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「やめろ!! ジーク!! てめぇ何のつもりだ!!」


 突然すさまじい魔力を放出したジークに向かってエリックが声を荒らげた。


 魔力は冷気となって襲いかかってきた。エリックとオリヴァー以外は魔力に当てられて震えるだけで動くことも出来ない。


 左腕に着けられた魔力封じの腕輪がどんどんジークの魔力を吸い取っていく。


「ジーク!! やめなさい!! 腕輪が壊れる前に死んでしまう!!」


 魔力は有限であり、体力や生命力とも深く関係している。能力を超えて魔力を使うと、昏睡し、目が覚めないままやがて死を迎える。


「なんだって、いきなりどうしたってんだ!?」


 エリックが結界を張ろうとするが、ジークの魔力量が遥かに上回り、覆うことが出来なかった。


「クソがッ!!」


 ならば意識を刈り取ろうとエリックがジークを殴ろうとした時、結界がジークを包んだ。


「お前は、本当に成長しないね」


 ジークが更に魔力をぶつけようとしても、優しい光の結界はびくともしなかった。


 現れたのは、国王シュトラール。


 国王はジークに結界を張りながら入室してきた。


「陛下」


 オリヴァーがジークとの間に入り、膝を折る。


「よい。叔父上、ジークの腕輪を外してやってくれ」


「だがっ!」


「叔父上もジークが間諜などと思ってもいないでしょう。ジークがこうなるのは『落ち人カヤ』がらみだけだ。……行かせてやってくれ」


 エリックが渋々腕輪を外すと、ジークはすぐさま転移の術を編み、従騎士候補生が野営をする森へ飛んだ。


「俺が行く。オリヴァーは陛下の側にいろ。……いい加減、誰かが目を覚まさせてやらねばならんだろうよ」


 いつまでも振り向かない女の尻を追いかける末っ子に、ずっと業を煮やしていたエリックはそう言うや否や、同じく転移していった。


 残された国王は、目だけ森の方角へ向け、「健闘を祈る」と目を伏せた。


 オリヴァーは目を逸らした。


 自分が居ない時、エリックとジークを同席させてはならない。


 それはこの国の不文律でもあった。


 なんせ、「止める者」が居ないのである。


 国王陛下に「健闘」を祈られたのは、間違いなく従騎士候補生であると、オリヴァーには勿論分かっていた。





 カヤ。

 ジークが捜す最愛の妻。


 世間的には婚約者だが、婚姻の誓約をその身に刻み、花開いた二人は、実質夫婦だった。


 婚姻の誓約は、豊穣の女神の祝福。

 婚姻の誓約をした男女は、誓約をした時点で身体のどこかに誓約の紋が刻まれる。それは蕾で、身体を重ねることで咲き誇る。

 その花は、どちらかが死ぬまで枯れることはない。


 この誓約をすると、男性は他の女性と子作りが出来なくなり、女性は他の男性を受け入れなくなる。男性の浮気防止と女性の凌辱防止のため、もしも誓約した相手以外にそういうことになれば、いずれにせよ男性側が腐り落ちるという、一種呪いのような祝福である。一度誓約を結ぶと、花が枯れるまで誓約を解くことは出来ない。


 カヤはある日、突然この世界に落ちてきた異世界からの落ち人だった。


 この大陸には、様々な物が異世界から落ちてくる。


 大抵は壊れた状態の物だが、時折、未知の技術を保ったままの形で落ちてくる物もあり、国や人にとって「良いもの」である時と「悪いもの」である時がある。


 そして、落ちてくるのは物だけではない。


 既に死に絶えた状態でも、生きたまま落ちてきても、生き物は落ちてきた先の国に保護され、「良いもの」か「悪いもの」か判定される決まりとなっている。


 東の国に生きたまま落ちてきた娘。


 異世界の娘はこの国で保護され、護衛と判定にあたったジークがカヤに恋に落ち、やがて相思相愛になり、婚姻を誓い合った。


 当時の国内貴族の情勢は焦臭(きなくさ)く、ジークの生家であるファーレンハイト侯爵家と、国の権力者であったベルガード公爵家が抗争となり、ファーレンハイト家嫡男であるジークの兄の婚約者が命を狙われた。


 ファーレンハイト家は、披露前だった嫡男の婚約者を守るため、嫡男ではなく「ジークの婚約者」として嫡男の婚約者を周知し、ベルガード家を攪乱(かくらん)して一気に決着を付けた。


 その過程で、ジークは巻き込まざるを得なかったカヤに事情を説明していた。


 ベルガード家を潰すことに協力することが、侯爵家としてジークとカヤの婚姻を認める条件だと、他の誰にも聞こえないように魔術を使って、ジークはカヤに告げた。

 その後もカヤ以外が読めないように魔術を編んで手紙を何通も送った。


 カヤは、一切の魔力を持たない。


 その関係か、どんな魔術もカヤには非常に効きが悪かった。けがを治す治癒術も、身体を清潔にする洗浄の術も、カヤにはほとんどかからなかった。


 魔術をもって伝えられたジークの言葉も、ジークの手紙も、カヤには聞くことも読むことも出来なかったのである。


 故に、カヤはジークが他の女性と婚姻すると知り、話をしようとジークを追いかけた。追いかけて、追いかけて、王家から「迷惑だ」と国外追放を言い渡されたのである。


 その追放すら、王家とファーレンハイト家からしたら茶番で、国を出た所でカヤは保護される予定だった。


 しかし、カヤは保護される前に魔物たちに襲われ、行方知れずとなった。


読んでくださり、ありがとうございました。


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