03
「なあ、さっきのリストの一人さぁ、お前の大ファンって奴だろ? ほら、お前が凍らせて中止になった入団式で、お前を見て固まってた奴。それ見たかったなぁ」
従騎士も下がらせ、副長三人だけの場でエリックがジークに声をかけた。
騎士団の入団式は副長が持ち回りで参加することになっている。
今回はジークの番で、エリックとオリヴァーは参加していなかった。
ジークは無表情で聞こえないフリをする。
ジークが構いたがりのエリックを無視するのはいつものことである。
「なんだっけ? 天使様だっけ? なあ、お前天使だったの? 何の天使なの? なあ? しかも時々稽古付けて構ってるらしいじゃん?」
エリックがニヤニヤとジークを小突く。
ジークは嫌そうな顔をするだけで答えない。
答えた方が長引くのが経験上分かっているからである。
「シュリ・マイヤー、十五歳。南西の国から入団。ウテシュ商会の会頭からの推薦状で入団しています。ウテシュ商会はファーレンハイトと懇意にしていますよね。入団式で名前を呼ばれたのにジークを見て固まり、ジークを天使呼ばわりした挙げ句、ジークの婚姻相手に興味を示し、そしてジークの氷の攻撃を避けた候補生。それ以来時々ジークは一対一で稽古を付けていますね? 元々面識があるのですか?」
オリヴァーが資料を見ながらジークに問う。
「いや、面識はない、と思う。あんなヤツに出くわしたら忘れない。入団式の時に人を見て亡霊を見たかのような顔をしていたから、昔に何か関わりがあったかと思ったが、何も思い出せない。何かしら目的があるのかと、たまに構っている程度だ。現に何かコソコソしているようだしな。……関わり合いたくはないが、俺に絡んで団員たちにも目を付けられている。目の届く範囲に置くほかないだろう。この会議の後も少し相手をする予定だ。ウテシュが推薦するという話も事後報告だったと兄上が言っていた。推薦理由は『能力の高さ』と『人脈』だそうだ。一年、面倒を見る約束で家族から預かったらしい。ウテシュの身辺は調査済みだが、怪しいところはない」
オリヴァーには素直に答えたジークの肩にエリックが肘を乗せて聞く。
「亡霊? 天使じゃなくてか。団員たちも相当気合い入れてやってるみたいだな。従騎士候補生への鍛錬にあんなに熱心なの初めて見たぜ。くくく、あいつらお前が大好きだもんなぁ。モッテモテだな!」
ジークは無表情でエリックの肘を払い落とした。
いつものことなのでエリックは怯まず、またジークの肩に肘を乗せた。
「能力の高さは、まあ、従騎士候補生の中で実戦ですぐ使える一人ではあるがな? しっかし、人脈って? 十五のガキだろ。何の人脈だよ、天使様?」
「……やめろ。次言ったら本気で叩く。南西の国では冒険者として生計を立てていたそうだ。実戦経験は豊富だろう。母親も冒険者で、薬師として有能だそうだ。亡くなった父親は北の国出身で商人をしていたという。重要人物と繋ぎがあるので、ウテシュとしても繋いでおきたいとのことらしいな。俺が氷を当てようとしても、十回に八回は避けられる。戦闘は我流だが、あれは野生動物と同じだ。生存競争の中で生き残ってきた個体だ」
「へえ? 褒めるねぇ? なんでこいつが『リスト』に上がってるんだっけ? ……ああ、入団式のジークのことと、ジークの周りのことをまだ嗅ぎ回ってんのか。特に女性関係? ははぁ……隠すこともなくジーク、お前狙われてんな?」
エリックがニヤニヤしながらからかうと、ジークがものすごい嫌そうな顔で、肩に乗せられたエリックの肘を叩き落とした。
ジークは自分の容姿が女性受けすることを自覚している。一部の男性からも。
そのような視線を受けることには慣れているが、嫌悪感は湧いて出てくる。
「実戦経験豊富ねぇ。じゃあ、ちょっとうちの団員にも遊んでやるように言っておくか。うちの末っ子が欲しいなんて、大それたこと考えてんなら、なあ?」
エリックが笑った。
獲物を殺さずにいたぶる肉食獣のような顔だった。
オリヴァーが「程々にしてください」と窘めていたが、エリックに「程々」などという言葉がないことを、二人はよく知っていた。
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