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エピローグ ニコラスケイジのファン

ニコラスケイジの出てる映画を見ていた時。


「ニコラスケイジかっこいいね」


「最高だよね。どういうところが好きなの?」


思いもよらないところで共通のファンである事が分かって嬉しい限りである。時刻は真昼間でカーテンを閉め切って大きなモニターで映画を観ていた。


「借金で首が回らなくなっても薬物に流されないで俳優ちゃんとしてるとこ」


「…基本的にハズレが無いとこが僕は好きかな。ニコラスケイジなら全て良作に見えちゃう」


僕達はまだ十代だ。早い結婚だと皆が言った。僕達はまだ社会のルールも世間も知らない高卒の夫婦である。だから僕は社会の在り方やら、働き方、世間一般の常識を知るために労働目的でバイトをしてみようと考えた。サークルのメンバーのOBが僕にぴったりのバイトを見つけてくれた。日本近海の海溝まで潜って調べるレアアースやらメタンハイドレードなんかの地質調査の依頼だった。これぐらいならいいかなって感じで受けて見ると謝礼金がとんでもない金額になっていたのが今朝の午前中の僕達の活動だった。


「これバッドエンドかな」


「ニコラスケイジ主演だとハッピーエンドかバッドエンドかジャケットで判断つかないのがいいよね」


大勢の機材、大勢の人員、条件の合う気候、必要分以上の物資、国家プロジェクトにかかる資金が額面通りに郵便貯金銀行に引くような金額が振り込まれていた。


「私達の部屋どうするか決めた?」


ニコラスケイジが一回死んだところで妻にそう言われた。


「部屋の内装の話だよね」


妻のお腹には子供もいる。つまり、やがては三人で暮らさなければならず、そのための家具だって必要ということだ。もちろん、妻の実家なのだから家屋から引っ張ってくれば古い揺りかごや本棚、赤ちゃん用のがらがらだって見つかるかもしれないが、折角の良い機会なのだから、ここらはちゃんと新しく家具を買い揃えてみるのも心機一転で悪くないだろうという結論に達した。


「実はまだ…」


正直言って、僕にとって部屋の壁紙やら内装は、エシディシのポスターとキッスのポスターぐらい関心が無いものだった。


「いっそのこと全部ミッヒーに統一しちゃう?」


「男の子だったらどうするの?」


「男の子でもミッヒーは好きだよ。僕好きだし」


「学校でいじられるでしょ。ペンケースが全部ミッヒーでランドセルも全部ミッヒーだったら」


それはそうかもしれない。ヤバイ。今の僕はきらきらネームやってのけるやべー毒親かもしれない。もう少し子供の将来に対して集中しなければ。ニコラスケイジが二回目に蘇生したところでアイディアが沸いた。


「じゃあさ。それぞれさ。お手本になりそうな人のお宅を訪問して参考にするっていうのはどう?」


「マッキーにしては珍しい案が出たね」


「ニコラスケイジマジックだね」


「次からハリウッドの試写会まで足を伸ばす?」


「そういうことやってると最終的に映画一本撮っちゃいそうで怖いよね」


「それちょっといいかも」


僕とツキコモリさんの結婚生活で始まって気付いた事がある。『それちょっといいかも』とか『それいいかも』とか言った時は要チェックだ。大抵ヤバイ事になりかねない。妻がカレーを初めて作るって言った時、凝ったスペシャルカレーを作ると意気込んだ時は絶筆に尽くし難い惨状になったし、結局僕は…。ベンツを買うハメになった。僕がしこしこユーチューブで貯金したお金がほとんどそれに溶けてった。義理のお父さんもお母さんも妻ですらベンツに対して執着を持っているのである。三対一、民主主義は成立してちょっといいベンツを買った。トヨタかホンダが良かったのに。未だに僕は根に持ってる。日本は世界に誇る最強の自動車国家なのだぞ、なにが悲しくて外車を買わなければならぬのだっという僕の魂は喉元から引っ込んで散っていった。つまり。ここで妻のニコラスケイジマジックを断っておく必要がある。絶対に、『ニコラスケイジでどんな映画撮るの?』なんて話を膨らませるべきではない。


「…そうなんだ」


「マッキーはニコラスケイジでどんな映画撮りたいの?」


キラーパスが回ってきた。人生は無常である。


「アクションは欲しいよね」


「必須科目」


もしかして要素を五科目ぐらい言わなきゃいけないのかな。


「ミステリー、サスペンスも必須だね」


「必須だね」


アクション、ミステリー、サスペンスとくれば、あとは…。


「後は定番のラヴアンドスリラーだね」


「良いね」


「ある時ニコラスケイジが起きると留置所の中で見覚えの無いの殺人事件の容疑者として扱われてる」


「うんうん」


「そんな時、鏡を見ると過去の自分が動画のように再生されている。それは夢か幻か…」


「うん。面白そう。オチは?」


「オチ!?」


予想を遥かに超えた無茶ぶりにたじろぎつつも。


「うーん。ディカプリオのシャッターアイランドみたいに一回見ただけじゃ良く分からないような感じで作って、真実は無実で殺人事件は実は殺人事件じゃなくて事故だったアンチミステリだった!とかどう?」


「天才」


「脚本は任せてよ」


「任せた」


そして墓穴を掘って大体、こうなる。僕の人生はずっと死ぬまでこうだと思う。でもいいんだ。もうなんだかとっても楽しいんだから。


「あ。ニコラスケイジ三回目復活」


「無敵だね。見ていて安心するね」


「カッコイイ時とカッコ悪い時のギャップが良いよね」


「もう芸だよね。一つの世界観。稲川淳二みたいな」


「ごめんちょっとわからない」


そして午後は部屋の内装を参考にするためいろいろなお宅を伺う事に決定してしまった。


「お昼何食べたい?」


「…。…。…」


夫として、僕は今試されてる気がする。妻の料理を選ぶか、安易に外食を選択するか。


「ハニーは何食べたいの?」


「ハニーは京都王将の大盛天津炒飯が食べたい」


「…いこっか」


空間をぶち破る超越能力でどこでも行ける。…けど。


「どこの王将?池袋の大盛天津炒飯はケチャップがかかってて一発芸だって言ってたし」


「水道橋はまだ制覇してないから水道橋お願い」


妻の密やかな目標に、日本の全国の京都王将を制覇するというものが設定の手助けができてちょっと嬉しい。でも、実はもっと手料理が食べたいんだよなぁ。


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