祝福されるヒト
Lv100を超えた時、他のサーバーにランダムに転送される。そしてレジェンドルールが適用され、Realは他の違った世界に到達するための転送装置となる。でも、僕には、もはやそういうのすら、不必要だ。
Lv350 標高二万メートル 活火山のプール二合目の町
「…っ」
重力とマナ濃度、酸素濃度、そしてなによりの蒸し暑さを感じた。
「…」
活火山プール二合目と書かれた看板の前に飛ばされ、目の前には大荷物を背負った人々でごった返していた。
「大分県の由布院を思い出すなぁ…」
感傷もそこそこに、僕はヴァミリオンドラゴン第一形態になり、翼を生やして空へと飛んだ。そして右手に力を込めて、次元をぶち抜く。ぶち抜いた穴に滑り込む。そこでは環境が一転して極寒の地だった。一面が氷の世界、氷に覆われた世界。
「マッキーこんなところでどうしたんですか?」
ビッキーが見た事も無い豪華なドレスを着ている。お前今から結婚式かよ。なんて思っても口には出さない。出したらきっとガチギレ必至。
「なんか胸騒ぎがしたから」
確かにした。魂の抜け殻であったビッキーの肉体が石のように固まって割れるような想像が頭に走ったぐらいだった。
「確かにさっきモブの攻撃を受けましたけど、それが何か?」
「だから心配で来たんだってば」
「そういうのいらないし、死んでから来てあげてくださいね。恋人でもないのに気にかけないでください」
友達だろって言いそうになったけど、ぐっとこらえて。
「そうだね。確かにそうかも」
「私がここで死んでも、神の選定機構は既に無効にしていますので大丈夫です」
「そういうことじゃない」
「気にかけてありがとうって言ってもらいたいんですかぁ?」
「別に。問題無いならそれでいいさ」
立ち去ろうとすると、心に変なものを感じた。これが痛みなのだ。それがずっと続いてく。今後はそえを無視しなければならない。あるいは見放したりもしなければならないのだ。僕の中に優先順位が決められていて、そしてビッキーは一番じゃない。
「もう行くよ。一緒に冒険の手伝いは、また今度で」
それから僕は最寄りの、人間が集まってな感じがする場所への空間をぶち抜いた。その時。
「ご結婚おめでとうございます」
そう言われた。振り返らずに。
「ありがとう」
そう言った。氷の町でログアウトし、そのまま仰向けのまま自宅にベッドでぼぉっと天井を見上げていた。
「…」
心が痛い、まるで心臓を爪で立てられているような感覚がした。それからちょっと不思議な涙が出てきて、ひとしきり泣き終わるとそのまま眠った。本当なら眠る必要なんかないんだろうけど、今は少し休みたかった。言い知れない不安が心の中に広がっていった恐怖を感じながらも、目を閉じて眠った。こうやって生きてくんだって感じて、これがずっと続いてくと、そりゃ嫌でもオトナってのになっちゃうなって感じた。それが僕の選んだ道なのだ。人間は生まれてからずっと何かを選んでく、小学校の頃の好きな子から職業、住む場所まで。みんなやってることで、それが普通で、それが当たり前なのだ。皆自分の結婚相手を決めて生きてきた。これまでも、そしてこれからも。ずっと続いてきたし、僕だって十分見捨ててきた事や諦めた事、見なかった事にしたのだって無数にある。それでも心はこんなに痛くはなかったのだ。魂の友、一緒に地獄に落ちた仲、僕を好きだった人、そしておそらくは、僕は、ひょっとしたら、愛されていたのかもしれない。好きとか打算とかなったらいいじゃない。愛されていたのかもしれない。それに思い至ると、やっぱり涙がこぼれてきてしまう。
「…」
そういうのが愛だったのかもしれない。そういうのが愛なのかも。愛って…。なんなんだろ。それからすぐに寝息を立てて寝入った。