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「捉えました。通信と転移、それと治癒です。……かなりの遠距離転移と思われます」


 ジークの直下隊の第九師団第一隊随一の魔術師であり、ジークの副官のカールが、候補生の周辺で解析不能な通信と転移の術の痕跡を捉えた。


「転移、ですか?」


 オリヴァーが驚きの声を上げた。


 転移術は、近年西の国で開発された術で、多少魔力がある程度では編むことが出来ない高度な魔術である。


 エリックを始め、副長は三人とも習得していたが、魔力をごっそり持っていかれるため、多用は出来ない。


「誰かが来た? 何かを送った? 魔術は解析出来なくても何か分かんねぇか?」


 エリックがカールに問うと、カールは「あ、う」と困惑を隠せなかった。

 ジークを見ながら、言葉を選んでいるようだった。


「……何だ? 言ってみろ」


 ジークに促されてもカールは答えられなかった。そんな態度を取る団員ではない。


 ジークを崇拝し支える副官が、()()()()()()()()のである。


 瞬時も迷わず、オリヴァーはカールを床に引き倒し、拘束した。

 同時に、エリックが抜き身の剣をジークに向ける。


 ジークはほとんど反射でそれを避け、間合いを取って柄に手をかけた。


「……何の冗談だ。カールを離せ」


 目はエリックから離さずに、オリヴァーに告げる。


「お前よう、変なことしてねぇだろうなぁ?」


 剣を向けたままエリックが問うと、ジークは軽く息を吐き、柄から手を離した。


「……好きなだけ調べろ」


「いい子だ」


 エリックは剣を納め、ジークの腕に魔力封じの腕輪をはめた。


 これでジークは魔術を編んでも魔力が封じられて発動しない。


 ジークが大人しく腕輪をつけても、エリックの気配は剣呑なままである。


「分かったことを包み隠さず話しなさい」


 オリヴァーにそう言われ、拘束を解かれたカールは黙って頷くと、ジークを見て、やはり困惑しながら話し出した。


「まずは、私が先程、従騎士候補生の野営地で魔術の痕跡を捉える前から今まで、ここにいる副長はお三方とも何も術を使ってはいない、ということはよろしいでしょうか」


 三人はお互いを見やって頷いた。


「違いない」


 カールはゴクリと喉を鳴らして、意を決して答えた。


「通信も転移も治癒さえも、やはり見たことがない魔術の編み方です。ただ、魔力の特徴を捉えました。……ジーク副長の魔力と非常によく似た氷の魔力で……、ですが! 副長は魔術を使ってはいませんでした! こんなによく似た魔力を感じるなんて……」


 人間は誰一人同じ魔力を持つ者はいない。たとえ親子でも似ているだけで、魔力で区別が付くのである。逆に言えば、血縁関係が近い程、魔力は似てもおかしくないのである。


 ジーク・ファーレンハイトには両親と兄と妹が居る。


 ジークが魔術を使っていないのならば、親族が疑われてもおかしくないが、それはあり得ないことだとエリックもオリヴァーも知っていた。


 ファーレンハイト家の中で氷の魔力を持つのは、ジークだけだからである。


「俺と、似た、魔力」


 間違われる程に似た魔力を持つとしたら。


「俺の、子」


 捜しに捜している、妻が産んだ子。

 ジークにはそれ以外考えられなかった。


 ジークの理性の(たが)が弾け飛んだ。



読んでくださり、ありがとうございました。


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