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「自分で見聞きしたことと、母から聞いた話と、後は俺の推測も混じっています」
そう前置きして、シュリは話し始めた。
落ち人カヤは、護衛騎士につきまとい、迷惑をかけたとして国外追放され、この国を出るために、商隊の中で職を得て同行したこと。
その商隊はシュリの父母の商隊であり、落ち人カヤは「ユイ」と名乗り、シュリの面倒を見ることが仕事であったこと。
ユイという名が真名であると聞いたシュリの母が「ビビ」という名を与えたこと。
東の国を出たところで、商隊は魔物に襲われたこと。
生き残ったのはシュリとビビだけ。
それ以来、親子として共に生きてきたこと。
ユーリが生まれてからは、三人で、共に生きてきたこと。
母は薬草採取や薬の調合をして、冒険者として生計を立てていたこと。
南西の国の黒の森境の町に落ち着いたが、冒険者ギルドと揉め、薬師として西の国の黒の森境のアシューミ領へ行く依頼を受けたこと。
その時に町を訪れたウテシュに会い、ウテシュから母が捜されていることを聞いたこと。
母は、まとめて殺されるか、ユーリだけ連れて行くために捜されていると、見つかることを恐れたこと。
ウテシュがどんなにそうではないと言っても、母は「あの人は目の前で自分じゃない女性に白バラを渡し、自分に向かって婚約者と領地に帰ると言って、自分を置いていなくなった」と言い、自分の見聞きしたもの以外は信じなかったこと。
もう二度と東の国には行かない、関わらない、ユーリの父の名前すらもう声に出して呼ばないと、最後にした約束を今も守っていること。
母は「誰がなんと言おうと、愛しいからとあの人が自分を捜すなんてあり得ないこと」だと頑なに信じていること。
母はこの世界に落ちてきて、一年間この国に手厚く保護され感謝していると言い、その時、商会のウテシュと知り合い、色々な物の使い方や価値、世間について教えてもらって恩を感じていること。
母とウテシュの言葉があまりに食い違っていたので、ならば自分が直接確かめようと、ウテシュと共にこの国に来たこと。
母とユーリは西の国の黒の森境へ行き、今現在魔物たちと戦っていること。
誰一人、身じろぎせずにシュリの話を聞いていた。
ジークの手が震えているのは、感情のままに暴走してしまいそうになる魔力を抑えているからである。
「母に会いに行くことを止められそうにないことは、分かりました。でも、母と弟を傷つけるのであれば、俺はあなた方すべてに敵対します。容赦もしません」
静かな声とまっすぐに向けられる目が、シュリが本気であることを告げていた。
この国の従騎士であるにも関わらず、あまりにも不敬である言葉だったが、国王シュトラールが軽く手を上げて周囲を制し、シュリに問いかけた。
「魔物から命辛々逃げることができて互いが大切な存在であることは理解出来るが、カヤ殿、今はビビ殿か。そなたとなら親子というよりも姉のような年頃だろう? ……そなたは、一人の男としてビビ殿を守っているのだろうか?」
シュリは国王の問いに一瞬きょとんと呆気にとられた。
「一人の男として、ですか? 俺が、母さんを? ……ああ? ああ、違います。母は正確に義母です。実父がビビと婚姻しましたので、俺は父の連れ子ということになります。母に恋愛感情など持ちません。母は正しく母です。俺を育ててくれた母は、大切な家族です」
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