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婚前パーティ

気付けば僕の自宅がホームパーティみたいになっていた。テーブルには未成年禁止のラベルが張られてる例のアレが三本転がってて、今まさにその一本がテーブルから落っこちてコロコロ転がってるところだった。ビッキーはその体質のせいか、小林さん達ともツキコモリさんとも打ち解けて今では大きな口を開けて快活に大笑い。


「地獄ってどんなところだったの?」


「中国ほどじゃないですよぉ」


鋭いブラックジョークも出してる。そりゃ臓器牧場もジェノサイドも無かったからね。


「そんな事言ってると逮捕されちゃうよ」


僕もそんな事を突っ込めるぐらいには酩酊してきたようだ。


「って!」


突然小林さんが脱ぎだしたので静止する。


「あっついからさぁ~!」


テーブルの上には王将の大盛天津炒飯以外にも、スーパーで半額になった定価二千円の特上寿司にノリと勢いで頼んだピザにツキコモリさんとの王様ゲームで罰ゲームの餌食となったダブルチーズモスバーガー玉ねぎ抜きが七つも。


「ほらほら。折角いいのなんだから」


どこから取り出したか分からないが、高そうなワインを二つ世紀末と化してるテーブルにビッキーはどしんと置いた。ワインみたいなヤツのラベルはちょっと見て、地球上で確認されてる言語じゃなかった。


「これどこ産だよ!?」


「ロアナプラ産ですよぉ」


「すげぇヤバイって事しかわかんないよ!」


そう言ってトクトクとワイングラスになみなみ注がれ、はいどうぞと差し出された。


「大学生の新歓コンパじゃないんだよ!?こんなんやってるから急性アルコール中毒で病院に流れてるヤツが出てくるんだから!」


「あ~いいのかなぁ。そんな事言っちゃってぇ。超美味しいかもしれないのに。ツキコモリさんぐぐっとどうぞぉ~?」


「ちょっと!」


「これも経験だから」


そう言ってノーモーションでワイングラスを手に持ってぐびぐびと飲み干してった。


「ボルヴィックかよ!」


小林さんはゲラゲラ笑ってる。ボルヴィックじゃねーよ!なんで高い金払ってフランス産の軟水を飲まなきゃいけないんだよっつーの。


「うん、マズイ」


「もう一杯?」


「青汁じゃないんだよ!」


軽くえずくツキコモリさんの背中をさすって水道水をさっきまで誰かが使ってたジョッキいっぱいまで注いでツキコモリさんに手渡す。


「…これ結構いいの?」


「ご結婚お祝いですよ」


そんな事を言われた。


「ありがとうございます」


「いえいえ」


「これ何?」


「リミッターが外れるヤツですよ」


じーっとビッキーの目を見る。マジの真実を言ってる目なのが確認出来てからお礼を言って貰ったワインボトルを地下室に持って行った。父親秘蔵のワインセラーに保管してリビングに戻るとツキコモリさんとビッキーがモスバーガーとピザと青森県産ニンニクマシマシ餃子の早食い競争をやっていた。


「…なんでだよ!?」


途中からビッキーが箸を使わずに両手の素手で口の中に突っ込みはじめてった。


「勝ちっ!」


そう言って両手を天に突き出して勝利宣言をしてからソファに身を投げ沈んでった。どうやらビッキーは僕の家を訪問する前にはもう結構出来上がってたらしい。


「ツキコモリさん大丈夫」


「大丈夫」


「これとこれ、違いは分かる?」


「スナフキンとチャーリーブラウン」


ミッヒーとキテ―ちゃんなんですけど。


「全然大丈夫じゃないね」


「冗談だよ」


「冗談か。良かった」


「ミッフィーとキティーちゃんだよ」


「ちょっとおおおおおお!!!」


「おめでとう」


「え?」


周りを見ると小林さん達がぱちぱちと拍手をしてる。


「これなに?」


「エヴァだよ」


「エヴァ…ですか?」


「オタクの聖典みたいなアニメで、拍手して相手を煽るの」


「なるほど」


そう言って拍手の群れに小林さんの妹の冴子ちゃんまでぱちぱちしだした。オタクの聖典かぁ。まぁそうなんだろうけど。


「おめでとう」


「おめでとう」


そう言われたので仕方なく、立ち上がる。


「ありがとう」


そう言うとツキコモリさんがジョッキいっぱいの水をかかげて、乾杯と言った。


「よし。カラオケやっちゃお。マッキーんち良いよね。カラオケまであって」


夜が熱狂の混沌へと渦巻いて、とうとうよくわからない内に夜が更けてく。それでもなにより、ツキコモリさんがとても、とても楽しそうにしてるのが純粋に嬉しかった。ビッキーはもう歯ぎしりを始めた。不思議な幸福感が心に沸き起こった。僕とツキコモリさん二人だけなら絶対に味わえないような、流れるような出来事にこれで良かったのだと心から安堵している自分がいた。ただのバカ騒ぎも、きっと無駄ではなかったのだと思う。この気持ちと感情と不思議な満足感は、汚れ切ったリビングを見ても、高いカーペットに染みがついてたとしても、得難いものだった。


「大丈夫?ツキコモリさん」


「…気持ち悪い」

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