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家族計画を練るヒト

独り暮らし設定のストーリーの場合は、多くの場合が恋愛沙汰に生かされる。一人暮らしとラブストーリーはとっても親和性が高い。酸素と爆発ぐらい相性ばっちり。少年マンガだとここぞとばかりにサービスシーンが飛び交い、時折少年が男として自覚することに一役買っているだろう。青年漫画だと言うに及ばず、いくところまでいく。青年漫画は大体主人公の男一人に対してとっかえひっかえに一人暮らしの家に誘われることだろう。成人向けマンガに関しては言うに及ばず。それでは現実はどうだろうか。人類がこれまで発展きてきたのだから、やっぱりとっても親和性が高いのだろう。僕達のような非リアな人間にとって、まるで夢物語のように思い描く事しかできないのはこの世の中に対する一種の矜持や証明、アイデンティティ、自尊心に繋がってた。


「…」


なんやかんやあって人生はとりあえず進んでゆく。僕の場合もそうで、僕は今、初めて。なんやかんやあってこうなった結果として、結婚を前提としたお付き合いをさせて頂いてる女性を自宅へ招いた。招いたというのは若干の語弊ごへいがあるかもしれないが、結果としてそうなった。だとするなら。僕がこれまで生きてきた矜持、証明、アイデンティティに自尊心はどこへ行かれたのだろうか。心の自信は勝手に足が生えてどこかへ行くわけではない、むしろどこかへ行くのは僕の意志と魂であり、むしろ心を置き去りにしてしまうのだ。そう、よくある物語のストーリーのように。やむにやまれぬ事情が発生し、物語は展開していき、やがてぬきさしならない状況へと帰結し、物語はあるべき場所に収まってゆく。


「…」


僕は高校生で、16なのでそろそろ17とはいえ、結婚できない。


「おじゃまします」


「はい。どうぞ」


犬や猫や僕が嫌悪する唾棄すべきストーリーのような展開は回避すること。これが第一に重要である。僕は人間であり、高校生であり、未成年であり、ご両親の許可を頂いたとはいえ、まだ法的には子供なのである。自立すらしていない。食費は仕送りしてもらってるし、家は自宅で固定資産税は両親が払ってるし、高校の学費だって払ってもらってる。経済的独立は言うに及ばず、僕の心はまだまだ親離れだって出来てない。両親の事は心のどこかでいつだって繋がってるって思ってるし、佐賀県の田舎の匂いがたまらなく好きだ。つまり、まだ子供なのである。一人前じゃない。責任を負えない。法律は万人が守るべきものであり、結婚は18歳以上からなのである。


「うわ。これ全部レコード?」


壁紙のように敷き詰められたレコードディスクに驚いてくれてる。


「そうだよ。二人共音楽が好きで、気に入ったジャンルになるとジャケットで判断して買いまくるんだ」


「この人が両親?」


玄関に飾られた両親の写真を手に持ってそう言われる。


「そうだよ」


「なんか、ムキムキだね」


「バカみたいに鍛えてるからね」


「でも面影がある」


「よく言われるよ。性格には似てないけどね」


「多分似てるかも。…あ」


「どうしたの?」


「複数の香水の匂いがする。シャネルとグッチ…。あと消臭剤」


もしかしたら、小林さん達の香水の残り香かもしれない。


「友達多いね」


「…」


こともなげに言われた。さて、どうすべきか。


「ボランティア活動とかやってるから。言っておくけど、プライベートで女性を招き入れたのはこれが初めてだよ」


「そなんだ」


どうしようもない思い出が沸々と蘇る。お腹から空気を出して鼻から出してやらしい想いを吹き出してく。


「まぁゆっくりしててよ。佐賀県産の麦茶か温かい玉露か水かコーラがあるけど、どれにする?」


流れるようにリビングに突入し、ツキコモリさんは僕の家に興味津々の様子だ。


「麦茶でお願い…します」


テーブルを挟んで二人で冷たいグラスを持っての対面。クーラーは最強マックスのガンガンにして。


「…」


な、なにを話す?


「…」


これから僕達、死ぬまでどうする?


「…」


子供?それとも僕の仕事の話?それとも、子供の名前とか?


