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ロズフェード王立騎士団 ~ 従騎士候補生たちの受難 ~  作者: 千東風子


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 シュリが「母には恋愛感情を持たない」と、端的に否定すると、誰も二の句が継げなかった。


 国王がか細い声で独り言のように聞いた。


「ビビ殿は、そなたの父と、婚姻、した、というのか?」


 国王らしくない歯切れの悪さだったが、シュリは言いたいことを正確に理解して答えた。


「俺も子どもだったし、魔物に襲われた恐怖と、目の前で皆が死んでいく中でのことだったんで、あんまり覚えていないんですが……。実母は、致命傷を負ってもなお、意識がありました。今際(いまわ)(きわ)に父とビビに言った言葉は覚えています。『今すぐ私と離縁して。そしてビビと再婚して。そうすればシュリを守れる。お願い』と」


 シュリは目を伏せて続けた。


「身重のビビと血縁の無い子どもの俺では、どこへ行っても生きて行くには風当たりが強すぎるのを、実母は一瞬で考えたんでしょうね。どうすれば俺が生き延びられるのか、と。事切れた実母を腕に抱いた父は、実母の指から指輪を抜き、ビビと指輪を交わしました。父は、足を怪我していたので、一緒に逃げることは出来ず、泣いて実母と父に縋る俺をビビは引きずって、二人だけで逃げました。父は最後の力で魔物をくい止めてくれていました。そうして、ビビは俺の母で、未亡人となりました」


 シュリは何かを思い出すように、苦笑した。


「……実母の読みはとても正確でした。魔物の襲撃で夫を失った身重の母と幼い俺は、転々とした先で、受け入れられはしなくても攻撃はされませんでした。これが身重の未婚の娘と両親を失った子どもだったとしたら、あっという間に飢えるか売られていったでしょう」


 実際、そういうことが多々あったと、言外に分かった。


「しかし、ビビ殿とジークは……」


 尚も信じられない国王シュトラールに向かって、シュリは続けた。


「陛下、知っていますか? 平民は婚姻する時、儀式めいたことをする夫婦もいれば、指輪を交わすだけの夫婦もいる。『婚姻の誓約』を結ばなくても、婚姻は成立します」


「……二人が婚姻の誓約をしていることを知っていたか。ならば、誓約をした上で違う者と婚姻するなど有り得んことも分かるだろう」


「母は、婚姻した直後に未亡人になっていますが、父とは(れっき)とした夫婦です。私を育ててくれた母です」


 シュリはジークをまっすぐ見て、言った。


「それでも母に会いに行きますか?」


「行く」


 間髪を容れず、ジークは答えた。


「……人妻ですよ?」


 ジークは頭振(かぶりふ)って、自分の言葉を噛みしめるように吐き出した。


「もう、婚姻とか肩書きに囚われて大切なものを見失いたくない。カヤが生きている。ならば、俺はカヤの側に在りたい。どんな形でも、カヤが大切にしているものごと全て、守る」


「母が拒否するとは、ミジンコほども考えてないみたいですが。今更元の鞘に収められるとでも?」


「いいや。ユーリにも今更と言われたのを忘れたわけではない。……もう元には戻れまい。それでも、側にいる。もう、一人にしない。信じてもらえないだろうが、死ぬまで側にいて共に在れば、次の世では信じてくれるだろう」


「……次の世って、どんだけ……」


「婚姻の誓約は、来世にも繋がる約束でもある。俺は一秒たりとも、カヤを諦めたことはない。これからも、だ」


 シュリがげんなりと息を吐き、諦めた。


 もしかして、もしかしなくても母は、とんでもない人物に狙われて、とうに捕まっているのではないのか。


「決めるのは、母さんです。他の誰にも干渉させません」


「無論だ」


「……ならば、母さんとユーリには、そのまま西の国に留まるようにだけ伝えましょう。副長が行くと知れば、母さんは逃げる。あの人は色んなものを失いすぎて、とても臆病なんです」


「分かった。……ひとつ教えてくれ。婚姻の誓約をしていることは秘密だった。カヤが言い触らすとは思えない。どうやって婚姻の誓約をしていることを知った?」


「どうやって、って。一緒に風呂に入れば、あ」


 ドス黒い殺気を放つジークに、シュリは余計なことを言ったことを知った。


 バルトロメウスがほんの少しだけフォローにならないフォローをした。


「子どもを風呂に入れるのは大変なんですよ……」


 以来、手合わせも日頃の業務も、ジークからシュリの当たりはとても強い。



読んでくださり、ありがとうございました。


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