エピローグ 独身さよならパーティ➁
トップレスのダンサーが大爆音と共にポールダンスを始めた。鼻から匂う臭いから分かる。普通に使われないスパイスの香りと特徴的な大麻の匂いに複数の嗅いだことのない香水。ここ、日本じゃないな。流れてる音楽は数年前に流行ったエルパロのEDMのリミックス。元曲がペットショップ丸出しの下品で安易なDJは嫌いなんだけど。
「これ、いつまで続ける気?」
変わらず注連縄で僕は椅子に縛り付けられてる脚部。上半身には新しくSM用みたいな鎖で巻かれてる。どれも僕の力を封印させる能力を持つオブジェクトなのだろう。力が怖いぐらいに入らない。
「マッキーのためのパーティなんだ。楽しんで」
うちのサークルのサブマスターの声がした。どういうことだ。南極で終身刑食らってるって話じゃなかったのか。この人記憶力が化け物で頭が良い怪物でマスターを偏愛している女性だ。この人がこんなところまで出張るのだとしたら、これは、うちのサークル総出で僕のパーティをやっているということが想定できる。最悪だ。
「人死にが出る前に帰りますよ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。そういうのは大体気のせいだから」
早くも会話が成立してない。IQが30違うと会話が成立しないらしい。肩をぽんぽんと叩かれて頑張ってと言われた。何を頑張れっていうのだろうか。
「…」
トップレスのダンサー達が凄まじいどすけべダンスを僕の前でハッスルした。
「…」
それがなんなんだ?その程度で、僕の心は揺れたりしない。
「マジかよ…」
「天賦の才能か」
「さすがだ」
ピクリとも動かない僕のジーンズを見て、サークルメンバーの面々は恐れおののいていた。
「君達とは全てが違うんだよ。…僕はもう既婚者なのだよ」
僕がキメ顔で言うと、周囲のヒリアの人間はせきを切ったように僕に対して侮辱の嵐の数々を浴びせてきた。
「さすがだ。さすがだよマッキー」
マスターが直々にやってきた。
「三次元じゃこうなるってオレは信じてた。しかしコレならどうだ?」
がらがらとデカいモニターが運ばれてきた。買えば一か月分の給料ぐらいになりそうな大きさだ。パーティはいいからこのモニターくれないかな。
「…!」
北米版のエロアニメだった。しかも、続編を希望としていながらもついに続編が作られなかったエロアニメである。何度も何度も繰り返すようで恐縮であるが、良いエロ漫画、エロアニメは、ただ単純にドスケベであったり超過激であったり、とんでもなかったりするだけの代物ではない。心が深く突き動かされ右手を動かすことすら忘れ、読了後に心がすっかり奪われその世界観に縛り付けられ、心も体も精神も不思議な満足感を得ることができるものなのである。ただただ機械的にマスターベーションに使用されるドスケベや超過激なんかじゃない。それらはファストフードであり、どこでも安価で気軽に手に入る代物なのだ。良いエロ漫画というのは、そういうものではない。しかるべき状況があってしかるべき渇望がありしかるべき状態でしかるべき宿命と向き合うという、そういう運命なのである。
「続編があったのか…」
「楽しんでくれたまえ」
大音量の下品なEDMが消え、ダンスホールの照明が消え、真っ暗闇になり静寂が走った。
「…」
素晴らしいエロアニメをとくと堪能した。
「…」
「これほどとはな…」
ぴくりとも動かなかった僕のジーパンは当然の結果だろう。君達はまだ。まだ理解していなかったのだろうか。究極のエロスとは、エロくないのであるという逆説を。もはやそれはエロを超越しているナニカになるのである。超越しているものに対して、本能が置き去りにされ理性しか働かないのである。
「…ありがとう」
