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初めてのご挨拶をしたヒト

玄関に入ったら、水墨画やたぬきがお酒を持ってるでっかい焼き物の信楽しがらき焼きや高そうな骨董品の焼き物が靴箱の上や玄関の壁一面に飾られていた。本物の田舎のお爺ちゃんの家って感じと匂いがしてきて、佐賀県で小学校時代を過ごした身として郷愁の想いに駆られる。


「んじゃ、グッドラック!がんばり!」


「ありがとうございます」


関西弁の黒服はツキコモリさんの実家には入らずそのまま分かれた。


「靴はそのままでいいから」


そう言われて靴はそのままで。


「お邪魔します…」


小声で言うととりあえず手で靴を揃えてから立ち上がる。


「こっち」


ツキコモリさんに誘われるまま、長い廊下を通る。その途中でガラスの外には苔むした庭が広がり見事な錦鯉が泳いでいた。


「うん」


応接間らしき来客の接待用の部屋に通される。


「時間通り。待ってて」


そう言って深々とした高そうな革張りの応接椅子に腰を落とす。


「おとうさんってどんな人?」


「大した事ないから期待しないで」


凄まじい事を言われた。そりゃ僕の自分の父親を紹介する時もきっとそんな事を言うだろうけどね。そうこうしていると、ドアが開いた。


「これはこれは…」


白衣を着た髭を整えた英国紳士風の綺麗な身なりの男性が現れた。続いて和服を着た綺麗に髪をかんざしで整えた女性も。これがご両親。もっとも二人とは面識だけはある。おかあさんには塩対応を受けたし、お父さんには多分ちらっと。


「遠路はるばるようこそお越し頂けた。東雲末樹君がわざわざご挨拶とは…ね。一応、渡しておこうか」


「東雲末樹です!宜しくお願いします…」


渡された名刺には梅田総合研究所と書かれていて肩書が取締役と書かれていた。


「梅田幸男です」


「妻の梅田日美子です」


「…」


二人も対面するように応接椅子に座ってから僕も座った。緊張する。これは、永久就職という結婚面接。


「随分仲が良さそうだね。もうペアルックか。良く似合ってるよ」


おとうさんは、はははと笑っているが、おかあさんの方はむっとしてる。マズイ。やっぱりペアルックのミッヒーマスクはやりすぎだったか。


「…」


ここで言おう。先にもう言ってしまおう。言っちまおう。大人の会話をずるずるやっててもしょうがないのだ。先手必勝はどのルールにもどんなスポーツにもあらゆるゲームで最善手なのである。


「すいません!ツキコモリさんと結婚を前提としたお付き合いをお許しください!」


立ち上がってペコリと頭を90度まで下げた。


「…まぁまぁ。座ってください。娘は君の事しか考えてない」


僕は椅子に座った。え?僕の事しか考えてないのか。うん。相思相愛か。生唾を飲み込む。今の僕瞳孔開いてるだろうなって思う。


「どうだろう?せっかくだからもう一歩話を進めるというのは」


「え?っていうことは許してくれます?」


「もちろんだよ。間違いなく梅田はここで終わると思ってたからね。それにしてもツキコモリか…。君も知っての通り、私達の一族は代々が特別な血の家系だ。その中でも名前は最も重要な意味を持つ。娘が真名を名乗らないのも理解してくれ」


「それは…分かってます」


そもそも僕らの出会いは疑似VRMMOであり超規格額の宇宙よりもデカい電子規格の龍だった。ネトゲで本名は名乗れない。まぁ僕は男の子だから平気だけど。


「キミはどうだい?祝福?」


「賛成致しますが、私にはもっと学があり知があり、あらゆる分野で娘と対等にお付き合いできる男性が望ましいと考えます。なにより、ぱっと出てドラゴンの血が混じったヒトからの超越種。私はなにより、娘にとって普通の結婚を望みます。但しこれは私の希望。娘が希望しあなたが賛成するのでしたら、反対することはありません」


どぎつい事を言われた。が。それは僕も気にしてるところで、想定内の事なのだ。


「僕もそれについては随分悩みました。ですが、それでも、僕はツキコモリさんの事を想ってたんです。確かに超越種と言われても言い返す言葉もありませんが、僕は彼女を幸せにする努力は怠りません」


心の向くままに言った。


「なるほど。そこまでその年でそう言える事じゃない。うん。私達は心から歓迎するよ」


「ありがと。マッキー。もう帰ろう」


「え?あ。ありがとうございます。えっとツキコモリさんもう帰るの?」


「私はマッキーのお嫁さんだから」


「私としては是非末樹君にはうちを継いで貰いたい。お婿さんになっていただくのが希望なんだがね」


「あ。じゃあ別にそ…」


それでも全然かまいませんけど。そう言おうとした矢先に。


「それは無理」


「おいおい。ゆっくりとその辺りはおいおいと考えていけばいいではないか。今日はゆっくりと末樹にもお休みしてもらって、それから一緒にお風呂に入って男同士で話し合うのも良いんじゃないかな?」


「それは…」


それはいいですね。そう言おうとした時またしてもツキコモリさんが先制した。


「私はマッキーを興味深い未曾有の海底資源とみなされたくない。私達は普通に暮らして普通にする。誰かの利益も巨大な利権も世界の掌握も私達には関係しない」


「そうなの?東雲さん」


「え。ええ。そういう方向で話が進んでます。僕達には無縁の世界です」


「ううむ…」


「それなら賛成致します。そうですか。ちゃんとそこまで考えておられるのでしたら。私は賛成致します」


「あ、ありがとうございます!」


おかあさんは賛成してくれたようだ。滅茶苦茶嬉しい。想いが通じた。


「梅田家が滅びるのはお父さんお母さん達の問題。もう一人ぐらい子供を作る努力ぐらいするべき。根本的な問題に向き合おうとしてないのはそっち」


ツキコモリさんは再び辛辣な言葉を投げかける。


「それを言われたらなぁ…」


「いいんじゃないですか。災厄は東雲さんが祓ってくれたのだから」


「そっかぁ」


そう言っておもむろにタバコを取り出して火をつけた。ふーっと吐き出す紫煙が天井に向かって吹きかけられる。


「お父さんはマッキーにお願いしないで。私達もお願いしないから」


「私の長年の夢なんだけどなぁ。不老不死は…」


「私達は人類に対して影響を持つべきじゃない。やるなら自分達だけで引き続き研究すればいい。マキ―と私には関係が無い」


「親孝行は?」


「盆と正月には帰る」


「子供もちゃんと連れてきなさい」


「分かってる」


「そうか…」


再び紫煙がくねる。


「それならば仕方がないことか…」


「ありがとう。お父さん。…マッキーいこ」


僕よりむしろツキコモリさんとご両親の問答が続いたことに驚いたけど、そのままツキコモリさんは立ち上がって僕を促す。


「あっ。うん。えっと」


僕も立ち上がっておいとまさせて頂く。


「ありがとうございました!失礼致します…」


「末樹さん。娘を宜しくお願いしますね」


「はい!任せてください…!」


「私達はベンツから卒業する。マッキーの実家は佐賀県だけど、マッキーはベンツは田舎のコンプレックスの象徴だって言ってた。私もそう思う。私達は、誇り高い田舎者の矜持を持って普通の安い軽自動車買うから」


そう言って僕達はツキコモリさんの実家を出て行った。そしてなんやかんやで僕の自宅へ戻ってきてから、最初の夜がやってきた。っていうか、何でツキコモリさん僕の家に来てるんだろうか。結婚とフィアンセと結婚を前提としたお付き合いの状態はそれぞれ違うからね!?

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