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 シュリの知るビビは、人の懐にすんなりと入り込む人誑(ひとたら)しである。


 しかし、最後の最後には壁を作って自ら退くのをシュリは散々見てきたのである。


 子どもに見られないように一人隠れて泣きながら。


 今回、ビビの話と商人の話の食い違いを見て、シュリは元からとてつもないすれ違いがあるかもしれないと予想した。


 母は人が怖いのだ。


 そして(ないがし)ろにされるのに「慣れて」いる。


 相手がほんの少しでも拒絶を示せば、自分から引いて行く。ほんの些細な「拒」でも、存在ごと否定されたかのように感じるのだろうか。


 ならば、東の国の話もとても大きな誤解やすれ違いがあるかもしれない。そう思ったからこそ、シュリは自分の目で見て聞いて、そして母の代わりに判断することを選んだ。


 そもそも報酬の七割取られて五年も我慢って、奴隷根性もここまで来ると卑屈すぎる。


 東の国にビビが見つかれば「終わり」かもしれないが、シュリは血の繋がらない家族である。容姿も似通っているところはなく、強いて言えば、ビビとシュリは黒髪で、シュリとユーリは緑の瞳という、三人揃えば、「ああ」という位の共通点しかない。緑の瞳も、シュリは深い森の緑で、ユーリは新緑の緑で同じ緑でもない。シュリだけを見てビビとの関係を疑われることはないだろう。


 また、東の国から何かを要求されるとしても、東の国に世話になったのは事実だとビビが認めたので、正当な要求であれば誠心誠意対応するつもりがシュリにはあった。


 他でもない、大切な自分の母の話なのだから。


 商人は商人で、ビビの情報を「すぐさま」報告せよとは言われてはいないと、ビビたちのことを国に報告することに猶予を設けることで折れてくれた。


 シュリとユーリは魔術で連絡を取ることが出来るので、いつでも居場所を確認でき、転移が出来るというのも、商人が折れてくれた一因である。


 鍵となるのは、ユーリの実の父、ビビの元交際相手。

 ユーリの実父は母と違う人を選んだので、ユーリの存在を知らない。


 シュリは「ユーリの実父は騎士だった」というビビの話から、東の国に行き、商人の推薦を得て従騎士候補生として騎士団に入団することにした。


 ビビはその騎士の名前を教えてくれなかった。


 王都の騎士であることと「見ればソックリだからすぐ分かる」と言って、寂しそうに笑っていた。


 ユーリの実父をまず見つけること。なぜビビを探しているのか。何を要求しようとしているのか見極めること。


 他にも色々あるが、大きくはその三つを確かめること。それがシュリの目的である。


 その目的のひとつが、入団式の日にあっさりとシュリの目の前にいた。大切な弟と同じ顔でそこにいたのである。

 驚かないはずがない。


 弟と同じ顔のジーク・ファーレンハイトの詮索は禁止されてしまった。


 それでも、なぜ母を捜すのか、探らなければならない。


 シュリに与えられた時間は一年。既に半分近くが経過している。


 時がくれば、シュリと共に東の国に戻った商人ウテシュがファーレンハイト家と国に報告する。


 捜している女性は名を変え、息子と共に冒険者として西の国の森境の町にいる、と。


 もしも、ビビの不安どおりに誤解も何もなく、この国がビビを食い尽くそうとしているのならば、西の国にいるビビとユーリが魔物たちとの戦いのどさくさで行方をくらませるまで、シュリは身を挺してでもこの国の追っ手を食い止めるつもりでいた。


 シュリにとって、母と弟はもう失いたくない家族なのである。


 そのために、シュリは自分だけ離れてこの国に来た。


 魔物から逃がしてくれた父や母や商隊の仲間たちは守れなかった。


 身重で後ろ盾もなく、生活する上での常識もままならない女性は、母としてシュリの手を絶対に離さなかった。


 謂われない罪で自身が鞭で打たれようが。

 謂われある罪で町を逃げ出そうが。


 自身が何日も食べておらずとも、一口でもシュリに食べさせ、抱き締めた。


 シュリが生き延びられたのは、ビビのおかげである。


 また、シュリが守る力を欲したのは、ビビとユーリのためである。


 黒の森からは魔物が現れ、どこの国でも森に接した町では、魔物との戦いが日常である。

 ビビはそんな魔物が現れる森深い所に生息する薬草を採取し、薬を作っていた。


 母と弟を守るシュリは、毎日を「生きる」ことで、強くなっていった。


 それはそれは、とても強くなっていったのである。



読んでくださり、ありがとうございました。


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