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第十二話 ドラゴンライダー

「Realを牽引けんいんする五つのギルドがあります~。偉大なるギルドと呼ばれてるものですね~。明日の正午にそのギルドマスターが集まって今後の事を話し合います~」


雲を突き抜ける勢いのバベルの塔を見ながらミルフィーさんは言う。


「具体的にはどんなこと話すの?」


「シークレット賞関連の収集した情報をまとめるんじゃないでしょうか~」


「僕当の本人なんだけど!?」


コントかな?僕も一緒に円卓に座って意味深な事を言う係なのかな?


「マッキー、ミルにシークレット賞の事話したの?」


「あ。えっと。まぁ…。当たったことだけ見破られちゃって。具体的には言ってないんだけど」


「召喚獣のドラゴンってとこは特定してます~」


「特定されちゃってます…。なんかミルフィーって心の中が読めるような特殊能力があるみたいでさ」


「そうなんだ。つらいね」


「洞察能力ってだけですね~」


「そう、なんだ」


「その会議にミルフィーも同行するってことでしょ?」


「ですね~」


「ミルってギルドにマッキーの事報告したの?」


「おねえたまだけですね~。彼女はどうでしょうか~。指示内容も仲良くつかず離れずに監視しろっていうだけですし~」


「べったりだよね!?」


魔力も教えてもらったり、レクチャーもしてくれてるし。


「マッキーの場合、規模が巨大過ぎるので、銀行を複数所持しているとはいえ個人のおねえたまには過ぎた案件ですよ~」


「え!?どゆこと?」


「危険な能力な能力ですからね~。大いなる力はしかるべきところに収まるべきだって考えが共通認識らしいですから~」


「名前は公開されてるから、同姓同名のRealプレイヤーのケータイはチェックされてるんじゃないか」


怖い事を言われた。ヤバイ。関マッキーの嘘か本当か分からない都市伝説のくだりが真実味を増してきた。


「大人の本気は怖いですからね~。でも。一つ言える事はですね~」


「なに?」


「所有欲求を満たす事がなによりも最初に来るものですよ~。モナ・リザも。月も。一目見たら欲しいなって思わずにいられません~」


「思わないよ!?」


「モナ・リザとピカソの違いが分からない」


「ええっ!?」


レオナルドダヴィンチとピカソぐらい、さすがに僕でも分かる。よし。ここはスルー。スルーだ。


「王として生まれを持った人や、民衆の頂点に位置する支配者階級に多い傾向があるという意味ですね~。まぁうちのギルドは特殊ですが~」


「トワイライトってどんなの?」


「結構、変遷があったりもしたんですけど、今のギルドマスターとサブマスターはお爺ちゃんですね~。もう80、90超えてるんじゃないでしょうか~」


「元気だね!?すっごい元気だよ!?」


「レベル高いですからね~」


「答えになってないからね!?」


「今日はギルマスに休んでもらって~。私達が会議に出ますよ~」


「えええ!?」


「それちょっと間違ったら全滅だよ」


「マッキーもモーリーもレベル20未満なので殺されませんのでご安心を~」


「相手がだよ」


「…」


「ええ!?」


まぁ。もし。なにか間違ったら。バレたら。


「できないよ…。さすがに」


「ですよ~。月刊Realの顔ぶれ達、世界を作り上げた先駆者は超強いなんてもんじゃないんですよ~」


「そうそう。敬意や、歴史があるんだから。すぐ何かあったら戦闘とか斬り合うとか。そういうんじゃないんだよ。普通逃げるからね。人間なんて、人間だよ!?攻撃したりましてや殺したりなんかできるはずがないよ…」


「多分逃げる事もできないと思いますが~」


「え?いや。それは問題ないから大丈夫。何かあったら全力で逃げるし」


「この世界の最大戦力が一同に集結してるとこで逃げられると思ってるんですか~?」


「多分大丈夫」


このRealって確かまだレベル100のプレイヤーは居なかったはずだ。なら特に問題なし。


「それよりも、作戦だよ。具体的にはどうやるの?」


「…」


じーっとミルフィーはまばたきせずに僕を見た。怖い。やっぱり怖い。夜中トイレで起き出して部屋の中で立ってたら間違いなく失禁すると思う。


「私がギルマス代わりでモーリーとマッキーは付き人の新人さん~。一瞬ギルドに加入してもらいますが~終わったらすぐに離脱すれば問題ないです~。三人でドレークに乗ってバベルの塔へ、前乗りで宿泊~。超絶リッチなVIP待遇でくつろいで~。朝の十時に私だけ会議に出て~。十一時ぐらいにドレークに乗ってイースターヴェルに戻って作戦完了です~」


