はじめてのペアルックのふたり
「東雲君お久しぶりやなぁ!ってキミらどーしたん?おそろいでマスクして。それあれやろ?ペアルックっちゅーやっちゃな!かぁ~~~。若いなぁ~!」
僕達は二人揃ってミッヒーが描かれたマスクを装着してから、クラウンに乗り込んだ。もちろん、このマスクは勢いで購入してしまったのは間違いない。
「お久しぶりです」
どうやら僕とツキコモリさんが一緒になった食事や買い物をやってしまうと、ボケとボケとボケが無限に連鎖していき、取り返しのつかないところ最果てまで到達してしまうらしい。一体どうしてこうなったのか。以下、脳内再現VTR回想。
「あっ」
「どうしたの?」
「ミッヒー」
「ミッヒー好きなんだ」
「ううん。あのもこもこしたミッヒーに似てる人を思い出しただけ」
「えらく懐かしいな…。あったねそゆこと。彼女をしのんでコレにする?」
「そうだね。お世話になったもんね!」
「じゃあコレで」
回想終了。レジに並んだところで熱から冷めたけど、僕の隣で立ってたツキコモリさんへの熱はひっきりなしにあがってくばかり。っていうか、ツキコモリさん意外と背が高いね?165ぐらいはあるのか。え?…僕が170っていうのが公式記録で計る時にちょっとした不正行為を働いてしまった可能性がなきにしもあらずのような気がしないでもないので、ワンチャン抜かれる??まだ背が伸びる可能性を考慮すれば、ツキコモリさんが更に伸びたら、身長で追い抜かれる可能性がある。ぐ。そうなんだ。うぬぬ。なんか変にショックだ。ツキコモリさん小柄だと思ってたんだけど。意外と筋肉もついてるし。うーん。回想終了。
「シートベルトちゃんとしいやよ」
そういって出発した。僕とツキコモリさんは並んで後部座席に並んで座った。
「キミらさぁ。マジでそれでお母さんとこいくん?キミら戦争しにいくつもりなんか?もしかして駆け落ちするん?」
そんな事を不格好に言われた。本当に殺し合いならわざわざ宣戦布告なんてしないし、駆け落ちするなら黙って実行する。僕達二人の結婚には祝福が必要だし、子供にはお爺ちゃんお婆ちゃんが必要だ。
「仁義に反します、そんな不義理はしませんよ」
「ん?」
僕がそう言ったところで、鼻をくんくんされた。こいつ…。猟犬か?
「ははぁ。分かった。キミらニンニクマシマシ餃子食うたんか。そんでやってしまったっちゅー話か。せやろ?」
見抜かれた。悔しいけどその通りだ。
「別にいいでしょ」
「しゃぁないなぁ。コンビニ寄るで」
そう言って外交官ナンバーがついてるクラウンをコンビニに横付けし路上駐車をしていった。
「しゃあないってなんだよっての。あの人そもそもどういうヒトなの?」
「文部科学省から派兵された人。私のガードの一人。魔術、呪術、体術、超自然への耐性を持ってる」
「すんごい設定もりもりだね…」
エキスパートか。超自然的問題への対処は防衛省だけじゃないのか。よりによって文部科学省って。次回作への布石かな?こういう最終局面でそんな設定出されても。
「お待ちどさん。ほら。これ飲みや」
運転席からドリンクを持ってきてくれた。
「超消臭…」
「胃の中のもんを消臭と分解。あと歯ぁ磨いたら完璧やな。一応それつけといてもええけど、間違いなく舐めとんのか言われるでホンマに」
「ありがとうございます…」
「殴られたら殴り返していいからね。マッキー」
「え?」
とんでもない発言が飛び出たような気がしたけど、多分気のせいじゃないと思う。
「マッキーのが偉いんだから、遠慮しないで」
「するよ!?超するよ!!?」
殴られたら殴り返すとか、どんな世紀末だよ。あって不良マンガぐらいなもんだ。ご両親の挨拶なんかでそんな事例なんて未曾有だよ??人間としてやっちゃいけない線を何本も超えてるよ??
「ヒメちゃんそれドン引きやでぇ…」
「なにも為してないただの人間がマッキーに意見するなんておこがましいものにも程があるからね」
「ツキコモリさん!?」
あ。そういや吐く時結構辛辣でしたね、そういや。でも僕も引いてるからね?
「持ち上げすぎだよ!そりゃ、企業とか外国とか機構とかが僕に対して偉そうにしてきたら僕も相応の態度に出るけど。親だからね!?親。ツキコモリさんを育ててくれたんだから。僕にとってのツキコモリさんを大切に育ててくれたご両親なんだから。こっちが許可を頂く立場なんだから。そんな乱暴なことなんてできないよ」
いろいろ予想は出来る。でも、我慢しなきゃ。結婚に一番大切なのは、収入でも財産でも、地位や名誉でもない、我慢なのだ。一生死ぬまで続く我慢こそが、一番大事。限度はあるけど、ちょっとやそっとで怒るなんてありえないのだ。
「私はマッキーがどういう気持ちで地獄まで行ったのか知ってる。どれほどの勇気か。私の両親にそんな勇気があったら、私は生贄に選出してなかった」
「…ずっと決まってた事だから。しくじれば自分の知ってる世界が終わるって分かってれば、ツキコモリさんの両親の決断だって責めきれるものじゃないよ。それに、そのおかげで僕はツキコモリさんと出会えた。感謝こそすれ、恨むなんてお門違いだよ。ツキコモリさんにも、そう思って欲しい。そういう運命だった。残酷さが僕達を引き合わせた。こういう運命を信じてたから、僕が頑張れたし、踏ん張れた」
「大人だね」
「そう信じるものがあってこそ。そうじゃなければ、僕はここにいないよ」
「マッキーがそうなら、それでいい。ただ私は、何もしてない人が、何かした人に対して物を言う資格なんて無いって思うから」
「それでも、義理でも、親だからね」
「そうやで。ヒメちゃんも親を悪ぅ言うたらあかんで」
「マッキー。私の両親が何かマッキーに対してお願いなんかしたらちゃんと断ってね」
「え?可能な限りお応えさせて頂くよ!?」
「大人のお願いっていうのは、聞くだけ無駄だから。際限なくつけ上がっていって、自分の無能を棚にあげて責任を押し付けてくるから」
「それはそーやな。ヒメちゃんええこと言うようになったなぁ…泣けるわ…」
お前の立ち位置何なんだよって思いながらも。
「ま、まぁ。人生いろいろで持ちつ持たれつ、助け合いの精神だからね…」
「マッキーは誰かに助けて貰った?」
「ええっと…」
血まみれの佐藤さんもいたし、ドライバーさんにもアドバイスを貰った。大人には、気が付かなかったけど、ずっと助けて貰ってばっかりだと思う。
「意外とさ。知らなくても、きっと誰かの優しさに生かされてるとか、あると思ってる」
「ほぉおお。東雲君言うねぇ。いいこと言うねぇ。ホンマにぃ~」
「マッキーは頑張るから、これからは私が見張るから、安心して」
その言葉がとてつもなく重く感じるのは、似たような台詞をこれまでの夏に何回かあった修羅場を思い出したからだ。
「…あ、あぁ」
生返事でやり過ごすだけ。未来の予測がつかないのは、僕を含む人類皆同じ。それはツキコモリさんやビッキーだって例外にさせやしない。