聖女ウィー・シーの躍進
この国の中枢では、隣国に聖女が現れたとの噂について協議していた。
その聖女の名はウィー・シーと言うらしい。
「聖女ウィー・シーの噂は本当だろうか」
「隣国は最近豊かになっているようです」
「人口もかなり増えていると聞く」
「ではやはり……」
隣国の状況からして、何かしらの変化が有った事は確かなようだ。
「だが、それだけで聖女と結びつけるのは早計だろう」
「ああ、そうだな」
「然り然り」
慎重派の面々は、変化だけで聖女の存在を肯定出来るものではないと考えていた。
議論が紛糾する中、公爵の一人が発言する。
「ここは調査隊を隣国へ送り確認すべきでは」
「うむ」
「そうだな、ここで議論していても始まらん」
「ではこちらで人員を選別しておきます」
こうして編成された調査隊は、隣国へと旅立った。
数週間後、隣国に着いた調査隊は聞き込みを始める。
「すまない、この国に聖女ウィー・シーが現れたと聞いて見物に来たんだが」
「聖女? あー、あれね」
心当たりが有るように頷く街人A。
(あの様子だと、どうやら噂は本当のようだな……)
(ああ)
調査隊の仲間内で小声で確かめ合う。
「では、不躾ですまないが聖女を一目見る事は出来るだろうか?」
「ああ、ええよ。こっちだ」
「おぉ!」
どうやら今すぐに会える場所に居るようだ。
街人Aは調査隊を案内して、建物の前で止まった。
「ここだ」
「この中に聖女が……」
その建物は市場の中に有り、人々が買い物で賑わっていた。
看板には何やら見た事の無い文字が綴られている。
「ありがとう、早速探してみるよ」
「ここは品揃えも良いからな、目当てのものが見つかると良いな」
そう言い、街人Aは去って行く。
早速建物の中に入ると、所狭しと並んでいる品物が目に入った。
「隊長、これは」
「ああ、聞いていた以上に聖女は国を豊かにしたようだ」
瑞々しい野菜、調味料の数々。
そして見た事のない珍しい品々。
調査隊は聖女の事を一旦置いておいて、その品々を買い漁った。
調査隊は帰国後、報告をした。
「聖女の存在については、町の誰もが肯定しているようでした。
聖女の居ると言う場所へ案内されたのですが、そこには新鮮な食材や様々な珍しい品が沢山並んでおりました。
聖女とはここまで国を豊かにする事が出来るのかと、我々も只々驚くばかりでした」
調査隊の持ち帰った品々を見て、国の中枢の面々は派閥に関わらず皆一様に驚いている。
「これほどのものとは……」
「ですが、残念ながら聖女に会う事は出来ませんでした。恐らく入れ違いになったものと……」
「そうか」
調査隊を編成した公爵はがっくりと項垂れる。
そして持ち帰った品々を見ていた者の中から誰となく、このような事を言い出した。
「聖女を招く事は出来ないだろうか」
「これだけの成果を目の当たりにすれば、我が国の利益になる事は間違いない」
目の色を変える一部の人に対し、それは馬鹿げた話だと良識有る者は反対した。
「馬鹿な、聖女を手放す国など有ると思うか?」
「そうだ、それに下手にちょっかいを出してみろ、聖女を巡り戦争になるやも知れん」
「隣国とは特に仲が悪いわけでもないし、国力差もほぼ無いのだ。無理をすれば国を衰退させてしまう可能性も有る」
「わざわざ争いの火種になるような事は慎むべきだろうな」
「ううむ……」
このように会議は進み、最終的に国が出した結論は『聖女に手出し無用』であった。
確かに聖女の力は欲しいが、無理をして逆に各国に睨まれるような事態は避けたい。
それに隣国へ行けば珍しい品々を手に入れられる事が分かったのが大きい。
多少の手間は掛かるが、聖女の恩恵に預かれるのだ。
隣国への移民は制限したが、商隊を隣国と行き来させ商品を手に入れられるように不満を和らげる事も忘れなかった。
数か月後、日本からこの世界の隣国へ異世界転移したサラリーマンが呟いた。
「へー、成城石井って異世界にも有るんだ」
オチは読めていたよね。