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月の交渉人

僕を血と肉のバラバラに出来る攻撃をまたしてくるらしい。また殺されるのも癪だなと思いながらも、脳髄も肉体も無くなるどこまでも無に近づく不思議な体験をまた出来るのかとも思ってしまう。輪廻転生が完璧な意志の下で行われるのだとしたら、死は眠りにどこまでも近づくのか。ひょっとしたら安らぎにも近いのかもしれない。僕の細胞一つとっても、家族の血は流れてるのだ。灯が途絶えない限り、生命は永遠だ。どれだけ姿形が変わったとしても、そこに刻まれた遺伝子は、単細胞だった頃だとか、お父さんだった頃だとか、ひいおばあちゃんだっただった頃だって刻まれてる。記憶は忘れてしまってるのだけれども。


「…」


僕の家族や親せき、遡ってゆく死の連続性。果たしてそれらは、良き死だったのだろうか。子供を信じて、孫を信じて死ねただろうか。お爺ちゃん、お婆ちゃんは、ちゃんと安心して、怖がらずに死ねるだろうか。


「安心してほしいな。…僕はここまで立派になっている」


少し前の僕は瞬殺した光のビームを、僕の究極闘気カリスマが防衛して上回っている。夥しいほどのマナが消耗されていくのを感じるが、月内部の物体を取り込めた。この際、消費カロリーは考えないでいよう。


「…」


完璧にハイ。自分に感動、ちょっと自惚れ。見事なまでに意志の実行。無敵過ぎる僕に百点満点の自己満足評価。


「…」


どうやってこの艦隊を破壊してやろうかと考えたが、すぐ止めた。もう敵じゃない。いてもいなくても、攻撃しても攻撃しなくても、別にいい。特に何か問題があるわけじゃないし、どうでもいいことだ。


「…はぁ」


ハイになって、大好きな音楽でちょっとよそでは離せないような勢いで狂ったように躍った後に、マスターベーションした後、賢者モードが訪れた時につくため息にすっごく似てるため息。


「はずいなぁ………もう」


高校生にもなって…。それでも。抑える事すらはばかれるような、僕の息づくオーラが凄まじい速度で対外を巡り、そして時折翼から弾けるようにほとばしっている。


「あ」


思わず声が出た。艦隊が一斉に白旗を上げるのが見えた。多分白旗だと思う。


「ふざけるなよお前ら…」


侵略者が白旗。意味が分からない。ちゃんとそこは死で決着しないと。駄目だ。


「くそったれが…」


頭にきた。散々攻撃して散々殺した癖に、分が悪くなったら降参か。馬鹿なのか。


「…」


オーラがほとばしる。僕の感情に反応して、黒に染まってゆく。轟轟としたオーラが怒りに満ち溢れていく。


「…しょうがないな」


笑って全滅させるのがビッキーだろう。あー気持ちよかったぁ。とかも付け加えて。それを考えたらちょっとクールになれた。


「…」


こういう時、僕は絶対自分でもフェアーに攻撃しないんだろうけど、全滅させて皆殺しに殲滅して笑いたいって思ってる自分も心の片隅のどこかにいた。自分の中のルールや道徳心に慈愛の心が、闘争心と義憤によって塗り潰されてる部分があった。どうしようか。感情のまま行動してしまえる自分もいる。


「…」


でも、どうだろうか?自分の行動、人生、結果、選択の連続を、自分の子供、孫、家族に誇らしく語って伝える事が出来るだろうか。それが全てではないだろうか。


「…」


でも信用できるか?白旗をあげて平然と襲ってくるのが海賊なわけだ。そしてこういう場面で、こういう事だ。これが人間同士なら、間違いなく殲滅するのが正しい事だろう。襲ってきた相手の白旗なんて、何一つ信用に値しない。それにここは合戦場だし。ちゃんと死なせてあげないと。


「っふー」


攻撃の手を止めるのって、意外とストレスに感じるものだと思う。本当にずるいと思う。それで生き延びる事が出来るって考えてる相手方の艦隊、白旗をあげるって決断をした知的生命体がまず許せない。


