最終話
始まりがあるところには終わりもついてくる。どんな冒険もやがてはひと段落やって落ち着くものだ。僕の場合は結婚してからようやくそれで終わりが見え始めたように感じた。ささやかながらも後はハッピーモードでずっと幸せだと思ってたのだ。…甘かった。
「私がマジで死んでましたからね?」
そう言われた。二年ぶりにビッキーに会ったが、やっぱり変わらない顔でひっぱたかれた。
「しょうがないことだったんだ」
僕の子供は生まれながらにして、空間を通り抜けるようにどこでも行く。それがまさか、誘われるままドラゴンストームの中に入ってくなんて思いもしなかった。我が半身が言うには、ドラゴンの女性は繁殖期を迎えると、その女性を取り合ってドラゴンの男性が女性を中心に大渦をなして最後の一人になるまで殺し合うらしいのだ。オーソドックスなドラゴンの繁殖方法がそれらしいのだけれども、よりにもよって僕の子供は遊び半分か暇つぶしかドラゴンの歌に誘われたのか、次元の壁を抜けてドラゴンストームの真っただ中に飛び出した。正直言って生きた心地がしなかった。血が凍り付くような感覚がした。僕もそこへ向かって自分の子供をこの手に出すまで何百何千ものドラゴンを相手にしなければならなかった。結果として、ヴァミリオンドラゴンの深奥、これ以上ないというある種の奥義で切り抜けた。暴走がレベルを倍にするのなら、覚醒はレベルを自乗する。あとちょっと遅かったらぞっとするような気分のまま、ドラゴンの渦に飲まれた僕の子供の首根っこを掴むことができた。代償として、肉体と魂が本来均衡してるはずのドラゴンと人間のバランスを崩して人間の体とドラゴンの体がぐちゃぐちゃに混ざってしまった。ビッキーに治してもらうまで、あと丸五年はかかるようだ。
「はい、カレーですよ」
自分の子供の末を考えたら、恐ろしくて眠れなくなる。幸せになることが出来るだろうか。僕の子供の子供はどうだ?Realでの冒険はツキコモリさんを大幅にレベルアップさせることも適って、魂の結合領域までもってくことが出来た。そして僕の子供は生まれた時から僕よりレベルが高かった。
「わぁ美味しそう」
僕の子供は幸せになる事が出来るのか。それは僕の子育てにかかってる。下手に育てたら。もうちょっと想像はしたくない。結果としてつきっきりで僕がみてる。僕は主夫になったのだ。たまにビッキーから国民の義務として労働の対価を求められてきたり、突発的な事故や天災の解決に協力を求められたりもしてるけど。僕の子供には普通以上に普通にしてあげてるし、ちゃんと社会の勉強も教えてるし、家族四人で川の字で寝てる。今は戦々恐々としながらも、それなりに楽しい日々だ。ちょっと目を離すとすぐにいなくなってるのが怖いけど。僕には選択肢が二つある。普通の生活で普通の標準の生活水準の子供として育てるのか。それとも、別次元になるが特殊な魔法学校みたいな特別な場所へと見送るのか。今のところ僕の子供はたけのこの里さえ持っておけば僕の傍を離れない。ここから先が大変だ。
「おいちー」
ツキコモリさんの料理は大抵美味しいけど中でもカレーは絶品だ。今日は普通で明日は美味しい。明後日は更に美味しくて、明々後日は信じられない頂きに登る。その日以降はちょっと食べちゃダメかな。ヨーグルトも入ってるしリンゴも入ってるしニンニクも入ってるしバナナも入ってるしカレー粉もめっちゃ入れてるし、玉ねぎなんて丸々四個も入れちゃってる。カレー専門店を作るかカレーを作って通信販売なんかいいんじゃないだろうかと思ってる。僕の妻の手料理は世界一だからね。この幸せを世界中に分け与えたい。ただ、慣れるまで、妙に凝って、とんでもない隠し味のオンパレードになってる事が稀によくあるので、それまでは我慢して待つ姿勢が大切かもしれないけど。
「おいちーねぇ」
いずれにせよ、むしろこれからかもしれない。ひょっとしたら、将来父と息子で冒険をしたりも出来るかもしれない。子供がいることで、僕の人生は思いもよらない変化が発生するかもしれない。いずれにせよ、子育ては良い。小さい体を抱き上げる度に、これまでの人生で僕の知らない喜びが沸き起こる。ツキコモリさんに似たくりりっとした目も、僕に似たもちもちのほっぺも、触れるだけで自然と笑みがこぼれてくるのだ。
「ぶーぶ」
子供が更にもう一人も出来た。この幸せに全力投球の日々である。
~終わり~
ようやく終わってしまいました!
主人公が幸福になるまでの物語がストーリーなのだとしたら、それはまだきっと終わってないのでしょうけど、一先ず主人公の冒険は区切りがつきました。少なくとも今後は自分から望んで命を懸けることはないでしょう。
次はただ硬いヤツの物語で、それがどれだけ硬いのか誰も知らないというお話の予定です。ヒーローものです。ヒーローものの予定のつもりです。まだ全然書けてませんが、妄想がはかどってるので形にはなると思います。
本作はここで終了で、エピローグをやって完結です。主人公がひょんな出会いをして、そこから冒険が始まって結婚するまでが物語なのです。そしてマッキーはなんとかやれました。よく頑張ったな!偉いぞ!そんな感じでいっぱいいっぱいです。スーパーで半額になったお寿司と滅多に食べないスイーツを買いまくりました。
「うらやましーぞ!この野郎!!」