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第十話 座学する少年

日曜日。ログインした時だった。


「…」


「…」


ツキコモリさんとミルフィーの間になんか変な空気が流れてた。


「マッキーおはよ」


「おはようございます~」


「おはようございます。どうかしたんですか?…どうかしたの?」


「いえ~なんでも~」


「マッキー。今ユーチューブしてるよね」


「え!?」


藪から棒だ。まさか。


「見たの?」


「そう。マッキー。…なんでもない」


「…」


なんでもないわけがない空気が流れてる。例えるならテイルズとかで裏切りルートが始まるちょっと前ぐらいのチャットシーンだったり、仲間内でばらばらになる直前の会話のマンガとか。絶対見られたくなかったんだ。前田との絡みなんて。誤解されたらどうしよう。


「何かあったなら言ってよ。僕がパーティリーダーなんだから」


ここは攻めよう。リーダーらしく。ミルフィーさんは勘違いしてるかもしれないが、これは僕の物語なのだ。


「物語の核心部分に触れるとこだから、マッキーここはスルーした方がいい。これは伏線で、後半に回収されるから」


「だったら尚の事今聞いときゃなきゃダメだよね!?」


正論で攻める。っていうかツキコモリさんメタ過ぎるからね!?もう勘弁してよね!?


「まだ早いよ」


「なんでだよ!?ツキコモリさんだって同じぐらいでしょ!?」


「…」


ミルフィーさんの顔を見てもただ、無言でじーっとツキコモリさんを見ているだけだ。なんか、変な感じがするな。ぬいぐるみかな?


「私からは何も~」


「マッキーは、本当にこれがゲームだと思ってる?」


またしても藪から棒。


「これがゲームでも異世界でも日常の延長でもどっちでもいいよ。人間、生きてるだけで奇跡の連続でしょ」


「そう」


納得してない顔をされてるし。


「最近、特に奇跡だらけ。人生ハッピーモード突入しちゃってるよ。いっぱいいっぱい。それに、僕はギルド創る予定だからさ。そうしたらギルドマスター」


せめてツキコモリさんの前ぐらいは格好つけなきゃ。はじまらない。


「だから、なんでも聞かなきゃ。そうなったらさ…」


あれ?僕がギルドマスターなら。ツキコモリさんがギルドメンバーなら。あれれ?


『リーダーがメンバーに手出してどーすんだよ。社長がスタッフナンパしてどーすんだよ。アタマっていうのは、孤高なものなんだぜ。超然として振舞うものなんだ。だからオレはずっと…さ』


小学生の頃、サークル作ったことを思い出した。


「…」


リーダーはギルドメンバーに恋愛感情を持つな。集団のトップとして君臨しろ。高い統制と強い意志を持て。絶対の強者はブレない。…そんな言葉が刺さったはずだった。だとすると、ギルドを諦めるか。ツキコモリさんへの恋愛感情を辞めるか。二択になるわけだ。


「どうしたんですか~?イきりパート終了~??」


「え?あ。…とにかく、二人で何こそこそ話してたか気になるから教えてよ!」


「教える。マッキーがレベル50を超えたら。ミルもそれでいいね」


「はい~」


「ちょっと…」


この物語は僕が主役…。


「私に二度言わせるような事はマッキーしないよね」


うっッ!!


「もちろんだよ。じゃあちゃっちゃとイースターヴェルへ向かうよ!それか修行だ!」


その気になったらレベル50ぐらい上げるのに3秒もかからないけどね。レベル50だとか、レベル80だとか、レベル100やら。


「…」


れべるせんにひゃくきゅうじゅうきゅうのぼくからすれば、とるにたらないことなんだよ。


「…」


「知らない方がいいこともあるんだよ。みんなには、幸せな気持ちでいて欲しいから」


「…じゃあさっさと向かいますよ~」


滅茶苦茶気になるけど、ツキコモリさんを信じてみるか。あんまりこういう丸投げしない方なんだけどなぁ。


「ゴ~」


硝子細工の町、ボーエンを見下ろす部屋を後にして、町から離れた。再び、馬車。日の光に照らされて、きらきらと輝くプリズムを横行して去る。本当は自分一人なら歩いてみたかったけど、また今度だ。その時は、ジュースとサンドイッチを買って、時間たっぷりの散歩をやろう。


「原則的に魔力には、白、青、黒、赤、緑の色がついてます~。それが個性と言われるヤツですね~」


ミルフィーさんは馬車に揺られながらノートパソコンぐらいのホワイトボードに五芒星の魔法陣を一筆で書いてゆく。それぞれの端っこの尖った五か所にW、U、B、R、Gと書いてる。ホワイト、ブルー、ブラック、レッド、グリーン。青のUだけはブルーとブラックでBが被るのでUと表記されてる。


「結論から言うと、ランカークラスは自分の長所に沿った最大限のメリットを利用します~。つまり、パーティの役割、バトルの役割といったものをオーラの色に合わせてるんですね~」


「自由度ちょっぴり下がってる気がする…」


ふむふむ。


「最初に魔力の色の説明をしておきます~。白は『絶対』他の色を侵食し染め直す事を意味します~。他者のダメージを無効化し軽減し取り除き、治し、癒すのが得意ですね~。意外にもPK第一位がこれだったり、ヒーラーのイメージが強い一方で生命以外のモノを破壊するのが得意ですね~」


