事してんだなぁ…」


大変そうだ。大人のやってる事って大抵大変でどうしようもない個人的趣味だったりするからね。Realで遊ぶのはエロゲーで遊ぶのと同じくらいか。下手したらおっさん同士で。う。ちょっとこれ以上のゲスの勘ぐりは止めておこう。


「マッキーは王子のギルドに入れば、ニューヨークのペントハウスぐらい新入社員のお祝いでくれそうなもんですけどね~」


「ペントハウスねぇ。都会のプール付きのビルでしょ。最初の二か月で絶対飽きそうだよね。佐賀県の実家の絶景スポットが拝める温泉も段々と行かなくなったし…」


「ニューヨークと佐賀県を比べるのはどうかと思うよ」


ツキコモリさんからの指摘があったが、とんでもない誤解である。心のふるさとと行ったことの無い大都会はどちらが大切かは明白なのである。つまりイーブン。


「佐賀県推してますけど、マッキー東京じゃないんですか~?」


「よく東京だって分かったね。通ってるのは東京の新宿の高校。家は千葉県市川市。祖父の方が佐賀県で、喫茶店経営。親戚は農業とか漁業とかやってるんだよ。ニューヨークよりもよほど大切なんだよ」


「佐賀県ってどういうところなんですか~?」


ミルフィーさんからご質問頂いたのでお答え致しましょう。


「一言で言い表すなら、何も無いが有る。だね。でもね。田舎特有の観光スポットや特産物なんかはオールマイティーに押さえられてるんだよ。海もあるから海産物は取れるし、有明湾もあるから海苔も有名。山だって連なってるから果物は取れるし盆地も多いから田んぼだってあるし。正しく田舎。そこら辺の田舎とは違った真なる田舎があるんだよ」


ミルフィーの可愛らしいもふもふウサギ野郎の顔が、露骨に、何言ってんだこいつって感じになってる。まぁ初心者にはわかんないよね。佐賀県の良さは。


「…」


「マッキーって~佐賀県の事を凄く饒舌に話しますね~。もういっそのこと佐賀に帰ったらどうですか~?」


「いやだよ。あんな田舎」


「そこは嫌なんだ」


ツキコモリさんから突っ込まれた。


「なにも無いもん。…でもね。ふと思い出すんだ。意外と案外悪くなかったんじゃないかって。だから。たまに遊びに行くぐらいがいいんだよ。お盆と正月。たまに何かでふらーっと。小さい頃に過ごした田舎って、なんか不思議と…。故郷を思えるんだよ」


「良さそうな話なようで普通で深そうな話で普通な話ですね~。はいこれ~招待状です~。首から下げといてください~」


ミルフィーから受け取った首から下げれる招待状の名前には。


「なんで名前がルーキー・ザ・ナナシになってるんだ…」


「そんでもって、これも被ってください~」


「なにこれ…」


スマイリーマークの黄色い仮面も渡された。ニコニコマークでお馴染みのヤツ。


「流石にゆーちゅーぶの格好のまま、そのままの名前じゃバレますからね~」


「ユーチューバーで大人気らしいからね」


「うッ。そりゃそうだよね…」


「一度装着したら自分の意志でしか取れませんので素顔を見られる事がありません~。本当はボイスチェンジャーも欲しかったんですけど、半端に怖そうなので止めました~」


「そりゃあねぇ…」


渋々被る。うん。問題無い。


「なかなか似合ってますよナナシ~」


「結構悪くないよ、ナナシ」


「当然のように切り替えてナナシって呼ぶのあんまりじゃないかなッ!?まぁいいけどね!?これ仮面取ったらナナシって呼ぶの止めてよね!」


「設定はどういうの?」


「特に考えてませんが~。最近加入したドライバーさんってことで~」


「壮絶な過去があって、ドラマがあって、紆余曲折でトワイライトに加入。スマイル仮面の裏側は冷徹な元殺し屋。家族を守るために更生中。一年間は殺しはご法度で破ったら即座に始末…。とかどうかな」


「なんだよそれ!?映画とかでありそうな設定だよね!?っていうか最後のとかどっかのマンガの設定丸パクリじゃないか!」


ツキコモリさん、僕がマスク被ったからっていじっていいわけじゃないからね!?


