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エピローグ 部屋の主役はやっぱり妹

結婚した僕達の部屋の内装のために参考とするべきお部屋第一弾は佐藤さんのお宅である。


「新宿駅から徒歩三分の2LDKって良いとこ住んでるね。…これなに?」


僕達は佐藤さんの玄関のチャイムを押す前に、チャイムの横に貼られたシールに注視した。


「全国民義妹化計画」


マジな話なら、全人類不老不死化計画や、人類補完計画よりも遥かにヤバくて邪悪な計画である。そんなこれまで見た事の無い邪悪を可愛らしい萌えキャラがハートを添えて宣言してる。


「ごきげんよう、お兄ちゃん。だって」


「名刺代わりだね。この部屋がどういうものなのか、はたまた自分がどういうものなのか、全てを要約してくれてるんだよ」


そこで妻はゆっくりと僕の方へ向いて訴えかけるような目で僕を見つめた。


「私もセーラームーンは好きだけどここまでじゃない」


「人生を懸けてるからね」


そしてチャイムを鳴らす。


『おかえりなさいっお兄ちゃん!』


「…」


「人生を懸けてるからね」


間を置かずにスーツ姿の佐藤さんがドアを開けてくれた。


「待ってたよ。入ってくれ」


シトラスレモンの香りがする部屋に僕達はあがらせてもらう。


「ツキコモリさんはハローキテ―かミッヒー。マッキーはケロッピのスリッパを使ってね」


「…おじゃまします」


「おじゃましまっす。へぇ」


妹系エロゲーの特典ポスターが天井を除いて一面張られている。


「…」


妻が何か訴えかける目つきで僕を見てきたが。


「こういうのも一つのロマンの形であて、夢を体現した一つの部屋。理想を叶える部屋を作るという意味では、佐藤さんの部屋は外せないよ」


「マッキーの部屋の進化系だね」


「僕は特典系限定グッズは大切に保管するタイプだからね」


アクリル板で厳重に囲われ照明を一点に受けているのは妹系萌えキャラクターの代名詞ってぐらいのキャラクターである。


「これ佐藤さんが落札したんだ」


「ああ。最高傑作だね。おっと。ここ禁煙だからね?」


「二人共吸わないです」


「なら良し。えっと…。コーヒーでいい?」


「はい」


「二人共ブラックで」


「挽いてる間ゆっくりみ…。ゆっくりしていってね!」


「は、はぁ…」


「甘い物は僕はチョコケーキ、妻にはチーズケーキで」


「はいよ」


佐藤さんが引っ込んだ間、僕達は色とりどりの妹フィギュアで飾られた棚を注視してゆく。


「…楽しい?」


これは僕が楽しいという意味で楽しいと言ってるのではなく、この部屋の主がここまでの労力と資金をかけて作り上げた部屋で過ごして人生が楽しいのだろうかという疑問である。


「人生懸けてるからね」


「確かに昔の私ならテンションは上がったと思う。セーラームーン好きだし」


「二次元に住まう男なら誰でも絶好調になれる部屋だと思うよ。無論、僕もね」


「マッキーも義妹好きなの?」


「僕の場合は一人暮らし設定なのにそういうのは一切なかったからね。近所の親しくしてくれるお姉さんもね。だからこそ、こうであったらいいな、楽しいなって空想を具現化させた二次元のアニメやゲームなんかに想いを馳せるんだ。寂しさや切なさばっかりの一人暮らしに色を与えてくれるのは、夢と希望なんだよ」


「そうなんだ。でも、これってどれもあんまりえっちなの無いね」


「ベクトルが違うんだよ。もちろん、そういうのもあるだろうけど、エロじゃあ無いんだよ。エロで頑張れないよ。そこに可愛らしい笑顔一つあればいい。そういう人間なんだよ」


「なるほど」


「人間じゃないけどね、厳密には。はい。どうぞ」


妹キャラの顔で埋め尽くされてるテーブルマットの上にはティカップとケーキが置かれた。僕達は座っていろいろ談笑した。


「何で妹なんでか?」


不意に妻が質問した。


「それはね、いつも傍にいるお兄ちゃんを支えてくれる元気いっぱいの象徴だからさ」


「元気いっぱいに支えて欲しいと思ってたんですか?」


「その通り。先ほどマッキーが言ってくれたように、男には生きるための道しるべが何かと必要でね。それが無ければ迷ってしまうことだってある。俺にとってはその究極が義妹キャラだったんだ」


「フィギュアとか必要ですか?」


「朝起きた時、彼女達の眼差しで自分が何者なのかを思い出してくれる。夜眠る時、独りではなく見守ってくれるのだからね。俺にとっては必要なんだ」


「そうなんですか」


「寝室だから入れたくないけど、そこでは二次元美少女の、抱き枕、ベッド、布団、枕、マット、声優さん撮り下ろし目覚まし時計、職人に描かせた天井の風景画、真に迫ってると思う。身も心も満たしてくれる完璧な場所も作った」


「へぇ」


「キャラは統一?」


「寝具周りだけね。でも俺の場合は嫁っては言わないね。時折キャラだって変えたりするから。アニメを見ててもその時々の心境で別キャラに心を寄せたりもしちゃうから」


「なるほど」


「あ。コーヒーの香りスゴイ」


「オリジナルのブレンドだからね」


僕達は豪華絢爛な妹たちの中で楽しくお茶をした。妻も意外とフィギュアに興味を寄せていたことに驚いた。佐藤さんの家を後にしてから、妻と一緒に秋葉原を回った。セーラームーンのフィギュアを四体買った。

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