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天界の凱旋者

玉座からクリルと背を向け時、怒号が鳴った。ときの声が聞こえる。振り返ると、玉座の隣に買えば70万ぐらいしそうなでっかいモニターが出現し、そこでは人々の歓声が鳴り響いていた。


「月の地下、深層世界の様子です」


大広場に建てられた大きな聖堂に指導者らしき女性がいて、大広場に集まる人々に演説していた。大広場は広いなんてものじゃない、何万人何十万人という人々が点となって沸き起こってる。


「輪が部隊の顔が見受けられる。そうか。侵食を逃れたモノ達は、地下に潜る事を選んだのか…」


天使もいるし、ウサギの耳の生えたガチでありそうで三次元だったらちょっと気持ち悪い微妙な感じがする人間もいるし、ウサギ耳じゃない本当にエルフみたいなツンとした耳の形の人間もいる。そっちもよっぽど奇妙に見えるけど。


「行ってあげたらどうですかぁ?」


「僕こそ英雄だって?冗談でしょ。僕じゃなくったって誰でも同じ事をやってるさ。それがたまたま今回は僕だったって話。僕の仕事は終わりでしょ」


「彼らだってきっと、侵食世界を葬った存在を英雄、いや、もっと言えば神と崇め奉るかもしれませんよぉ?宗教だって出来るかも。間違いなく、今後永続的に未来永劫語り継がれる存在であることは間違いないですねぇ。だとしたら。月の住民にとっての神は私ではなくてぇ、マッキーなんじゃないですかぁ?」


「…」


へぇ。すごい。ひゃっほー。さすが僕。で終わるような話ではないのは理解出来た。僕がずっと語り継がれるのだ。それは伝説、そうレジェンドになるのだ。レジェンド。未来永劫は言い過ぎとしても、今後千年は語り継がれるかもしれない。日本で千年前って言うとええっと。平安時代か。ちなみに世界最古の企業である建築会社もそれより四百年前ぐらいからあって、ちょっと手前の三百年前ぐらいからジブリのモデルにもなった山梨県の慶雲館とか創業してるから千年前とか千五百年前って歴史はちょっとでも色あせずに、どどんと伝説になってゆく。お寺や仏壇屋さんなんかも千年とかも余裕で超えて経営してるし。


「多分、今行っとかないと、二千年後の月の内戦でマッキーのせいで戦争が起こるかも」


割とマジな顔でビッキーは言う。


「言った言わないでとってつけたような争いごとに僕をダシに使われるのはしゃくだけどね!」


宗教の本の解釈を巡って争うのは結構ある。皆がみんな、きのこたけのこ戦争レベルで済んでるわけではないのだ。まぁきのこの山食べてるヤツは舌がおかしいという他無いって思ってたけど、ちょっと前にちょっと食べたら、少なくとも食べ物として口に入るヤツであるということは確認出来たんだけどね。まぁたけのこの里の十分の一以上の美味しさであるのは認めた。


「今行って劇的な登場と感動的なスピーチ、圧倒的なパフォーマンスで大衆を安心させ熱狂させてあげるのが大切なんじゃないですか?」


死が差し迫った世界で生きてた人が、救われた。どれほど辛いか。苦しかったか。


「今出て行ったら、きっと不安は解消されるでしょうし、皆喜びますよ?」


「えええ…」


気が進まないけど、死ぬかもしれないという人間が抱える精神的ストレスは死ぬまで引っ張るレベルの苦痛だ。僕が出て行けば、きっと皆の不安を払拭してあげられるかもしれない。それはきっと、皆の心の支えになってくれると思う。良い考えのように思えた。


「うーん。気は進まないけど、とりあえずスーパーマンみたいな感じで、僕がなんとかしました!やっつけました!これで皆さんはもう安全です!とか言ってあげるの?」


「そうそう!そういう感じで。コスチュームとか用意しますよ?」


「いらないよそんなん!コスプレじゃないんだから」


ビッキーは自身の魔力と神様の全知全能の力で、クローゼットが飛び出てきた。


「…」


バットマン…。スパイダーマン。アイアンマン。他にも日本の日曜の朝から流れてるレンジャーもののコスプレ衣装まで揃えてた。


「なんでレンジャーものまであるの…」


「マッキーの小さい頃、もう思い出せないけど、確かに夢中だったものでしょ?」


「ほんっとどーでもいい記憶を引っ張ってくるよね…。まぁそりゃ昔はね。毎月十五日のコロコロコミックとか楽しみで楽しみで仕方が無かったからね…」


あっ。爆走兄弟のコスプレもある。お前どんだけ昔の子供の頃の記憶まで読み込んでんだよ。突き刺さって涙が出そうになったよ。ミニ四駆やってたなぁ…。


「…」


突っ込んだら負けな気持ちになってきてあえてスルー。


「着るならダークナイトかなぁ。ガチパクリは版権に引っかかりそうだからもうちょっとオマージュしてよ」


「注文多いですねぇ~」


「忍者っぽい感じで」


「…絶対着てくださいよ」


「…」


一瞬で仕立て上げられた黒のボディスーツが僕の前に飛び出してきた。マスクもある。


「月の公用語は英語ですから、マスクには拡声器の機能も備わってますよぉ」


今のままのありのままじゃ、なんだかそれっぽい感じがしないだろう。ドラゴン変化第一形態とかやってても、映えないだろうと思う。こういうのはビジュアル的なアレも大切だ。人々の心を納得と安心感をお届けするためには、必要な事に思えた。


「…」


最低限顔は隠して…。よし。着替えた。言って裸だからね。白い服はオーラを物質化してるだけであって、それもまぁボロボロだし。


「…」


ビッキーがガン見してたけど、僕はあえてスルー。


「…どう?」


「どうとは?」


美的センスの塊のような天使に聞いた。


「英雄っぽさとか、子供を安心して任せられそう?不安な気持ち吹っ飛びそうです?」


「…」


「…」


「…かなり似合ってるかもしれない。これなら大衆を安心できることは間違いなさそうだろう。不安な気持ちは間違いなくぶっ飛ぶかもしれない」


「そっかぁ。オッケー。気は進まないけど、さくっと行くか…」


「はいこれ原稿」


そう言われて何枚かつづられているプリントが落ちてきた。


「…」


ちょっと読んでて恥ずかしくなるような文面。


「なんでこんなイケイケなの?」


「ハリウッドのヒーロー像をイメージしてみました」


「これは保留かな」


「あ!それマッキーが巨人群を殲滅してる時に考えてたヤツだからちゃんとそれでスピーチしてください」


「僕が血みどろで闘ってる間スピーチの原稿考えてたの?」


「頑張っちゃいました」


軽くいらっと来る発言を見事にスルーした。ビッキーの可愛さとか、マジねーから。こういう感情が沸くのは生まれて初めてだよ。


「じゃあレディゴ」


その腹いせかは知らないけど、次元の穴が出現しそこ真下に急転直下。分かってたし、避けれるけど、このままの勢いで月の内部、深層世界へと渡る。そうでもしないと、コスプレの毛恥ずかしさで声がどもりそうになっちゃうのだ。

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