「な、何か音楽かけようか。何かリクエストある?なんでもあるよ」


「マッキーの好きなのは?」


「モーツァルトのきらきら星とかよく聞くよ」


「それにしよ」


そのままレコードが入ってるので、スイッチオン。


「良いね」


「結構深いんだよ。中毒性っていうか、飽きないし、聞く度に発見があって、頭もクリアになるし」


そして二人でそのまま音楽を聴く。ツキコモリがちらっちらっと僕の目を見てくるし、僕もまたちらちらとツキコモリさんの目を見てしまう。それからぽつりぽつりと何気ない話をしてく。


「マッキーと私は子供が出来ないってほんと?」


「そうみたいなんだよ」


「いわゆるレベル差ってやつみたい。レベル100ぐらいの差があるとそれで魂の重なりは生物学的にも霊的にも出来ないって聞いたんだ」


「誰に?」


「神様やってる人に」


「神様やってる人って信用出来るの?」


哲学的に簡単には答えられないようはとてつもない質問をされたが、今回はビッキーが信用できるヤツなのか否かで答えさせてもらおう。


「信用できるね」


「会ったことあるんだ」


「うん」


「私も会いたいなぁ」


「絶対会わない方がいい」


「どうして?」


「未来に一抹の不安を感じちゃうから…」


「結構仲が良いんだ」


「友達だよ」


「どうすれば子供が出来るようになるのか分かった?」


「僕のレベルを下げたり、ツキコモリさんのレベルを上げたり、何かしらの奇跡を願ったり、いずれにせよRealに答えはあるかもしれない」


「解決できる問題なら、それでいいよ。頑張ろう」


「そうだね。頑張ろう」


「…」


「…」


良い感じにきらきら星がのってきた。


「そういうのは全部マッキーを信じて任せるから」


そういうのって、どういうの?意識的に今日のご挨拶の時、ツキコモリさんの発言でマッキーのお嫁さんになるって部分。聞き流さなければ涙が止まらなず立ち上がる事すらままならなかっただろう。今はもう理解できるしに落ちた。ツキコモリさんの言葉は耳から受け取ってちゃんと心で消化して肉体の隅々まで行き渡って魂まで響き渡った。そういうのが、どういうのか。僕は多分知っている。


「…」


心が震えている。


「…」


性欲を感じてしまったのか。愛を感じてしまったのか。抱きしめたくなる衝動を強く感じる。もしかして、お腹が減ったからかもしれない。もう夕方だ。


「何かウーバーで食べ物頼もっか」


「いいね」


「何か食べたい物ある?」


「マッキーの好きなのでいいよ」


「僕はツキコモリさんが食べたいなって思ってるのでいいよ」


「一緒に食べれるなら何でもいいよ」


「…」


そっか。うん。分かった。遠慮はしちゃダメってことか。完全に理解した。


「王将にしよっか」


「…」


さっとツキコモリさんの一瞬の顔が変わった。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「何かあるの?」


「…どっちの?」


「え?」


本当にわかんない。素で言ってしまった。


「あの、どっちのって、どういうこと?」


「王将には三種類ある」


「へぇ。そうなんだ」


「京都王将、大阪王将、それ以外の王将」


「うんうん」


「それがとっても問題」


「どう違うの?」


「天津飯のタレが違う。京都王将は西と東で更に違って、九州だと京風のあんが普通。東京だと甘酢の餡が普通。大阪王将だと京風の餡がどこでも普通」


「な、なるほど。そうなんだ」


「ちなみに」


ツキコモリさんはケータイを操作して近場の王将を探し当てた。


「…あった。本八幡にはどっちもある。どっちにするの?」


「え?えーっと。ツキコモリさんはどっちが好きなのかな?」


「私は京都王将しか食べた事が無い」


この上無い強い意志を感じる。


「じゃあ京都王将にしよっか。なに頼む?」


「大盛天津炒飯」


「へぇ。それって美味しいの?」


「地球上で一番美味しいよ」


「ち、地球上で!?」


「宇宙でも一番かもしれない。暫定一位だよ」


「へ。へぇ!?そこまで言うなら僕も注文しよっと」


「絶品だよ。餃子も美味しい。最後に一つ加えるけど、京都王将と大阪王将の天津炒飯は比べてみて大阪王将の方が価格が高い分量がとても多い。比べて京都王将の大盛天津炒飯の分量は、その店毎によって変わってきたりする」


「そ、そうなんだ。比べてみたんだ…」


「口には入れてない」


きっぱりと言われた。強い意志を感じる…。


「分かったよ。楽しみだね」


配達を滞りなく頼むと僕達は千と千尋の神隠しをでっかいソファで一緒に見ながら待った。ツキコモリさんの、自分とはまるで違う生命体のぬくもりを感じながら。自然体に。正直言って、距離にして五センチも離れてない。秒速五センチメートルどころではないのだ。チュー、接吻、キスを、しようと思えば出来る可能な領域であり、お互いの命にまで届く超超近接に達する。


「あっ」


ピンポンが鳴った。


「早いね」


滅茶苦茶早い。キャンセル分でも出たのだろうか。腰を上げて玄関に行って鍵を開けてドアを開ける。


「サプラ~イズ!」


小林さん達がいた。僕は静かにドアを閉めた。


「…」


…。

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