「これ以上ないぐらいの簡潔さだけど…ギルド入るってのはなぁ~~~~」


なんかなぁ。


「そういうのはプライドというか。男の意地というか、矜持というか。なんていうかさぁ…」


「私はいいと思うけど、マッキーがそういうなら別の作戦を立てよう」


「オーケー。その作戦でいこう。ちなみに前乗りって何?」


「…前乗りって言うのは前の日に泊まって待つって意味ですよ~。基本的に見せたがりですからね~。あ。そうそう。マッキーだけは別行動で待機です~一晩~」


「僕だけ別行動!?」


「同姓同名で顔出しユーチューブに出てる人と一緒に歩けませんからね~。さすがに。マッキーはトワイライトのお抱えドライバーさん係ですよ~。通行証が身分証代わりになりますからね~」


「…」


珍しく不思議な顔をされて僕の顔をちらっと見ると。


「ごめんね」


そう言われた。


「別に気にしないでよ。絶景を見る事を手伝いのが、冒険の目標だからさ。楽しんでって」


「ありがと」


なんか、心が燃える。


「気合が入ってきたなぁ!ミルフィーが結構手間なんじゃないかな?大変そうだけど大丈夫?」


「うちは結構自由なので~。それに~ギルマスも今は大西洋のど真ん中で釣りを楽しんでる最中ですから~。多分代わってくれますよ~」


「そもそも、動機が不純極まりないのに、トワイライトのギルド名義で王子を騙すようなことをやっちゃっていいのかな?」


道徳的にダメな気がするし、トワイライトのギルドにも迷惑がかかる行為だし。


「気にしないでいーですよ~。もちろん、デメリットもありますけどね~」


「デメリット多そう…」


「それ以上にメリットも多いですね~」


「メリットもあるのか…。そもそも僕とツキコモリさんという初心者が超老舗のトワイライトに入ったら、他のギルドメンバーって怪しむんじゃないかな」


「そういうヒマ人は居ないので大丈夫ですよ~。いちいちメールの内容とか確認する人いませんし~。何か聞かれたら秘密って答えれば済みますし~」


「まぁお金持ってたら、ヒマな時なんてなさそうだよね…」


「ギルマスはこの前豪華客船を造らせてましたよ~。軍艦ベースの~」


「趣味の幅広すぎだよ!」


どこをつっこんでいいのかわかんないよ!


「なんで軍艦ベースなの?」


「鯨の丸焼きを食べたかったみたいですね~」


「小魚感覚!?どーやんだよ!大きいでしょ!?」


「この前仲間たちと呟いてわいわいしてましたよ~」


「鯨美味しいからね」


「…たしかにね。佐賀県の唐津市では玄海漬けっていう珍味があるんだよ。鯨の軟骨を酒粕で漬けた独特の味でね。幼少の頃から食べてないと受け付けないってぐらいの珍味があるんだよ」


「美味しいよね」


「食べた事あんの!?」


「うん」


やっぱりディスティニー舞い降りてちゃったか~。そうか、ここが僕の始発であり終着駅か。


「ディスティニーかぁ…」


口についつい出してしまってはっとなってしまった。やっちまった!


「デアゴスティーニ?」


「DVDとか、CDとか模型だとかラジコンカーとかね。こう、何か月も頑張って揃えないといけないやつだよね。そうそう。って違うよ!」


「話を戻しますけど~。これからギルマスと会議を代わってもらうことにしますので~。マッキーはドレークの馬術を習ってください~。三時間ぐらい講習受ければ操れるようになるとは思いますので~」


「え。あ。そうなんだ」


三時間ぐらいか。自転車かな?いやいや。


「ドレーク、マジで僕が操縦すんの!?」


「簡単ですよ~。夕陽前に連絡を入れますのでイースターヴェルには居てくださいね~。同じ街ならすぐにメッセージは届くので~」


「わかったよ」


「運送専門職のギルドでシルフィードがドレークの馬術を教えたり、大空の観光業やってたりするのでそこで慣れてくださいね~」


「オーケー」


「イースターヴェルの北口に出ればシルフィードの看板はすぐ見つかりますので、そこでトワイライトのミルフィーの紹介だって伝えれば快くドレークを貸し出してくれるはずです~。何か食べたくなったり疲労度溜まってきたら食事はこまめにとってくださいね~。はい」


