エピローグ ➁-1
一年が経過した段階で婚姻届けを役所に提出して晴れて正式の夫婦となれた。結婚式はまだ挙げてないのだけれども、それよりも大切なものがあるのだとツキコモリさんはシリアスな顔つきでカレーを食べた後に切り出した。余談になるが、ツキコモリさんの顔つきは微妙に変化する。そしてその変化は日々進化していってる。元々感情をだしてなかっただけの顔が、最近ではよく明るくなってきてるように感じるのだ。
「そろそろやらないといけないかもしれない…」
そう言われた。
「そっか…」
夫婦が並んだら次にすることといったら大体一つしかないわけである。
「結婚初夜の話だからね」
こういう割とマジで生々しいところを平気でぶっこんでくるところが、僕とは違うところである。
「え。ええぇ…。えっと。どういうこと?」
一般的には結婚初夜というのは披露宴の夜だと相場は決まっている。ちなみにもちろんだけれども、二人で住んでてもキスもまだしていない。ようやくRealでツキコモリさんのレベルが500に到達した。それが大変だった。Realの真の姿を見てから、それからもう、僕達は寝ても覚めてもRealのことばかりだったのだ。前人未踏のダンジョンを五つクリアして、治療法が未確定のゾンビ病の有効薬も開発して、三つの次元で最高級ホテルで絶景を楽しんだ。そのうちの一つで結婚指輪も贈った。なんやかんやで、なんとか子供を持てるようになれたのだ。
「大体子供が出来て九か月ぐらいで大きくなるから、結婚披露宴の日取りも計算して決めなきゃいけない」
「そうだね」
「マッキーの誕生月や私の誕生月やお盆や年末年始なんかのお祝いの日が誕生日だと、損に感じちゃうから」
「そういうものなの?」
一人っ子でろくに家族とも付き合わないで鍵っ子やってた身分としては、今更誕生日どうこうはちょっと分からない。うちの親なんて、忘れる時はずっと忘れてるくせに、何かの拍子でいろいろプレゼントしてくれたりするし。
「想像してみて、クリスマスが誕生日なら」
「うちは邪教徒の生誕祭なんかお祝いしないもんね」
脊髄反射で声が出た。ツキコモリさんにはもう遠慮しない。
「…子供は絶対サンタさんサンタさん言うよ?」
「…いいかい。あれはうちとは関係ないんだ。仏教にも神道にも無関係なんだよ」
「パパ―。今日はクリスマスだってー。みんな白髭マスコットのから揚げ食べてるー。ぼくも食べたい―」
「よーっし。それじゃあ今日はから揚げいっぱい食べるぞー」
またしても脊髄反射で答えてしまった。
「パパ―。友達はクリスマスには良い子にしてるとニンテンドーが枕元に置かれてるんだってー。ぼく良い子にしてたかなー?」
「良い子にしてたよー。ソフトはマリオがいーかなー?お友達はどんなソフトを買ってもらうのかな~?」
「FFとマリオだってー」
「よーっし。じゃあうちはFFとマリオとドラクエだぁ~」
「わーい」
「…」
幸せ過ぎて涎がマジで出てきた。
「マッキークリスマスは邪教徒の祭典じゃなかったの?」
そして唐突に現実に戻された。
「うちの子が欲しがったんだから買ってあげないと…」
「それ本当にダメな類の回答だよ」
そう言われた。
「あのね。僕達なんでもやろうと思えばなんでもできるんだよ?あんなことやこんなこと、そんなこと。金だってもはや意味が無いし、あるだけ邪魔なだけなんだよ。欲しい物やしたいこと、行きたい場所、やりたいことなんて、もう思いつかない。だったら子供の好きにさせてあげたほうが有効活用ってもんだよ。そのための貨幣制度なんだし」
子供には、ずっと笑顔でいてもらいたい。そしていっぱい買い物をしてあげるお父さんにずっと笑顔を見せて欲しい。
「子供の好きに買い与えてたらわがままになる。子供には世の中は自分の思い通りにならないよって社会ってものを教えてあげないと。だからゲームは無しだよ。インターネットゲームなんてもってのほか」
ぴしゃりと言われた。
「ま。まぁそうだね…。でも、実際マジで言われたら、そっこーで買い与えてしまいそうだけどね…」
「話が脱線した。その延長でクリスマスには必ずケーキが出てくるとしたら、その子にとって、本来誕生日であるはずのケーキとクリスマスケーキが一緒になっちゃうことで、損な感じや不都合を感じてしまうということ。だから予定日がそういう祝日をリストアップしていって九か月を逆算して、好ましい日や時を考えてく。披露宴の日取りもそうやる」
「なるほど。でも、子供ってそんな簡単にできるものなのかな?」
「わかんないけど、すぐだと思うよ。朝昼版頑張るって言ってたし」
「そりゃ…ね」