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 アロイスは開いた口が塞がらなかった。

 むしろ貴婦人よろしく倒れてしまいたかった。


 けれども、仮にも現場を預かる指揮官が現実逃避するなど許されない。


 気力を振り絞って、シュリに確認をした。


「……で、お前の目的は叶ったのか?」


「んー……、いまいち分からない。母さんと副長の婚約者は別の人のはずなんだ。でも、噂通り『落ち人である愛しい婚約者を捜している』なら、それは母さんのことだ。なら、何で母さんを捨てたのか分からないし、ましてや国外追放されたのが矛盾しているし。母さんが薬師として活躍し出したのを嗅ぎつけたとしても、優秀な薬師なんて結構そこら中にいるし、そこまで捜すことでもないし」


 アロイスは地面に膝を突いてうなだれた。


「わ、どうした?」


 それを皮切りに、ミケーレを除く従騎士候補生たちが同じく地面に突っ伏した。


「え? どうしたの皆」


 シュリがその光景に後ずさった。


 一人立っている格好になったミケーレもぎょっとしている。


「……力が抜けた」


 アロイスが両手で顔を覆って呟いた。


「え、なんで」


「お前のその疑問の答えをな、この国の人間だったら皆知っているからだ」


「「は!?」」


 シュリとユーリの声が重なる。


「八年前、もう九年前になるのか? 副長の婚約者が行方不明になった時、国王陛下は包み隠さず国民に事情を説明したんだ。その上で副長の婚約者は捜索された」


「事情って言っても、入団式に説明されたことと同じだろ?」


 自分が探っても、入団式と同じような情報しか出てこなかったのだから。


「違う。詳細を説明された。だが、その後、婚約者の偽者が度々現れて、怒り狂った副長が魔力暴走を起こす度、王都は凍りつく被害に遭い、婚約者の名を呼ぶことも、当時の話をすることも禁止されたんだ。禁止されただけで忘れたワケじゃない。意味が分かるか?」


 シュリは意味が分からない。

 隣のユーリが溜め息をついた。


「つまり、兄さんは回りくどいことをしていないで、真っ正面から聞いてみれば良かったってこと?」


「そうだ。そうすれば、噂通り、ただ、ただ、愛しい人を捜す……哀しい人だとすぐに分かっただろう」


「……哀しい、だって?」


 シュリの気配が鋭くなった。


 もしかして、被害者ぶっているのだろうか。母を、捨てた分際で。


「シュリ、俺たちは覚えているんだ。……今はもう国王陛下から禁止されているが、婚約者が行方不明になってしばらく、副長が毎日毎日命を削って探索の魔術を大陸中に巡らせて、見つけられずに涙のような雪が舞うのを、毎日見ていたんだよ……。今日こそ見つかりますように、今日こそ見つかりますようにと、この国の民なら一度は願ったことだ。……噂は、そのまま本当だ」


 シュリが周りを見渡すと、従騎士候補生たちが皆すごい勢いで頷いていた。


 ただ事情が呑み込めないミケーレだけが所在無さそうに立っている。


 シュリは頭をポリポリかいて、溜め息をついた。

 この国に来てから、本当に溜め息が多くなったと思う。


 嘘を吐いて陥れるような同期ではない。気が合う合わないはあっても、共に励んできた同期なのである。ましてや、このことで嘘を吐く利点がまるでない。


 それくらいは、シュリにも分かっていた。


「……んじゃ、野営が終わったら直接聞いてみる。もしだ、もしも噂通りじゃなく、母さんを利用しようとして、うちの天使に何かしようとしてるんだったら、……容赦はしない。すべてに、だ」


 腐竜を一人で倒す男の本気に、従騎士候補生たちはゾッとしたが、「()()」はならないこともよく知っていたため、コクコクと頷いて、張りつめていた息を吐いた。


「よく分からないが、まとまったか? ……気持ちも行動の意味も、相手に伝わらなければ只の想像だ。きちんと話し合え」


 ミケーレがそう言って、周りの従騎士候補生たちの手を取って立たせていく。


 あれ……もしかして、一番常識(まとも)……?


 シュリ同様最年少のミケーレの株が、謎に上がった瞬間だった。


「皆、少し頭を冷やそう。警戒を怠るな。すぐそこは黒の森だ。何が起こってもおかしくない。シュリ一人に全てを任せるな。さあ、食事の準備だ」


 アロイスがテキパキと野営地の指示を飛ばし、夜に備えようとしていた時。

 突然何人か、「ヒッ」と息を吸って動きが止まったかと思えば、ガタガタと震え出した。


「どうした!?」


 周りの者が声をかけるが、歯の根が合わず、言葉を発せない。そして、皆震える指で一つの方向を指差した。


「兄さん」


 ユーリが鋭い声を出した。


「野営が終わらないうちに、直接聞けるかもよ」


 ユーリが睨む方向の先にあるのは、王都。

 震え出した魔力の高い候補生たちが指さす方向だった。



読んでくださり、ありがとうございました。


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