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ロズフェード王立騎士団 ~ 従騎士候補生たちの受難 ~  作者: 千東風子


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 ガンガンガンガン!!


「敵襲!! 三、六、九方位!! 約二百!!」


 見張りをしていた寝ずの番担当が金属板を打ち鳴らし、魔術で声を伝達した。


 寝ていた従騎士候補生たちは全員飛び起きて臨戦態勢を取ったが、アロイスの指示が響き渡った。


「応戦はしない! 奴らの目的は装備品だ! 総員撤退!! 個人装備のみ持て! 後は置いていく! 落ち合う先は地点『最近彼女が冷たいけど別れたくないよう』だ! 散れ!!」


 アロイスの指示を飲み込んだ従騎士候補生たちは、三三五五(さんさんごご)に散って行った。


 それはあっという間の出来事だった。


 残された第十師団第二隊の面々は、騎士にあるまじきことではあるが、今まで従騎士候補生たちが拠点としていた場所で唖然と立ち尽くした。


「……まじか。なんであんなに統率がとれてんだ?」


「おい、しかも見て見ろよ。この三日で『村』並の生活基盤じゃねえかよ」


「便所だけじゃなくて風呂まである」


 第二隊は総員を以てこの拠点を奇襲し、拠点を破壊し装備品を奪うことを目的としていた。


 築き上げたものが無くなることは良くあることで、装備品が奪われることも良くあることだ。


 スタート時よりもマイナスの状況に落とす。


 絶望するがいい、と悪い顔をしながら観察を続けていた。


 従騎士候補生が温かいスープを食べているのを見ながら身を潜め、自分たちは携行食をもそもそと食べ、拠点がほぼ出来上がったこのタイミングで仕掛けたのである。


「……指揮官は、ベアトゥルだったな?」


 第二隊の隊長が苦い顔をして先行班に問い質した。


「はい。アロイス・ベアトゥルが撤退命令を出していました」


 命令内容を一言一句聞いた第二隊長は、自分たちの目的と行動が筒抜けだったことを悟った。


 これがもし、戦で敵陣だったら、返り討ちにされて全滅していたかもしれない。


 敗北。


 自分たちの半数ほどの人数しかいない従騎士候補生に、本職の騎士一隊が、負けたのである。


 個人装備品は何一つ残っていない。拠点は奪ったとも言えるかもしれないが、彼らはここを捨て、我々は捨てられた拠点に入っただけ。


 第二隊長は怒りと屈辱、そして少しの愉快さを息一つ吐いてやり過ごし、団員たちを整列させた。


「ご苦労。我々の作戦は失敗に終わった。意味は分かるな?」


 団員たちは息を吞んだ。


 従騎士候補生ごときに後れをとったと他隊に知れては、嘲笑される未来しかない。


「敗北は恥ではない。隠すことが恥だと知れ。相手を侮り、我々の副長へ無礼を働く小僧への私怨から、我々の目は曇っていたかもしれない」


 今期の従騎士候補生への鍛錬を厳しく行ってきたのは誰もが認識している。

 それは、敬愛する副長ジークに対する無礼を許せなかったからということもある。


 他の従騎士候補生には関係ないことかも知れないが、騎士団は総じて連帯責任(脳筋の集まり)である。


「……挽回するぞ。そのためには我々の、我々だけではなく第十師団の、ひいては騎士団全体の認識を改めなければならない。我々は副長と共に西の国には出征しない。副長自ら留守の間の国境を頼むと我々第十師団に頭を下げられたのを忘れていないな? 我々の使命は、今期の従騎士候補生たちを速やかに鍛え上げることだ」


 隊長は更に声を張り上げた。


「だが、いいか! この時から従騎士候補生への試練などと生ぬるいことは捨てろ。これは騎士としての生存競争だ。今期の従騎士候補生たちは、既に騎士団として成立した集まりだと思え」


「そこまでっ……?」


 若い団員の呟きに第二隊長が諭す。


「この拠点を、お前たちは三日で作れるか? まあ、作れるだろうな。そして、苦労して作った拠点を俺のたった一言で捨てられるか? まあ、命令には従うだろう。それは、お前たちが騎士であり経験を積んだ従騎士だからだ。それをあいつらは、候補生でやってのけた。散開した後の集合地点まで決めていた。俺の、お前らの従騎士候補生時代に、同じことが出来たと思うか?」


 出来た、と言いたい。

 一人一人の能力は劣っているとは思わない。だが、『団』として成り立っていたかと問われると、(いな)


「俺は師団長に報告をする。お前たちはこの拠点を活用して休め。使える物は貰っておけよ。班長は交替で見張りを決めて立てておくように」


 団員たちが騎士の敬礼で了解を示す。


「……あと」


 第二隊長の真面目な顔に団員たちに緊張が走る。


「地点『最近彼女が冷たいけど別れたくないよう』……って、何だ? っていうか、どこだ?」


 それには誰にも答えることが出来なかった。



読んでくださり、ありがとうございました。


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