旅立つヒト
ある時、自分が生きていて自由を実感し心細い寂しさに襲われる。別にこれは人間に限らず、ヴァミリオンドラゴンも同じだった。ある時、暗黒の中星々が照らす光を眺めながら感じる。僕達人間と一緒だった。というよりも、生命は須らくそうなのかもしれない。
「ありがとう。すてきなできごとをしれた。いきることって出会いなら、ぼくもいっぱいであわないと」
そう言われた。今度は、ヴァミリオンドラゴンの番なのだ。
「マッキーの気持ちも、想いも、魂も、みんなしってるから」
七色に輝く巨龍と一緒に、果てない物語の渦の中へと飛び込んだ。それが素晴らしい冒険だったのだと感じてくれたのなら、僕としてはこれ以上幸福なことはない。
「僕も、最高の出会いだった」
さよなら、僕の半身。魂を分かち合ったもう一人の僕。
「それじゃあ。また。さよならだよ」
そう言って、その小さな幼子の姿をした仔は、旅立った。魂の強い絆を感じて、やがてそれが少しずつ甘い痛みのような胸の痛みに変わっていき、そしてもう思い出せないぐらいになってゆく。僕が人間じゃなくなったと同様に、ヴァミリオンドラゴンも永遠に変わったのだろう。僕の物語は終わった。その事を受け入れてくれたのも嬉しい。なにしろ、僕とそっくりの魂なのだから、やっぱりそうなのだろう。今度は、ヴァミリオンドラゴンが自分の翼で飛んでゆく。年端もいかない仔共を行かせるのはちょっとは気が引けるけど、大丈夫だ。詐欺られそうになっちゃうかもしれないし、殺されそうになる気分も味わうかもしれないし、生きるが辛く感じることだってあるかもしれないし、恐怖でガタガタと震える夜も訪れるかもしれない。でも、それは普通で、誰もが通る道で、生きるのはそれぽっちじゃない。なんと結婚もできてしまえるのだ。それだけでも、生まれてきた価値は十二分。
「…」
暗黒の彼方へと飛び去って見送った後、僕の遠い先祖や人間に進化する前の生命なんかが、暗黒の宇宙の中で燃え盛る一つの惑星から脈々も確かに繋がってるのだと感じちゃって心がやっぱりざわざわしてくる。太陽の祝福を受けた燃え盛る惑星から、今の僕が生まれて、やっぱりそれは確かに繋がってるのだ。本当に不思議な事に、僕にはそんな途方も無い46億年の記憶は無いのだけれども、覚えてなくとも確かな事だ。だからヴァミリオンドラゴンとの絆も、途方も無い距離が離れているのだろうけど、確かに僕達は繋がっているのだ。
「あっ」
今気付いた。僕はヴァミリオンドラゴンの結婚式には出れるのだろうか。そっちだけ参加してもらっても、フェアじゃない。大変な話だ。地球ですら結婚相手を見つけるのは大変なんだから、それが宇宙や別の次元に至るまで探さなければならないなんて。
「うわぁ…」
彼に待ち受けるとてつもない冒険に、僕はちょっと心配しつつも。ちょっと良いなぁって感じながらも。その冒険が良き冒険であることを祈るばかりだ。