表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/198

エピローグ 独身さよならパーティ④

想いを込めた脇腹へのグーが突き刺さった。命の奪い合いではない、これはいわゆる子猫の甘噛み程度のじゃれ合いなのだろう。それにしても、どうだろうか。このヘンテコな高揚感は。これまで僕はずっと真剣勝負をやってきた。大体初撃の命中で終わるような実戦経験。遠くからの超長射撃を想定したオーラの張り方、防衛を目的としたオーラの編み込み方。なによりも殺傷目的の攻撃。殺す事への想い。脳髄からほとばしるこの世ならざらる不思議な感覚。古い脳から刻まれる殺戮本能の目覚め。そのどれもが、まるで感じない。ボクシングの練習スパーリングって感じだろうか。


「解、放する」


翼を展開し異形の肉体と化しオーラを変質させ魔力を向上させたとしても、僕に遠く及ばない。


「さぁ五分間はマックスだ!」


どんな攻撃も、目で追える。どんな動きも分かってしまう。段々と見えてくるモノが違ってくる。表面的な皮膚を超越し、内臓を透けて、骨格から流れる魔力と筋力、次の攻撃の意志が放たれる前に理解してしまう。圧倒的なレベル差の戦闘は、殴っても痛くないぐらいだって思ってたけど、こういうこともあるのか。相手への、理解。完璧なコミュニケーション。禍々しい程に膨れ上がったオーラは、僕に対してこの上ないほどの明確な意志を届けてくれる。


「…」


歌声が一瞬聞こえた。…詠唱?薄暗い体育館で…。


「…!」


夥しいグロテスクなヒト達が広い体育館に敷き詰められるように勢ぞろいで合唱してる。…してる?


「あっ」


何十、何百ものそれらが魂となって僕の近く吸い寄せられるに近づいてくる。かなり、早い。これは全部叩き折らないとヤバイかもしれない。どれほどのレベル差があったとしても、支配系統秘跡の条件を満たしたら一発で終了となる。ビッキーの件でそれは嫌になるほど分かってる。どれほどのレベル差があろうとも、相手には敬意を払う事が大切になる。全て拳で叩き落す。


「ぉぉお」


全て拳で砕ききった。途中で一撃で狙ってくる攻撃への対処もこなしながら、完璧に完全に、大技を凌ぎ切った。


「くぅぅうううううううう」


「ハァハァ…」


何百年も生きてる佐藤さんのお姉さんへの介護のつもりでサービスしてあげたんだけど、存外僕も、これはこれで滅茶苦茶楽しく感じた。完全にセーフティで、100%勝てる、絶対攻略できる市販のゲームソフトをプレイしてるような感覚だろうか。それともテニスのラリーで夢中で体を動かす事に楽しさを感じたのだろうか。


「くやしい!くっそぉ」


「はい交代。次俺ね」


これ。ひょっとしてサークルの面々とやんなきゃいけないの?


「僕とやりたい人って結構いる?」


「七人ぐらいじゃないかな。一方的な肩パンより良いだろ?」


うちのサークルでは、メンバーの恋愛はご法度になる。それが発覚した時点で基本的には厳重処罰。肩パンの刑という私刑も存在する。キスや遊園地に行ったりしちゃったら、100肩パンになる。ぽんぽん執行されるのではなく、一日かけて、人生を問われるのだ。不純異性交遊はそれほどまでにうちらでは罪が重いのである。


「ちゃんと申告してるし手続きはやってるよ」


「自宅に誰かさんとか連れ込んでたよね?」


「うっ」


殺されそうになった、血反吐出してパンツ一丁で泣きながら走った記憶が蘇る。


「じゃ。早速…」


殴り掛かってきたので、殴り返してぶっ飛ばした。


「悪いけどイケメンには容赦しないよ?」


「じゃ。次オレね」


サークルの面々をボコボコにしてあげた。僕もまたポコポコダメージを受けたので、おあいこだろう。戦ってる最中にようやく理解したことがある。それは、これは、彼らのためではなく、僕のためにやってくれたことなのだろうということだ。結婚して家庭に入る、冒険納おさめの僕への鎮魂歌のつもりだろうか。少なくとも、今後僕が未知への冒険をする事は無いだろう。愛する妻がいて、子供も出来るんだから、死ぬかもしれない冒険はやらない。今後は命のかからない仕事をやっていく。僕がドラゴン変化をする事も、もう当分無いことだろう。だから、僕が戦いを恋しがらないための、〆の時間だったのかもしれない。まぁ半分ぐらいはやってみたいぐらいの気持ちだったんだろうけど。でも、良い方への解釈を取るって結構大切だと思う。これからの人生はそうやって生きていこう。


「ありがと」


「お、おう。オツカレぇ…」


そうやって、僕のさよなら独身パーティは終わりを告げた。明日は結婚式で、最初の夜で、ちょっと怖くて泣いてたけど、なんか元気も出てきた。


「明日は結婚初夜だぞおおおおおおおおおおおおおおおおお」


手を挙げて叫んだ。心が叫んでみた。


「は?マジなにそれ。おいもう一回」


「あ。そういう事言う?」


「やる。やるやる」


「…ガチデッキ使うわ」


1対100ぐらいのマジモードの殺気を感じたのでとりあえず逃げた。


「もうお腹いっぱいなんだよ!!」


それから手加減無しのマジバトルを40分ぐらいやって逃げた。途中詰みの一撃が入ったけど月まで逃げたら解除された。思えば、結婚初夜って叫ぶ僕も相当悪い罪深い発言だったかもしれない。飢えた人間にウナギ弁当を釣り糸で垂らすべきではなかった。今後、調子に乗らないように気をつけようと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