「なんか意外と攻撃的…」


「一番重要なポジションを任されてるところがあるんだよ。頑張ってマッキー」


「頑張ります…」


「青は『支配』魔力をコントロールするのが得意だって言えば聞こえはいいですが~。魔法を強化したり分解したり打ち消したり着地点を変更させたり遅らせたりと、やりたい放題できちゃいますけど~。ピーキーですね~。直接的な攻撃手段というよりは、補助系統色という感じですね~。Realやってる人で一番少ないんじゃないでしょうか~。正直あんまり絡みが無いのでよくわかんないですけど~。五色の中で一番強いというのが私の印象ですね~。使う人が使えれば~」


「最強色の扱い雑過ぎない!?」


「極端に難しいし、目立たないし、後衛がほとんどだし、役に立たないから出てけと言われて出て行って他のパーティに行ったら実はとんでもなく優秀で隠れ実力者はこのタイプが多いと思ってるよ」


「それ以上はいけない」


「あとは条件満たせば倒れるどころか味方として利用できるのも強みの一つですね~。まぁランカークラスの話ですが~」


「ランカーって何?」


聞き流してたけど、強い高いスゴイ人の総称だと思ってたけど、厳密な定義がありそう。


「それぞれの色やレベル、ジョブによってランキングが公開されるんですよ~」


「へぇ~。名前とか出ちゃうんだ」


「ですです~。ランカーとはその十位以内の事を指し示します~。基本的にこのクラスは、地球でも強者でいる事があって、国を持ってたり街を支配してたり海域を縄張りにしてたりする事もありますよ~」


「それなんかの海賊王目指すマンガだよね!?」


「アラビアの王子なんかは最たる例で、ギルドでランキングを独占したり出来てますね~。一か月に二兆ぐらい使ってれば半分インチキみたいなとこありますが~」


「半分どころか大分インチキだと思うよ!?」


ついてけないよ…。なんだよ二兆って。僕は一万円と十万円の違いは分かるけど、一千万と一億の違いが分からないんだからな。イイ大人が何やってんだよって感じだ。多分めっちゃ人生楽しんでそう。


「話を戻しますと、黒は『死滅』一撃必殺が一番得意な色で、攻撃や破壊に最も長けています~。一番ポップで脅威的で分かり易い強さがありますね~。反面Realの中では一番解明の進んだ色で、対処法もおおむね確立されているのもあって今では大分落ち着いてます~。Real初期ではランキングの多くが黒で埋め尽くされてたほどに、単純に強い色です~。意外とこの手のヒーラーもいたりします~」


「私達風に言えば、呪いや邪術をイメージしたらいいかな」


「へぇ…。おっかないなぁ…」


「赤は『破壊』そのもので、純粋な攻撃力なら一番ですね~。パーティを組む際のアタッカーは黒と赤がベストだと言われてます~。他にも物を壊すのに一番長けてて分かり易い強さがありますね~。ちなみに私はこの赤色に属してます~。なんでも聞いてくださいね~」


「ファンタジーもので最初ぐらいに出てくる分かり易い敵は大体これ。分かり易いから視聴者、読者に世界観魅せるのにぴったり。大体なんとかなるやつ。」


ツキコモリさん。あなたはどこの覇道を突き進んでるのでしょうか…。


「最後は緑で『増強』バフをかけて能力を増加させたり、単純に基礎のパワーが強いのも強みですね~。白と同じくモノを壊せたり治せたりします~。プレイヤーキラーで緑は見たことが無いってぐらい、結構性格的に良い人が多かったりしますね~。バフをかける能力は一番で、攻守なんでも出来ます~。タンクに一番多かったり~ヒーラーも出来たり~アタッカーもやれたり~一番オールマイティーに何でもこなせて、全てに可能性がある色ですね~」


「一番都合の良い色だね」


「…ツキコモリさん……」


あなたは誰と戦ってるんだ。


「一通り簡単に五色を説明しましたが、極稀に無色や銅銀金、白銀といったものもありますが~。あんまり気にしなくていいですね~。これは人間の成長過程で特殊な環境で育って生育された結果だったり、生まれ持って得たものだったり、家柄だったりします~。アラビアの王子が白銀で、偉大なるギルドの一角クルセードのギルマスが金だったりします~」


「なんかそういうのって結局レアなのばっかりになって、インフレが加速する原因になるんだよね」


誰目線だよそれ!?まぁありがちだけどね!?


「へー。なんかいろいろあって楽しそうだね。ちなみに僕は」


「白ですよね~」


「そ、そうなんだ。ヒーラーにはうってつけってわけ」


「ヒーラーにも、両手杖の純ヒーラー白魔導士~」


「それでいいです。一番ヒーラーとして特化した白魔導士でいいです。分かり易いし」


もうごちゃごちゃしたりすると、逆に頭が入らなくなるし。攻撃は全部パーティメンバーに任せちゃって。


「私もそれが合ってると思う」


「じゃあ決定!」


お墨付きを頂きましたので確定しました。


「モーリーは何するか決めたんですか~?」


「いろいろやるつもり」


「内緒ってわけですね~」


平原を超えた辺りから荒野になって、更に先では外壁に覆われた街が見えてきた。


「イースターヴェルか」


月刊Realで特集されてたっけ。天使と悪魔の密会所って触れ込みで、全てが手に入る場所。理想郷を作ろうとしている人間の集団で構成された組織が最低限度の治安維持と最大限度の自由を保障する場所だという。


「一つだけ言っておきたいことがあります~」


「なに?」


「なんです?」


「ギャンブルだけは止めておけ~」



「お。出てんじゃん」


「出てんじゃねー出してんのよ」


「48時間座りっぱでようやくって、ちょっとひどくね?」


「こんな快感はね。…地獄にも存在しないのよ」

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