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07

 

「それでは、はじめる」


 ジークがそう言うや否や、氷がシュリを襲う。


 シュリは舞うように避け、時には叩き落とす。避ける方が多いが、いくつかは身体に当たり砕け散った。


 その二人を遠巻きに囲むように、師団長たちが見ていた。

 会議の帰りである。ジークが直々に訓練をつけると聞いて、見学に来ていた。


「あいかわらずキテレツな動きをする」


「でも大半は当たっていませんよ?」


「型はなっていない」


「実戦に型も何もないでしょう。今日の訓練をきっちりこなし、防具の修繕も行った後にあれだけ動けるのですよ」


「騎士と言うより傭兵だな。冒険者だったか?」


「ええ。ただ、本人も冒険者登録はあるようですが、母親が薬師で冒険者だそうで。主に母親の助手、護衛をしていたようですね」


「しかしすばしっこいな。反面、攻撃に重さは乗らんだろう。身体もまだ細い」


 師団長たちはその言葉に頷き合った。

 騎士にも様々な役割がある。防御力、攻撃力、機動力。団員の能力を余すところなく使うために、指揮官には適材適所の采配が求められる。


 能力だけなら配下に欲しい。能力だけなら。


 師団長たちが黙ってシュリを見る。


 ジークが氷の魔術を止め、木剣を構える。


「では、来い」


 シュリが木剣でジークを打つ。


 ジークに難なく弾かれるが、シュリは体勢を崩すことなく肘でジークの小手を払った。


 それすらも(かわ)され、シュリは一度飛んで下がる。


 ジークと数度切り結んでは弾かれ、シュリの攻撃はまともに入らない。


「どうした? 胸から上は空いているぞ? 打ってこい」


 ジークはわざと胸から上の防御をしておらず、そこを狙うように言った。


 シュリは力量の差に悔しそうにしながらも、首を振る。


「て」


 て?


「天使の顔は殴れない……!」


 シュリは怒りのジークにぶっ飛ばされ、本日の個人レッスンは終了となった。


「あれさえなけりゃあ……」


「なあ……」


 副長を天使と呼び、熱い眼差しを向ける地雷団員を欲しがる師団長はいなかった。


「さっきの会議よお」


「……ああ」


「どう思う?」


 地面に転がるシュリを見ながら師団長たちは溜め息を吐いた。


「あれが()()なら、たいしたもんだよなぁ」


「油断は禁物です。入団式後に第一師団長から釘をさされても、彼は副長の詮索を止めなかった。露見しないように気を付けてはいたようですが、その辺の対処は素人でした。かと言って疑いが晴れた訳ではありません。何の目的で副長の身辺を探っているのかはっきりしない限りは、彼は調査対象です」


「南西の国から、もう一人預かってるだろ? 訳ありの坊や。そっちとの関わりは?」


「同じ班ですからね。関わるのは当たり前でしょう。……今のところはただの班員以上の接触は確認されていません」


「まあ、来週からの野営訓練ではっきりするだろう」


 師団長たちは頷いた。

 そして、近年にない程、騎士たちによって入念な準備がされている野営訓練を思い、何とも言えない顔をした。


 恐らく、いや、確実に災難に見舞われる従騎士候補生たちに、師団長たちは心の中でエールを送った。





 この大陸のほぼ中央にある「黒の森」。


 ある日突然、その黒の森から魔物たちが大量に溢れ出すことがある。


 何故その現象が起こるのかも、起こる周期も、いつ収まるのかも分からない。


 何も対策を取らなければ町がいくつも蹂躙(じゅうりん)され、国が滅び、やがて大陸が滅ぶ危機となるこの現象と、人間は必死で戦ってきた。


 不思議なことに、黒の森から魔物たちが溢れる時、それはひとつの国で起こる。何か理由があっての一方向とも見えるし、国を狙ったとも言えるが、真相は人間には分からない。


 前に魔物たちが溢れたのは北の国で、ほんの五十年程前のことである。


 町ひとつ分森が大きくなったが、当時、異なる世界から落ちてきた偉大なる魔術師が、森から魔物が出てこられない巨大な魔術をかけ、およそ五年で収束した。


 周辺は復興したが、当時を知る者たちは、地獄のような様子を語ることも書き記すことも出来ない程、心に傷を残しているという。


 西の国に、大陸の中でも予見を得意とする魔術師がいる。


 その魔術師が昨年、一年以内に西の国で黒の森から魔物が溢れると予言した。


 果たして、この夏、西の国では予言どおりに黒の森から魔物たちが溢れ、森境の町を前線に魔物との戦いが今も行われている。


 予言があったおかげで、西の国では迎え撃つ準備がなされ、各国も西の国の支援に動いており、今のところ魔物たちの侵攻を許していない。


 しかし、西の国で防げなければ、やがては周囲の国、大陸全体に影響は及ぶ。


 そのため、東の国でも物資の提供を継続して行い、騎士団の四分の一にあたる戦力を西の国に送ることが決定している。


 とはいえ、自国の守りを緩めるわけにはいかない。

 西の国と東の国は黒の森を挟んで対局に存在するため、黒の森を迂回しなければ行き来が出来ず、距離が離れているので、騎士団は年単位での出征となる。


 今回入団した従騎士候補生の従騎士任命後、出征師団は遠征に出発することになっていた。



読んでくださり、ありがとうございました。


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