ミルフィーは僕に一枚の黒いカードを渡してきた。


「会計の他にも何かあったらそれを見せれば大抵解決するはずです~。でわ~。今から向かってくださいね~」


「あ、ありがと」


ミルフィーは脱兎の如く、僕のお礼も聞かずにぴゅーっと駆け出していった。


「おんぶにだっこってこの事だよな…」


これ相当貸しが溜まってるなあ。ちょっとお返しってやつを頭の片隅に留めておいたほうがいい。


「行こう」


早速ミルフィーから貰ったブラックカードとやらの効力を試すべく、ちょっぴり高めのアイスフルーツジューススペシャルスイーツをストローで飲みながら北口に向かう。自分のお金じゃないので言い知れない罪悪感に立ち向かいながら。


「あ」


「美味しそうだね」


滅茶苦茶美味いハンバーガーも購入し、ほぐほぐ食べる。デカい。アメリカンサイズのバンズにステーキと甘みたっぷりのトマトにしゃっきしゃっきのレタスにベーコン。ほっくほっくで最高過ぎる。


「うん」


やば。横目を見たら幸せそうな顔して食べてるのを見て、ちょっと感激した。


「美味しいね」


「うん」


出鱈目なジャズ演奏の横を通って、建築してる凄まじい騒音に耳を塞いで、麻雀の熱狂の渦を縫って、ストリートパフォーマーに拍手をしてる。丁度ジュースが無くなった頃に北口の門に到着した。


「シルフィード…あ」


東門よりは少ない分、シルフィードの看板も目につき易かった。ドレークの馬車にいるドライバーさんに手を振った。


「すいませーん」


「モーリーの二人組ってあんたらか。ほら、ここ乗りな」


そう言ってドレークに乗ってるドライバーさんは運転席から降りる。


「三時間ぐらい付き合ってれば、だんだん分かってくるようになるよ。あとは若い二人に任せる。コイツは結構分かってる。アドバンスの区画からは出るなよ。それじゃ」


そう言ってドライバーのキリンさんは立ち去ろうとする。


「ええ?ちょっとどこ行くんですか!?」


「カジノだよ!カジノ!!負け込んでんだよ!」


「ええーー!?」


「マッキー。行こ」


「う」


灰色の、ぱっと見るとデカい隼のような動物。よく見ると鱗もごつごつしてておっかない。っていうか、動物ってこんなに大きいと本能的に怖さを感じるものなのか。ちょっと怖い。


「…」


おっかなびっくり運転席に座る。


「失礼しま~っす」


「おじゃまします」


二人して運転席に乗って、手綱を取った。


「えーっと。お願いしまーっす」


突然空中に浮かんだと思ってたら飛び立ってた。行先も告げずに。どこか分からないのに。雑多なイースターヴェルがあっという間に豆粒ぐらいの距離になるまで飛び立った。


「うひゃああ」


こ、怖いし、早い。なるべく下を見ないように手綱を握る。汗の量が半端じゃない。


「旋回!すこーっしもうちょっとゆーっくりお願いします!」


話を聞いてくれたのか、気持ちゆっくりめになって緩やかにカーブを描く。


「おおおお」


手綱に思いを込めると汲み取ってくれるのか。


「…ちょっと変わっていい?」


「あ。どうぞ」


それから二人で大空を駆けた。楽しく。そんなことをしてるの束の間。なにか目の前に黒いものが見えた。飛んできてる。


「…」


「…」


ドラゴンとドレイクの違いは分からなかったけど、たった今、よく分かった。


「今の、って…」


全身真っ赤で装飾品に飾られたトラックぐらいの大きさ。そして最大の相違点。両翼の翼の巨大さ。体の倍はある。そしてそのドラゴンに乗っていたピンク色の髪に剣と盾が見えた女性。


「先月のRealの表紙、ハートネット・ラフィアだね。唯一無二のドラゴンライダー」


速度が、早かった。イースターヴェルに向かっているのだろうか。


「クルセードの最大戦力で、ランキング第二位」


「…詳しいんだね」


「ファンなんだ」


「今の顔はたしか…」

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