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ロズフェード王立騎士団 ~ 従騎士候補生たちの受難 ~  作者: 千東風子


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 騎士団本部の一室にエリックの大爆笑が響いていた。


「あはっ……はははは! 痛快だな! オリヴァー!」


 笑いが止まらずヒイヒイ言いながらエリックはオリヴァーの肩を叩いた。


「いや、育ったな~今期の従騎士候補生は。お前んとこが一生懸命教育してたもんな? ジーク?」


 ジークは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


 第二隊からの報告を通信魔術で受けた第十師団長は、早速騎士団本部にて副長三人に状況を報告した。

 そこからエリックの笑いが止まらない。


 ジークの顔は第二隊の報告に対してではなく、エリックがウルサいためである。


「鮮やかですね。シュリ・マイヤーが全体の面倒を見ていたので、拠点を奪ってバラバラに引き離す作戦は定石通り。しかし、襲撃も拠点を奪われることも相手の想定内。明確な指揮系統と役割分担、バラバラにしてもまた集合準備まで。これは指揮官となっているアロイス・ベアトゥルと各班長との連携がきっちりしているのでしょう」


「最近彼女が冷たいけど別れたくないよう、って、関係者以外は想像も出来ねぇ暗号だな。考えた奴と別れそうな本人を誉めてやりたいぜ。しかし、まあ、頭がしっかりしていて手足が良く動く。理想の隊だねぇ。で? 何か動きは?」


 エリックが第十師団長に問う。


「は、魔術での通信は禁止しておりませんが、全て我々の管理下にあります。内容はもちろん、どの地点の誰から誰にされたかまで魔術の痕跡を追い解析しています。シュリ・マイヤーは一度、我々の管理外の通信を行いました」


 第十師団長の報告にジークの眉間に皺が寄る。


「相手や内容は?」


「不明です。魔術の編み方が独特で、何らかの通信であること以外、何も追えませんでした」


「魔術の編み方が独特? 大方の国の()は把握してんだろーに、分かんねぇのか?」


「我々の持っている情報とは一致しませんでした。魔術の痕跡もシュリ・マイヤーからの片方だけでしたので、誰かに何かの伝言を送っただけかと」


「ふうん? 黒っぽくなってきたねぇ」


「エリック、まだですよ。シュリ・マイヤーは他国の人間です。魔術の編み方が独特であることだけで、間諜判定は出来ませんよ」


「慎重だねぇ。じゃあ、なんで野営中に、誰に何の伝言を送るのさ?」


「私は、まだ、と言いました。次はどのように候補生たちに試練を与えますか?」


「うーん、調子に乗る前に、叩き潰しておくか」


 とても気軽にエリックは言い放った。





 地点『最近彼女が冷たいけど別れたくないよう』で落ち合った従騎士候補生は、その後、拠点を六度変えることになる。


『ママは永遠に僕のママ』

『足痒いブーツ嫌い』

『大きさじゃないって言ってみたい』

『朝起きたら枕に髪の毛いっぱいでツラい』

『何であいつはすぐ次の彼女が見つかるのさクソが爆ぜろ』

『騎士が大人男子のエリート集団だって信じてた私の心を返して』


 一切の手加減を止めた第十師団による総攻撃で、じり貧になってきたのである。


 本気を出した第十師団は、秒で従騎士候補生の拠点を制圧し、ぺぺぺいっと個人装備を投げて寄越す……を繰り返した。


 現在地『騎士が大人男子のエリート集団だって信じてた私の心を返して』は、ライーカの樹が視認できる程、黒の森近くの地。


 本来は避けるべき森の奥、黒の森の入り口。そこを選ばざるを得ない程、従騎士候補生たちは追い込まれてしまったのである。


「大人げない、本当に大人げないわ」


 女性団員がげんなりして呟いた言葉は、候補生たち全員の気持ちだった。


 生半可に統率と力を示した従騎士候補生に容赦なく襲いかかる一個師団。一千人以上の騎士と従騎士が本気で従騎士候補生を討伐しようと襲いかかってきていた。


 野営訓練の目的はどんな状況でも生き残る野営能力の向上だったはずだが、今ではすっかり「孤立無援の敵地から帰還せよ」となっている。


「いやあ、割とガチだね」


 のんきな声でシュリが言う。


 従騎士候補生たちは一班も欠けることなく団体行動をしていた。別行動も検討されたが、班ごとに行動すれば、瞬殺されるのが目に見えている。


 拠点も「即撤退」を主眼にし、作る度に手際が良くなって来ており、建築班は半日もあれば至る所に屋根を()き、便所を整え、シュリのように風呂まで掘れるようになっていた。


「お前が副長のことコソコソ嗅ぎ回ってる所為じゃねーか、よ!」


 一人がシュリに文句を言うと、そうだそうだ、と、あちらこちらで声が上がった。


 そもそも、連帯責任という異常な扱きも、シュリの所為だ。


 候補生たちの荒んできた心が攻撃的になった。


 良くない雰囲気になってきたのをアロイスが止めようとした時、ミケーレが静かに言った。


「誰かの所為にしても、物事は変わらない。扱きと言うが、不当なものではなく、すべて自分の能力になっている。これだけ先輩にやってもらっていて、何が不満だ」


 場が静まり返った。


 あいつ、喋れんだ……。


 いつも黙々と鍛錬をし、最低限の関わりしか持たない外国人が喋った。


 赤子が初めて言葉を話したかのような場違いな感動を皆がしている中、アロイスが言葉を引き取った。


「シュリがもし、今期の従騎士候補生にいなかったら、俺たちの野営の食生活や拠点がどうなっていたか想像してほしい」


 皆、黙った。



読んでくださり、ありがとうございました。



ミケーレ君はすっかり寡黙になっちゃいました。


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