「こういうのはどうでしょうか~。痴漢冤罪で捕まった会社員~。ヤクザにハメられて闇金に走る~」


「壮絶な人生ってとこから設定考え直さない!?」


「Realでプレイヤーキラーとして生活したある日、謎の優しいウサギ型生命体に命を救われる~」


「その設定まだ続けんの!?っていうかそれあなただよね!?」


「恩を感じて借金返済のために奴隷になって今に至る~」


「それ闇金ウシヅノ君かな?ブラック過ぎるでしょ!」


「最後はプレイヤーキラーとしてじゃなく、プライヤーとしてウサギ型生命体の命を守るんだね。結果として死亡して全データ消滅。お涙頂戴の一言を言った後、トヨタの自動車工場で仕事をする一コマ。最後は美味しそうにペットボトルのお茶を飲んでうまッって言うんだね」


「ブラック過ぎるよ!そしてよく聞いてたらありそうで怖いよ!」


「これでもハッピーエンドなんだけど」


ツキコモリさんが言う。


「どこがハッピーなの!?僕が知ってるハッピーエンドとは比べものにならないよ!?」


「なかなかいい感じに設定がまとまってきましたね~」


「全然まとまってないよ!?さっきから話聞いてた!?」


「うん。それでいこう」


「どれでいくの!?今どこの部分!?」


「謎のウサギ型生命体の奴隷君になってるとこだよ」


「バッドエンドルートまっしぐらのシナリオなんて突っ走りたくないよ!?なんかこのニコニコマークの仮面被ってから当たり強くない!?」


「渡した私が言うのもなんですけど~」


「な、なに?」


「見てるとイラっとしてきますね~」


「じゃあ買ってくんなよこんな仮面!」


「今日も絶好調だね。元気になった。行こう」


「行きますか~」


「切り替え早過ぎでしょ!散々いじられてフォローも無し!?僕凹んじゃうよ?主人公なのに凹んじゃうよ?ボイコットするよ!?」


「奴隷君さっさとドレーク出してください~」


「その設定まだ続けんの!?正気!?」


全然納得いかずに、人生の不条理さを嘆きながら、ドレークの手綱を取ってバベルの塔へ向かう。頭に血が昇ってるせいか、気合で自律神経を維持しまくる。


「どの辺に停留所があるの!?」


大声で言った。風が強くなってきたようだ。星明りが薄い紫から少しずつ輝いてくる黄昏時の中、飛んでる。舞い上がってる。


「最上階の少し下ですね~!結界限界庭園と呼ばれる大規模な庭園です~!見えてきたら皆さんもいるので分かり易いですよ~!」


「オーケー!」


旋回しながら上がってくと確かにドレークやわけのわからないモンスター達がいる場所があった。それにしてもこのバベルの塔。何メートルあるんだ?幅も東京ドームぐらい………いやもっとか!?10兆とか言ってるけど、一体…。どれほどの労力でどんなことに使われてるんだ!?


「…」


偉大なるギルド、このRealに君臨する帝王達。地球の覇者。歴史上の人物。王様も資本家の頂点も歴史の伝説も。


「…」


今この瞬間、僕のてのひらに。


「…」


ふと横を見た。ツキコモリさんが目を見開いてる。驚きの中、楽しそうに。どんなことができても。なにがやれても。その顔を見れるだけで、僕はもう満足になる。これ以上無い。+謎のウサギ型生命体もひっついてるけど、こんな大空でこんな場所で、なんて詩的絶景ロマンティック

「双葉クローバーの餡かけ、リローメッシュ煮込み、ソルフアンティッシュボイル、ソルフアンティッシュザウルスのステーキ、グレードヤードボイル、モロモロ平野のアンディッシュサラダ、ネルイチジクのシャーベット、ソルフアンティッシュフルーツのミックスジュース」


「…うん。オーケー」


「総料理長の私が言うのもなんですが、あまりにも…壮観。ですな」


「未曾有には未曾有ってヤツ。折角鴨がネギを背負ってきたんだ。タダで返すわけにはいかないだろ?」


「ソルフアンティッシュザウルスの捕獲だけで一体どれほどの…」


「ナンバー1ってのはね。こーゆーことよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