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約束したヒト

月面内部のだだっ広い暗黒空間でビッキーと小一時間ぐらいケンカみたいなチャンバラごっこをしてハァハァと息も切らしてへたり込んだ。


「はあはあ…」


大分息が整ってきた。ビッキーは既に破壊された心臓を復元して肉体の損傷が完了しつつある。


「もうちょっとで、ハッピーエンドになったのに…」


そんな事を言われた。


「あのね。フツーここまでやんないよ!少年マンガだと主要メンバーは死なないし、敵の危険度は大体ぱっと出のキャラが死んで味方キャラのモブが殺されまくるけど、主要メンバーだと大人の都合で絶対に死なないんだからね!」


「ファンタジーと違って現実ではちゃんと死にますからねぇ。…結果として私の…ゴブっ」


口から大量に血が吐き出して、ビッキーは先に立ち上がった。


「私の支配から完全に抜け出した。そっちこそ心臓を潰しますかねぇー」


「それはちょっと」


加減ミスって言うと絶対また絡まれるよなぁ。黄泉の比良坂を思い出す。あのお爺ちゃんとの戦闘を思い出した。コツは相手よりもほんのちょっぴり余裕になること。でも、毎回こんなんやってたらマジで身がもたない。


「そっちがマジ能力使うからでしょ。それに、再生能力っていうか、復元も治癒も自由自在に出来るんだし」


「まぁマッキーをボコボコに相当スカッとしたから良しとしますかぁ。じゃ、行きますか」


は?


「いや。行きますかって何?」


どこに行くんだ。もう地獄はこりごりだぞ。


「決まってるじゃないですか。デートですよ。デート」


最悪が頭に浮かんだ。


「絶対ついてこないで!」


「受難という嫌がらせがずっとついてまわりますよ?」


「本当にマジでそれ止めてよ!冗談じゃないよ!」


それが神の言葉とは到底思えない。どぎついジョークにも程がある。


「あのさ。デートなんだよデート。デートにのこのこついてく兄弟や家族や戦友なんていないでしょ!!」


「はぁ。仕方がないですねぇ。良いアイディアだと思ったんですけど諦めましょう…」


そう言ってドアを作ってそこから戻った。


「…」


そしてドアが消えて無くなった。


「絶対一緒に住めない…」


マジもんの貴族と一般庶民はやっぱり生活様式が何から何まで違うのだ。


「…」


諦めてくれたんなら、それでいいんだけど。こういうのでガス抜きになったのかって思う。


「僕達はスポーツで汗は流せないからね…」


空間をぶち抜いて千葉県は市川の上空へ。そこから自宅にジャンプする。


「服ボロボロ」


シャワーを浴びて、電話を掛ける。なんだなんだでもう二時間が経過していた。時刻は既に八時過ぎ。


「…今更なんだよなぁ」


台風は立ち消え、温帯低気圧になっていた。絶好のデート日和。結構疲労感はあったけど、冷蔵庫にあったユンケル飲んで元気が出た気にちょっぴりなった。


「東雲です…」


「マッキー?」


「はい。マッキーです」


「今日は中止?」


「沖縄に行こうかと」


「沖縄」


「ジャンプ使えばすぐに行けるし、空間をぶち抜けばツキコモリさんも移動出来るよ」


「沖縄」


「どうかな?」


「良いね」


「でしょ!最高だよね沖縄って!日帰りだけど、夏服でさ」


ビーチサイドで…なんて大人のセレブな発想は口にしない。


「美味しいものでも食べて。夕陽見ながらトロピカルジュースと美味しいケーキ食べて帰るんだ」


「いいね」


「でしょ!?ずっと行きたかったトコロがあってさ!多分気に入るよ!」


もちろん、そんなトコロは無い。これからインターネットで調べるつもりである。


「いいね」


「えっと。そういうわけだからさ。ツキコモリさん迎えに行くから。ジャンプですぐにさ」


「分かった。今新宿に居る」


え?


「新宿?」


新幹線はおろか電車すら走ってなかった。


「え?あそこから新宿まで、もう行ったの?」


「そう」


「えええええ。この台風の中!?」


「そう」


「どうやって!?」


「車で」


「車で…」


覚悟が無かったのはどっちなんだ。家で待機してるだろうって思いこんでた僕は、一体何なんだ?約束を守ってた。僕は、そんな約束すら守ってなかった。今完全に理解した。侮ってたな、僕の方だった。真剣に生きてなかった。何が大切なものなのかすら、分かってなかった。ツキコモリさんの事を、僕はまるで分かってなかった。僕は調子に乗っていた。


「あの関西弁の人?」


「そう」


この嵐の中、ずっと僕を待ってたっていうのか。


「…」







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