「…」


不思議な感じがしたので、上を見上げたら、次元の門らしい巨大な物体が遥か上に突然出現して、そこから一体の真っ白い幾重もの翼を持つ美しく輝く天使が舞い降りてきた。


「…」


ゆっくり時間をかけて降りてきて、テレパシーで美しい天使は語りかけてくる。


「…」


これは殺さなくていいと思う。多分。でも、こういうのがマジもんのビッキータイプなら、即死パターンもありえるからな。注意深く、ちょっとでも不思議に感じたら、殺そう。気付けば乗っ取られたらとか、今思い出しただけでも鳥肌が立つし。


「先に伝えておくが、この肉体は私達の戦利品の一つで、先ほど停戦用の端末として解答したモノになる。停戦交渉が終わり次第、私達はこの肉体の支配権を永遠に放棄する」


「…停戦」


難しい事わかんないなぁ。ビッキー呼んだ方がいいかな。でもアレだってもう直接干渉しないとか言っちゃってるし、ちょっと若干キャラ変してたし、ここはこういう場所で、この合戦場では僕一人だけだし、つまり総大将は僕ってことになるわけだ。だから責任者も僕なのだろう。


「聞きましょう。あと。日本語で」


佐賀弁なら好感度は上がる。津軽弁もそう。東京弁の標準語も悪くない。広島弁だって受け入れましょう。


「この者の記憶回路には日本語という言語は記録されていないようだ」


なるほど。そういう事言われると地球の公用語を日本語にしてあげたくなるおせっかいのヤバイ気持ちが生まれる。こういう感じで世界征服とか為政者って思っちゃって実行しちゃうんだろうか。人間って怖い。


「じゃあ英語で、英語は喋れますか?」


「英語は記録されている」


ラテン語しか無かったらどうしようと思ったけど、英語は喋れるようだ。今の僕も英語の記憶の引き出しが自在に開ける。今なら英検一級も楽勝だろう。いや、スペルが分かんなくて書けないか。


「どうぞ。聞きましょう」


もちろん英語で喋ってる。自分で言っててカッコいい感じで喋ってるって強く感じる。少なく見積もっても、ブラッドピットとレオナルドディカプリオを足して二で割ってるだろう。間違いない。


「そちらの要求は可能な限り飲む。こちらの要求は一つだけ。こちらへの一切の攻撃、報復を行わないことだ」


「…」


良く分からない。これやっぱち僕が代表で解決すべき問題じゃない。最強、絶対無敵、マジ超強いっすって言っても、中身はさっきまで普通の高校生の十六歳なんだもん。それに、そういうことは、月面内部の更に奥に逃げている旧人類と話し合うべきなんじゃないか?


「…」


それともここで、全てを終わらせておくべきか。ここで適当に停戦交渉とやらをやって、それで全てが終わって、また一から復興という事にすべきか。


「…」


僕が適当にやった挙句、旧人類は。そもそも天使が侵攻してのを、訳の分からない異次元の文明が天使を乗っ取ってそのまま侵攻していったってことだし。


「話はやっぱり、この地下にいる旧人類の人間にすべきだ。僕はただの戦力に過ぎないから」


「その戦力が問題なのだ。分析の結果ヴァミリオンドラゴンと断定した。他は問題ではない、あなたの力こそが問題になっている」


「ヴァミリオンドラゴンってやっぱり有名なんだ」


「大災厄の始まり、第一のマベル。あなたは…あまりにも限度を超えていた」


「停戦の話は僕じゃ力不足だ」


難しい話は大学出てるヤツにやってもらうべきだ。僕大学に行かずにこのまま高卒で働くつもりだし。


「お前に話してるんだ。他の誰でも無い、ヴァミリオンドラゴンの、お前に」


言われてドキリとした。そしてちょっと落胆して、一息吸って。覚悟を決めた。そうか。僕はやっぱりもう人間じゃなく、ドラゴンになってしまったのか。ちょっと残念に思えた。


「一千万の宇宙があっても、風前の灯に差し掛かってる。お前の気分次第でな」


僕そこまでヤベー奴じゃないし、一千万の宇宙。


「…言い過ぎですよ。そこまで強くない」


宇宙の広さ知ってる?ヤバいよ?僕さっきまでスポーツカー乗ってたけど、スポーツカーで宇宙の端から端まで移動しようとしたら、それはもうちょっともうホントアレだよ。


「星々を喰らい、ブラックホールで次元を超え、星座を書き換えるのがヴァミリオンドラゴンだ。そうだろう?」


「…」


それはひょっとしてギャグで言ってるのか?

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