「ちくしょう!私が抜いてあげるつもりだったのに!」
どっかからか何かの声がしたが、聞こえなかったことにしよう。
「続いてのサプライズは私からだよ」
スーツ姿の男がライトアップされたと思ったら佐藤さんだった。
「私からはこれだ」
超鬱アニメの強制視聴。非リア同盟の鉄掟を破った者に課される制裁の一つである。超速5センチメートル。昔から気になってた幼馴染が段々少しずつ離れて行って最終的には遠い存在になっていって主人公は結局死ぬまで夢幻の追いすがる幻影を心に植えつけられるハメになる物語で、本当にガチでマジでよくある男性現実の物語を美しくも抒情的に描かれているえげつないほどにエグイアニメ。これを目をぱっちりさせられて三周以上を強制される。ヒリアの人間ならば、これで折れない人間はいないと言われるほどに非人道的な処置のはずであった。
「やってみろよ…。やってみよろ…。や、やってみよろ…」
カッコつけて二度言おうとしたら噛んでしまった。もう僕は昔の僕ではないのである。
「…ぅ」
心がえぐられるほどにキツイ。
「…っ」
なんでこんな物語描いちゃうかなぁ。とんでもないバッドエンドやっちゃうかなぁ…。
「…」
僕は物語のよくある主人公なんかじゃない。僕はちゃんと決断し、実行し、約束を守り続ける。良い感じになったんなら、だらだらと恋愛マンガやんねーで結婚すべきだ。それでも、ただただひと思いの片思いで一生ひきずられる人生って、そういうのって、いくらなんでもあんまりだよって思う。ひどいよ。救いがないじゃないか。男は引きずり忘れにくくて、女は簡単に忘れて新しいスタートを切り出すなんて僕の偏見だと思うけど、いくらなんでも、いくらなんでも、あんまりだよ。
「…っぅぅ」
二周目が始まる時、僕は思いっきり泣いていた。久しぶりに泣いていた。
「お前ら…これが見たかったんだろ…。僕の泣き叫ぶ顔が…っ!」
ひそひそ声だけが妖精の声のように、大暗室に鳴り響くのみである。
「お前らそれでも、人間かっ…!」
三週目が終わった後、サブマスターが満面の笑みで避妊具を僕の口に入れてきたので、逆上して食い破った。再び安っぽい下品なEDMが大音量で鳴り響き、褐色姿や金髪のねーちゃんがポールダンスを踊り出した。
「…っく」
生と死を体感したせいか、変に脳にどすけべが刻まれてゆく。これって、あれか。サウナに入って水風呂浴びて温泉入っての繰り返しで、脳が死にそうになる生き死に臨死体験を快感に感じる、整うってヤツなのだろうか。今の僕、整ってんのかって思う。整ってんのか?それともバグってるのか?
「…ぅ」
ここはおそらく、東南アジアの海上、インド洋あたりか。大人の魅力ふんだんに使いやがって。
「…」
どすけべなエロダンスで鼻先がむずむずしてきた。しかし、それでも、僕は、僕は、弱音を吐くことは許されない。
「なかなか耐えきれるものだな。いいだろう。予想通りの展開だ。次はお化け屋敷だよ。楽しみだね」
「…」
お化け屋敷。正直苦手だ。驚かそうとしてくる分タチが悪い。なんならモノホンの方がマシなんじゃないかなって思う。
「…」
今はもう、思いまわされるだけの小学生じゃない。僕を追いかけてこようとか、危害を加えようとするのならば、グーで対応するのみだ。化け物退治なら、なんら問題はないものだ。
「トイレ休憩あるけど行く?ちゃんと水溶性ティッシュここにあるけど」
「行かねーですよ!!」
普通のティッシュだと詰まる事がある。トイレで処理するのならば、水溶性ティッシュは必須事項である。僕は中一の頃それで親にバレてた。
「抜かぬなら、抜くまで待とう、ホトトギス」
いらっときた。
「ちなみに次はちゃんとしたお化け屋敷だからエロは無いから期待しないでね」
「してねーよ!!」
コイツらマジで…。